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鬼。

 くっ!なんなの?この魔獣の強さは!?私のどすこい滅殺魔法『四十八手』の内、四十七手が通用しないなんて!


 今までこんなに強い魔獣に出くわした事はないよ!


 私一人で勝てるの!?井太利亜の海先輩、私もうダメかもしれないよ!


「お前の実力如きで魔法少女だと? はははは! 笑わせるな! ヘソで茶が沸いて吹きこぼれた熱々のお茶でお腹が火傷するわ!」


「くっ! 火傷したら大変じゃない! ちゃんと火傷した所にアロエの果肉を貼り付けないと跡が残るわよ! アロエは皆さんも知っての通り、別名『医者いらず』と言って火傷にはとても良いのよ!」


「うちの実家では昔から火傷には味噌を塗ると決まっておるのだ! 余計なお世話なり!」


「何ですって!? 味噌を……塗る? そ、そんな馬鹿な。か、勝てない。勝てないよ! もうダメ。助けて! 井太利亜の海先輩!」


「待てーい!」


 この声は井太利亜の海先輩!?


 違う、別人だ。先輩はあんな化粧まわしをつけて仮面舞踏会に参加するような仮面はつけていない。


 だ、誰?あの変態は。


「騙されるな! 火傷には昔から胡瓜のすりおろしと決まっているんだ!」


「なんだと!? すりおろした胡瓜だと!? ば、馬鹿な!!」


 魔獣が膝を付いて崩れ落ちた!?


「さあ、今だ! 朱里どん!」


「は、はい!」


 悔しいけどあのド変態の言う通り!今しかない!ここで決める!


「いっくぞー! どすこい滅殺魔法最終奥義『四十八手』合掌捻りレボリューション!」


「な、なに!? 合掌捻りだと!? 相手の体の後ろで合唱している様から名付けられたあの幻の!?」


「これでダメなら、もう私はこの体に巻きつけたダイナマイトで自爆するしかなくなる! でもそうなったらこの町は火の海に包まれてしまう! だからお願い! これで決まって!!」


「ぐ、ぐわあー!!!」


「やったな! 魔物がひっくり返ったぞ! 見事な合唱捻りだ! 朱里どん」


「はあ、はあ、はあ。私、ひっくり返せたの? 良かった」


 はっ!あのド変態は!?今すぐに警察に通報しなきゃ!


「……いない。消えた?」


 そういえば何で私の名前を?


 ぞぞぞー!もしかしてストーカー!?


 う、安心したら、意識が遠のいてきた。


「ふふふ、気が抜けて意識を失ったか。全く手のかかる子猫ちゃんだ」


 私、頑張ったよ。井太利亜の海先輩。


 だから神様お願いだよ。


 私に彼をデートに誘う勇気を。


 一度だけ私に下さい。


 あ、後もう一つ。あのド変態を早く逮捕して下さい。




 ※火傷の民間療法を一部ご紹介致しましたが、万が一火傷を負ってしまった場合は、医師から適切な治療を受ける事を強く推奨致します。



        —————————



「すごいねー! ユニコーンが馬車引くなんて素敵!」


「じっちゃんの馬車を借りてきたんだ。これならすぐにお城に着くよ」


「しかもこんなTVがついているなんて、流石、魔王が使ってた代物だね」


「やってるアニメは意味わからないけどね。何これ? 魔物の考えるアニメはよく分からないね」


「合唱捻りレボリューションってなんだい? 朱里なら詳しいんじゃないの?」


「私は『恋☆どす』が好きな訳であって相撲には詳しくないよ。そこんところ履き違えないでよね」


「ふーん、そうなんだ。ま、いいか」


 魔王の城までは半日程度で着くらしい。それまではのんびりと馬車の旅だ。


 こりゃ楽でいいね。


 そういえばあまり気にしてなかったけど、残り二人の魔王ってどんな奴だっけかな?


 お、思い出せん。


「ねえ、ねえ。残りの魔王ってどんな奴だった?」


「何で朱里が知らないんだよ。竜族と鬼族の長だよ。二人ともまだ若くて、とても強かったよ」


「あの二つの種族は代替わりしたばかりですからね」


 ふーん、そうなんだ。色々いるんだね。シンディさんは豚族だったよね?元気にしてるかな。


 また豚骨ラーメン食べたいなぁ。

  

「ここら辺で少しユニコーンを休ませよう。ご主人様はそれでもいいかい?」


「うん、もちろん。ねえ、琥珀? 他の側近の子達はどんな子達なの?」


「ご主人様が側近の大会を見ているはずなのに、何も知らない事はとりあえず気にしなくて平気?」


「平気、平気。どうせリルちゃんしか目に映ってなかったんだよ。この魔王様は単純だからね。琥珀も苦労すると思うよ」


 く、この野郎。だけど図星だから何も言えん。実際リルちゃんの神々しさに目を奪われて他は何も見えていなかったのは事実だよ。


「なるほどね、心得とくよ」


「面目ない」


「謝る事じゃないよ。仲間想いで、いいご主人様だ。これからもその気持ちを忘れないでほしいね」


「朱里ちゃんは平気だよ。会った時からずっと変わらないもん。そのままの朱里ちゃんだよ」


「まあ、今更取り繕ってもね。馬鹿も盛大にバレたし」


「残りの側近は烏と鹿だよ」


 動物ばかりなんだな。会議室がペットショップみたいになりそう。


「そうなんだ。私の側近が猫とい、狼で良かった。二人とも可愛いもんね」


 やば、犬って言いかけた。誤魔化せたかな。


(猫じゃないんだけどなあ。まあ、ご主人様が嬉しそうだからそれでもいっか)


(そ、そんな!今、絶対犬って言いかけたよね?朱里ちゃんまでわたしの事を犬って思ってたの!?)


