びっくり。
「ミラ平気? 痛くない?」
「大丈夫ですよ! 叩かれた瞬間『治癒』を使いました! リルさんに当たらなくて良かった」
「大した怪我じゃなくて良かったよ」
「ミラさん、ごめんなさい。わたしが余計な事を言ったから」
「……悪かったな。ガキとはいえ、ロイドの奴が手を出すとは」
お前もガキだ!殺気漏れて馬鹿みたいな理由だけやる気満々だったじゃん!許してねえからな、このやろう!
「クリスとおじいちゃんに感謝するんだね。二人が来なかったら私も手が出てたよ」
「だから悪かったよ。だけどな朱里、俺達にとって『格』っていうのはお前が思っているより大事なものなんだ」
「ご主人様、そこは分かってあげて欲しい。特に今回は三人の魔王が誕生して只でさえ優劣がつくんだ」
「分かったよ。私はそんなの気にしないから二人で好きなだけ『格』の取り合いでもしてればいいよ」
多分おじいちゃんは上手いこと魔王をやっていたんだろうな。
ムポポペサの魔物や魔獣達を見てればそんなの馬鹿な私だって分かる。
こいつらが魔王なんて平気なの?不安しか無いわ。
「ロイドの野郎はよ、あんなスカした見た目してるけど『小竜王』なんて言われててよ。まだ本当に子供なんだよ。そこのフェンリルの嬢ちゃんと大して変わらねえ筈だぜ」
「え? わたしと?」
ロイドが子供? あんな見た目で?
「史上最年少で竜族の長になり、竜族で初めて魔王になったんだ。スカして見える態度も精一杯の強がりなんだよ」
「アンタそこまでロイドの事分かってるのに何で喧嘩してたんだよ」
「俺のお節介がアイツには気に食わないお説教なんだろ。まあ、俺も直ぐに頭に血が昇るのはガキって事だけどな」
「まあ、いいよ。領地はアンタ達で好きに選びな。私は余った所でいいから。どうせ会議が終わったら勇者を追うんだし、領地なんて持ってても何も出来ないしね」
酔っ払い二人が乱入した会議は途中で中断。まあ、そうじゃなくても私が暴れて中止だったと思うけど。
ロイドの奴はどっか行っちゃうし、再開はもうしばらくかかるかな。
「クリスの口から出て来た訳わからない物体の片付けはオイラがやっておくから。ご主人様はじっちゃんとクリスの所に行ってあげなよ」
「えー!? 二人ともお酒臭いから行きたくないなあ」
「琥珀ちゃん、私も手伝うよ」
「リルも一緒に行ってあげて。大事な話がある筈だよ」
「そうなの?」
「酔っ払いが大切な話なんて出来るかね?」
「じっちゃんは少し寝れば大丈夫。直ぐにお酒抜けるから」
おじいちゃんは平気でもクリスがダメだろうな。でもリルちゃんが元気無いし、気分転換にはいいのかな。
「ここは私が手伝いますので! リルさんも行ってきていいですよ!」
「でも」
「リルさんは優しい子ですね。貴女は何も悪く無いんですよ。私だって朱里さんの部下みたいなもんですから、朱里さんの大事な人を守るのも仕事の内です!」
「私にとってはミラも大事な友達だし、あまり無理はしないで欲しいな。でも、リルちゃんを守ってくれてありがとう」
「お安い御用ですよ。さあ、いってらっしゃい」
「ありがとうミラさん」
さて、と。おじいちゃんとクリスの所へ行くとして。大事な話ね、なんだろう?
クリスは普段おちゃらけてるし、すっとぼけてるけど、妙にお金集めたりして何か怪しいんだよな。
……お金?そういえば、なんでクリスの奴あんなにお金集めてるんだろう?
私たちの旅でそんなにお金使うことなんあった?確かに泥舟沈殿丸に乗ったり、雅に泊まったりはしたけど。
あいつ、まさか。
「朱里ちゃんもごめんね。わたし何かダメダメだなぁ」
「なんで謝るの? 元はと言えば、私が椅子に飛び乗ったのが悪いんだし。謝るなら私だよ」
「でも」
「はい、この話はもうお終いね。いつまでも気にしてたらダメだよ」
「うん」
この先リルちゃんを連れて行って大丈夫なのかな?正直、私は針鼠に会って話を聞いてみたい。でも相当危険なんだろうし、皆に反対されるし、止められるだろうけど。
無理矢理振り切っても、きっと皆ついてきちゃう。だけど、そうしたら巻き込んじゃうよね。
……リルちゃんも巻き込んじゃうよね。
今考えても仕方ないかな。まずは話を聞きに行こう、クリスの話を。
もしそれで私の考えてる事がクリスと同じだったら、その時は。
「ここって言ってたよね? 二人共大丈夫かなぁ?」
「おじいちゃんはともかく、クリスの奴が悪酔いしてなきゃいいけどね。おーい、入るよー」
ん?うわっ、酒臭っ!!
「ちょっと、クリスちゃん! なんでまたお酒飲んでるの!?」
「ひっく、バーロー! これが呑まずにいられるかってんだい。僕は針鼠さんに会いたいんですよ!? 恋焦がれているのですよ!? それが邪魔ばかり入っちゃって。僕、悲しい!」
(針鼠?クリスちゃんが?)
こいつ、やっぱりお布施のお金を集めてたのか。
「おお、朱里にリルか。スライム君が止めても聞かなくてね」
「もう、取り上げちゃえばいいんだよ! おじいちゃんは甘いよ! おい、クリス! お前いい加減にしとけよ!」
「そ、そんな事、ヒック。言うなよう、ヒック」
「な、泣いちゃったよ。クリスちゃん酒癖悪くない?」
「お、リルちゃんじゃないか。どうだい? 君も大人の階段登ってみるかい?」
「ちょ、ちょっとクリスちゃん!?」
「おまっ、何リルちゃんにお酒呑まそうとしてんだ馬鹿!」
「馬鹿に馬鹿って言われた。なんて事だあ!」
め、めんどくせえ!
「私はお酒呑んでもそんな風にはなりません!」
「え、リルちゃん? お酒呑めるの?」
「え? 呑めるけど、なんで?」
いや、こっちが聞きたいよ。ムポポペサって未成年お酒呑んで平気なの?
そういえばリルちゃんっていくつなんだろ?
「朱里、魔物は基本的にお酒が好物なんだよ」
「あ、そういう事ね。はは、リルちゃんが私より歳上かと勘違いしちゃったよ」
「ええー! そんな事思ってたの? ところで朱里ちゃんって、いくつなの?」
「私? 今年で十八だよ!」
「え?」
「だから、十八。 もっと老けて見えた? 酷いなぁ」
「え?」
「なんでお前は素に戻ってんだよ」
「しゅ、朱里ちゃんって、私より歳下だったの?」
「朱里って、まだ子供だったんだね」
「は? リルちゃんが歳下?」
「わたし、二十歳だもん」
リ、リルちゃん。いや、リルさん。アンタ、その幼さで二十歳は反則だよ。
私のいた世界に来たら、その手の人がほっとかないよ。




