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デビュー。

 はあ、はあ、おえっ。


 これは師匠に誉められるのでは!?自分でも驚きを隠せない!ここまで早くモルティプに辿り着く事が出来るなんて!


 はあ、はあ、はあ、おえ。やべっ、吐きそう。ううっぷ。


 俺は愛しのお銀に1日でも早く逢う為にひたすら走って、ひたすら泳いだ。ひたすらに真っ直ぐに。


 スタミナは無地蔵に上がり、走力は原付並の脚力。


 途中、鯱に襲われるという杞憂もあったが、度重なるムポポペサ海峡横断の末に、俺はバショウカジキを遥かに超える泳力を手に入れる事にも成功し、鯱をいとも簡単に振り切る事に成功した。


 あばよ、鯱。今度俺に挑む時はジェットスキーでも持ってくるんだな。


 そうだ!今年の『ムポポペサトライアスロン』は絶対に出よう!


 その優勝賞金でお銀との新婚旅行も悪くないだろう。ふふふ。


 み、見えたぞ、あそこだ。


 お銀、待ってろよ!今行くぞ!……ん?


 なっ!?西部劇でよく見る丸いやつがコロコロしてるだと!?


 大会が延期?再開予定未定?


 お、お銀は、師匠達は?まだホテルにいるのか?


 そうだ、ホテルだ!高い所は大の苦手だが、利用者以外は決して入れない厳重な警備のあのホテル。仕方がない、また登るか。


 こうして俺の命懸けのクライミングがまた始まった。


 相変わらずの絶壁、風も強い。


 あ、あれ?あわわ、わわわわ。


 こ、怖い!何で!?


 二回目の方がこ、怖い!


 バババババババババババッ!


 なっ!風が強まって!?ヘ、ヘリだと!?


「そこのピンクの気持ち悪い河童に告ぐ! そこの変な色の河童に告ぐ! 速やかに下に降りなさい! そのまま登攀を続ける場合、発砲するぞ! 手を上げろ!」


「手上げたら落ちちゃうんですけど!? あ、もう手がプルプルして来た! あ、あかん。もうダメや」


 ヘリの風圧で皿の水はキラキラと舞い上がり、そしてそれは美しい虹をかける。


 知ってるかい?虹を見ると幸せになれるんだぜ。皆は今、幸せかい?


 俺は痙攣を起こしながらホテルの壁から落ちていった。


 皆様に幸せ送るピンクの河童、ルシアがお送りしました。




         —————————



「大会延期かあ、残念だけど仕方がないよね。勇者が来なくても取り巻きが何らかの妨害行為をしてもおかしくないもんね」


「一番槍程度ならまだしも、天音レベルが来ると厄介だしね。一般市民を危険に巻き込む可能性があるなら仕方ないのかもね」


「僕は丁度良かったと思うよ。案内人には早く接触すべきだ。もう勇者を倒すという単純な目的を果たすだけでは無くなった気がするよ」


(クリスちゃん、真面目だね。似合わないね)


「でもさ、ギリギリで『泥舟沈殿丸』のチケット取れて良かったね。帰りの人達が一斉に帰るから予約取れないと思ったけど」


「ふふふ、朱里。今や僕達は富裕層なのだよ。リルちゃんのCM契約料と二人の大会の賞金が入ったからね! 金に物を言わせたのさ! はっはっはっはっはー!」


「はあ? お前、私達の賞金渡せよな。なんで懐に入れてんだよ」


「クリスちゃん? CMって何? 初耳なんですけど」


(しまった!なんで僕はすぐ口を滑らせてしまうんだ!?)


「そ、それより見て! ほら! 僕達の泊まっていたホテルに虹がかかってるよ!」


「わあ、本当だ!」


「綺麗だねー!」


(あぶなかったよ。虹が僕に幸運を運んでくれたね)


 その後もリルちゃんと海を眺めていると

、相変わらず楽しそうにイルカが跳ねて『泥舟沈殿丸』に並走していた。


 その景色を見ていて、ふと思い出す。


 イルカに乗って手を振り、夕陽をバックに鯱によって宙に打ち上げられた河童の事を。


 あの河童は今頃何をしているんだろう?一足先に帰ったお銀さんとは会えるのだろうか?


 早く再会が出来る事を祈る。


 流石にもうすれ違わないでしょ。


 そして、あっという間に船旅は終わった。港に着くとテレビを観て応援してくれていた皆が出迎えてくれた。なんだか照れくさいね。


 甘栗の押し売りは相変わらずグイグイくるが、リルちゃんが嬉しそうに食べてたので今回は見逃してやろう。


「今日はもう遅いし、一泊してからリルちゃんの家に行こう。夜更けに訪問したら悪いからね」


「そうだね。そうだ! 小遣いを全部投入して買いすぎた林檎をお土産にしよう! リルちゃんのご両親って林檎好きかな?」


(CMかぁ。なんのCMなんだろう?)


「リルちゃん?」


(どうせなら爽やかなCMがいいな)


「リールーちゃん!」


(これってさ、芸能デビューだよね?)


「リルリルちゃーん!!」


「はい!? なんでしょうか?」


「明日でいいよね?」


「うん!(話聞いてなかったけど)いいよ!」


 珍しいな、どうしたんだろう?上の空だ。


「リルちゃん、CM出演の事考えてたでしょ? 今の所、出演が決まっているのはスティック状の生地にチョコがコーティングされた有名なお菓子のCMだからね」


「ク、クリスちゃんったら、何を仰ってるの? そんな事考えていませんから! こんな大変な時にそんな不謹慎な事考える訳無いじゃない! もう良い加減にして欲しいわ。勝手にCM契約なんかして、お肌の手入れが間に合わなかったらどうするの? しかも今の所はですって? もう! 私の意見もちゃんと取り入れてよね! お父さんとお母さんも、まさか私が芸能界に進出するなんて驚き桃の木のはずだよ」


(あ、しまった)


「わあ、リルちゃん! すっごい饒舌だね!」


「リルちゃんって、芸能界に憧れているのね。分かるよ、女の子だもんね。キラキラしてるもんね」


(は、恥ずかしい)


 クリスの野郎が勝手に色々決めて、もしリルちゃんが嫌がってたらとっちめてやろうと思ったけど、喜んでるならいいか。


 私もリルちゃんがCMに出てるのちょっと観てみたいしね。


 

 

 でも、その前に案内人に会わなきゃ。


 天音に言われた事が頭から離れない。


 果たして案内人は手土産程度で、私の暴行を許してくれるのだろうか?


 それは正に神(女神)のみぞ知っている。


 だけど、これだけは自信を持って言えるんだ。


 私だったら絶対に許さない。かな?

 

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