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竜。

「ご主人様はもう少し警戒心を持たないとダメだと思うよ? 名前も間違うし。きみまろじゃなくて霧丸だからね」


「霧丸か! ごめん、ごめん!」


「まあ、オイラも先に言ってなかったのが悪いんだけどさ。さっきみたいなシュチュエーションで争いが起こる事もあるから気をつけないと」


「はーい、気を付けます」


 琥珀は前魔王の側近もやってたから場慣れ感が凄いね。頼りになるなあ。


「なんか、わたし側近として全然役立ってない」


「どうしたの、リルちゃん。元気だそ?」


「琥珀ちゃんは、相手が魔王でも毅然とした態度で対応してた。けど、わたしは何も出来ない。ただ見てただけ」


 そんな事気にしないでいいのに。私だって魔王として何も出来てないと思うんだけどな。


 なんだよ、きみまろって。私の耳は腐ってるんじゃないか?


「気にしない方がいい。オイラも最初は苦労したよ。猫の王様って言ったって、何かをしてた訳でも無いし、初めて側近をやった時なんて何も出来なかった。リルはご主人様と仲がいいだけずっとマシさ」


「……そうなの?」


「そうだよ、いつも通りでいいんだ。自分を大きく見せなくったって、カッコつけなくてもいい」


「ですね。リルさんが朱里さんの側近に選ばれたのは、その信頼関係があったからこそです。他の誰にも真似できないものがリルさんには最初から備わっているんですよ」


「側近の仕事なんてやってたら自然に覚えるよ。覚える気が無くてもね。肩肘張らずに自然体が一番だよ」


「自然体、かあ。ちょっと焦ってたかも。今まで通りでいいなら頑張れるよ。ありがとう、琥珀ちゃん、ミラさん」


「オイラ達は同僚なんだ。気にしなくていいよ」


 リルちゃんは琥珀がいれば大丈夫そうだね。いいコンビになってくれると私も嬉しいよ。


「ところで朱里さん気付いてました? 竜族の魔王も近くにいらっしゃってますよ」


「え? 嘘! 全然わからなかったよ? どこ!? まさかあそこで畑仕事してる人!?」


「違います、違います。気配消すの上手いんですよ、あの種族は。普段はムポポペサの深い森の中で生活をしています。私もあまり詳しい事は分かりませんし、謎の多い種族なんですよ」


「朱里ちゃん! 見て、あそこ!」


「はっ、本当だ! アレ? でもなんか想像してた龍と違うリルちゃんみたいに人型だ」


「竜族は人に変化出来ますからね。竜族じゃないのに人型に変化出来るリルさんは本当に珍しいんですよ」


 横の側近は鹿だね。さっきの生意気な烏と違って神々しい。神の使いってだけあるね、さっきの生意気な烏と違って。


「やあ、朱里。魔王就任おめでとう」


「あ、どうも」


 霧丸と違って落ち着いてる雰囲気だな。


「わ、私は朱里ちゃんの側近のリルです! フェンリルです! 覚えてくれると嬉しいです! いきなりですが会議の前に魔王同士が話をしたらいけないんですからね!」


 リルちゃん!琥珀の真似してるの!?ちょっと可愛すぎんか?


「おや、これは珍しい。人型のフェンリルかい? よろしくね、リルちゃん。ご挨拶だけでもしておこうと思ってね」


「あ、挨拶だけで済むなラララ、いいですけどね!」


(リルちゃん焦りすぎて、ラララって歌ってるみたいになってるじゃないか!いけない!笑ったらいけない!)


「狼の名にふさわしく誇り高いのが見て取れる。一生懸命に側近としての役割を果たそうとしているね。中々出来る事じゃ無いよ」


「ほ、誇り高き狼ですって!? 褒めたって何も出ないんですからね!」


(リルって尻尾ブンブン振ってるのは無意識なのかな?)


「わーい! 朱里ちゃーん! 褒められちゃったー! えへへー!」


「よかったねー! 偉い、偉い!」


(朱里さんが飼い主にしか見えませんね)


《今度は間違わないでよね、ご主人様。竜族の魔王の名はロンド・ニールナーサスだよ。間違わないでね》


 ろ、ろん、何だって?間違える以前に長いよ!覚えられん!


「それにしてもフェンリルに懐かれるなんて中々無いよ。君は主として素晴らしい素質を持っているんだね」


 やだ!私まで褒めてくれるの!?最近馬鹿にされてばかりだから嬉しい!