「ミラさん。わたし、もっと威厳出したい。時代は威厳だよね」


「そ、そうですね。でも今のままでも十分威厳ありますよ?」


「そ、そんなぁ! お世辞でしょ? ねえ? ……本当に? どこが? 早く言って」


「え、えっと! ……牙とか爪とか?」


(くっ!そんなの誰でもあるじゃない!もっと頑張らないと!)


 あ、バレたなこれ。あとで謝ろう。


「朱里、烏と鹿は神の使いだよ? 相当優秀な筈だよ?」


「へ、へえ! そうなんだけど知らなかったよ。魔王に会うのも楽しみだけど、側近に会うのも楽しみだね! ね、リルちゃん!」


「そうございますね」


 なんかキリッとしてる。可愛いなあ。


(こういう所が犬と勘違いさせる原因なんだろうけど可愛いから黙っとこ)


「さあ、お話もそこまでにしてね。ユニコーンの休憩も終わったし、そろそろ行こうか」


 残りの旅路を終えた私達は魔王城の前にたどり着いた。


 目の前に聳え立つ城は想像していたよりずっと小さく、城というよりも少し大きめの家って感じだった。


「なんか想像と違うなあ」


「朱里ちゃんも? なんか普通のお家だね」


「じっちゃんは質素な生活を好んだからね。魔王と側近だけが暮らしてるんだ。これでも大きい位だよ」


「先代は魔王らしくない方でしたね。私も女神就任時にご挨拶しましたが、とても優しい方でした」


「そういえばさ、オイラの聞き間違いだといいんだけど、ミラって女神クビになったの?」


「だ、誰からそれを」


「じっちゃんだよ。連絡きたって」


「実はそうなんですよ」


「何でも、もう次の女神様決まったらしいよ?」


「ええ!? ……早いですね。でもいいんです。私は朱里さんに仕えているんですから」


「僕が気になってるのはミラのポジションだよ。朱里はもう決めてるの?」


「そりゃあ……ねえ? アレだよ、ほら!」


(あ、これって私の扱い困ってる感じ?)


「アレだって言ってんだろ! 馬鹿クリス!」


「なんで急に怒るのさ!?」


 このやろう!いきなり繊細な話振りやがって!決まってねえよ!


 私自身が何やるのか分からないのに、決めらんねえだろ!


「オイラが思うに、ミラはご主人様の『参謀』だね。彼女はおっとりしてるけど、その知識はかなりの物だよ。まさに『参謀』がうってつけさ」


 こ、琥珀ぅ!アンタなんて優秀なの!?さすが私の側近!クリスとは大違いだわ!


 でもサンボーって何!?分からない!あとで聞かなきゃ!


「そう。私もソレが言いたかったの。サンボーよ。サンボー」


「えへへ『参謀』かぁ。朱里さん、私は頑張りますね」


 良かった、なんとか切り抜けたね。……ん?


 でかい気。これって。


「朱里ちゃん、あそこ見て。あ、近づいてくる」


「うん。あいつが魔王かな?」


「よう、朱里か? 大会振りだな」


 大きなツノが一本生えてる。コイツが鬼族の魔王か。全然覚えてねえ。


 こんな奴いたか!?


「よう、久しぶりだな。待ってたぜ! えっと、その、えーと」


《ご主人様、彼は霧丸だ。鬼族から選出された魔王だよ》


 なんて優秀なの!?琥珀が本当に優秀で助かる!しかも私に聞こえる位の小声で教えてくれるなんて気が効くのね!


 よし!これで格好つけられるね!


「よう、久しぶりだな。きみまろ」


「ごほんっ、あーあー! あれ? なんか喉が痛いなぁ!」


「大丈夫? 猫風邪引いちゃったの? ワクチンはちゃんと打たないとダメだよ」


「お気遣いどうも、ご主人様。そうだね、今度、病院予約しておくよ」


(琥珀もこれから苦労するだろうな。心中察するよ)


「魔王・霧丸様。私はご主人様の側近である琥珀と申します。以後お見知り置きを。早速で申し訳ないのですが、会議前の接見は禁じられている筈ですが?」


 おお、琥珀がカッコいい!


「琥珀か、覚えておこう。しかし、少し生真面目すぎやしないか? 挨拶くらいいいだろう?」


「もちろん挨拶だけなら構いませんよ」


 ん?琥珀、怒ってる?


「そう殺気立つな。心配せずとも朱里とは今やり合う気はねぇよ。今はな」


「まあ、まあ、いいじゃん。挨拶だけって言ってるし。琥珀ありがとうね」


 こいつが鬼族のきみまろか。連れている側近は烏だね。ん?


 な、なんだこの烏!目つき悪いな!


 ずっとガン飛ばして来やがる!やる気か?こんちくしょう!


「霧丸様、この女は実力があっても頭は空っぽのピーマンみたいな奴ですよ。馬鹿が移るといけないのでサッサと城に入りましょう」


 しかも生意気! 焼き鳥にしたろか!?


「ふっ。上手い事言うもんだね。朱里の事、ピーマンだってさ。例えるならゴリラもオススメだから覚えておいて。もっともゴリラは頭がいいけどね」


 こ、こいつ!マジでクリスには一回お灸が必要だ!何で私の悪口で烏と張り合ってんだよ!


「いいね、覚えておくよ。さあ行きましょう。霧丸様」


「はは、八咫烏の口の悪さは元々なんだ。大目に見てやってくれ。じゃあ、また後でな」


 


 生意気な烏と鬼族の魔王か。


 八咫烏にきみまろ、覚えたよ。


 とりあえずあの烏だけは許さねぇかんな。


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