「改めまして、私の名はロンド・ニールナーサスだ。ロンドでいいよ」


「よろしくね、ロンド。そちらは?」


「彼は神鹿のカルアだよ。ほら、カルア挨拶して」


 はあ、すごい。ツノが立派。目がキラキラしてる


「彼女はとても無口でね、滅多に口を開かないんだ。その代わり脳内に直接話しかけてくる。頭に声が響いて来たら彼女だと思ってくれていい」


「はえー、そんな事が出来るんだね。いつか声を聞いてみたいね」


「じゃあ僕達は先に行かせて貰うね。行くよ、カルア」


 行っちゃった。霧丸と全然タイプが違うな。


「ご主人様、絶対に油断しない方がいいよ。最初に言っておくけど、組むなら絶対に霧丸だ」


「組むって、そんな争う訳じゃないんだから」


「ロンドが魔王になった理由は勇者と同じだ。自分達が一番の種族と思ってる。ムポポペサを支配したいんだ。竜族はそういう種族なんだ」


「……そう言われる事が多いですね。そんな感じはしませんでしたけど、先代の竜族の長はそんな感じでしたね」


「大丈夫だよ、朱里ちゃん! 私は絶対油断しないからね!」


(アンタが一番油断してたよ!だ、ダメだ!笑っちゃう!リルちゃんもう喋らないで!」


「ねー! 油断しないもんね!」


(ご主人様はリルに甘々だな。ふう、そろそろいいかな?)


「じっちゃん! 見てたでしょ? これが今回の魔王達だよ!」


 じっちゃん? あ、あの畑仕事してる人が!?じっちゃんって事は前の魔王!?


「あ、先代じゃないですか! 全然気付かなかった。私、気配探知はかなり自信あるんですけどね」


「あのお爺ちゃんが魔王様? 写真とかテレビで見た魔王様と全然違う」


(確かに。大会で見た時より老けたんじゃない? なんかもう少し若かったような)


「寿命なんじゃよ、寿命。定年って事にしておいたけどな。長生きしていても永遠の命って訳じゃないんだ」


「うわぁっ! びっくりした!」


 は?まじで!?さっきまで畑にいたのに、いつの間にか後ろで茶を啜って団子を食べているだと!?


(何だって?心が読まれた!?)


「儂の得意技の一つじゃよ。フェンリルが頑張っていた時に心の中で大笑いしてたスライム君」


「な、なに!? あの時から既にだと!?」


「ちょっとクリスちゃん。笑ってたってなに? 後で話聞かせて貰うからね」


「は、はい。でもあのお爺ちゃんの勘違いだよ。うん」


「じっちゃん。体調はどう? 畑仕事も適当にやらないと腰痛くするよ」


「動いていない方が体調も悪くなるってものよ。ミラ、聞いたよ。女神の役職クビになったそうじゃないか」


「はい、残念ながら」


「朱里と世界を見るのが運命だった、という事じゃな」


「私もそう思ってます」


 なんかすごい優しそう。これが魔王?


「やあ、朱里。君の一つ前の世代の魔王じゃよ」


「は、初めまして。朱里です」


「朱里、君が魔王になってくれてとても嬉しいよ」


「は、はあ。ありがとうございます」


「お父さんとお母さんは元気かい?」


「え? 元気、ですけど。なんで?」


「君のお父さんとお母さんは転生してムポポペサに来たんじゃよ。そして儂の側近を務めていた」


「お、お父さんと、お母さんが転生? 側近?」


「そうだな……会議まで時間はある。どうじゃ?少し話すか? まだ整理しきれていないんじゃろう?」


 なんだろう?この人と話してると、すごい温かい気持ちになる。


「はい、是非。お願いしてもいいですか?」


「もちろんだとも。琥珀、スライム君とミラを城内に案内してあげなさい。それと幼いフェンリルや、君はこっちにおいで」


「えっ? わたしもですか? でも」


「リルちゃん、いいんだよ。こっち来て。私バカだから話された事すぐ忘れちゃうし」


「う、うん。分かった」


 先代は私達を近くの公園に連れて来てくれた。そして語り出したんだ。


 それは、私も知らない、私の話。



 ——



「じゃあ、オイラ達は城に行こうか。ミラ、クリス、こっちだよ」


「はい、行きましょう」


(心を読まれたのか。いつからだろう?深層心理まで読めるならバレたかも知れないね)


「クリス、じっちゃんの前では隠し事は出来ないよ。僕は口が固いけどじっちゃんが話してしまったのなら諦めるんだね」


「ふむ、厄介だね」


「とりあえず行きましょう。さあ」


(うーん、困ったものだ。人間に戻りたくてもこれじゃあ戻れないよ。いっその事、単独行動か?しかし勇者が動き出し、魔王達の領土分配もまだ決まっていない。……もう少し様子見か)


「クリス、君が針鼠に会う為にする行動はご主人様に毘沙門の領土を確保して貰うように誘導する事。残念だけど、それは阻止させて貰うよ」


「なんでさ? 僕が針鼠に会って願いを叶えても琥珀には何の害も無いよ」


「オイラは側近だよ。ご主人様が悲しむと分かっている事を防ぐのも仕事の内」


「優秀だね。それにしても朱里が悲しむ? はは、んな馬鹿な」


「リルさんだって悲しみますよ? クリスさんは人の気持ちを読むのが下手っぴですね」


(あの二人が悲しむ?うーん。想像出来ないな)


「まあ、あの二人が帰って来てからだね。話の続きはそれからだ。案内するよ」




 僕にとってあの二人は大切な友達。だけど、それ以上に大切な何かがあるんだ。


 そうしないと絶対にダメなんだ。


 それはきっと言っても分かってもらえない事。


 僕の選択は何が一番正しいんだろう。


 とりあえず、今は二人を待つしかないかな。

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