紙一重で馬鹿の方。
ねえ。一般常識ってなに?
「こんにちわ」に「こんにちわ」って返すよね。そういうのが一般常識なの?
え?『わ』じゃなくて『は』なの?
……ん?
じゃあさ、『今わ』は?『今は』?
わ?じゃなくて、は?……はあ?
私わ?私は?はたしわ?
『は』は『わ』とも言うよね?
『わ』は『は』とは言わないよね?
『歯』の事は『わ』とは言わないよね?
え?
おわようございます?
……あったま、痛え。
—————————
やっば、筆記あるの忘れてた!
これは恥ずかしいよ。
「全力をお披露目する時が来たようね」って恥ずかし過ぎだろ。
でもさ、こんな地味な大会あるんだね?テーブル並べて無言だよ?逆にバカみたいじゃない?
ああ、カリカリカリカリって、もうこの音がダメ、イヤ、キライ。
あっ、見て!目の前に虎の顔した馬が歩いてる。あっちなんてカバが逆立ちして私を見て笑ってるよ。
目が霞んで幻覚まで見えてきた。
とりあえず答えを埋めよう。適当に書けば何個か当たるかもしれない。
名前、名前っと。
ちょっと待って「朱里」ってどうやって書くんだっけ?
お父さん、お母さん。
お二人は頭がいいのに、なんで私は馬鹿なのでしょうか?
妹に養分全部持っていかれたのでしょうか?
私は拾われた子なのでしょうか?
———
「じ、地味な戦いですね。田中さんどうでしょうか?」
「うーん、こんなに頭が並んでいるとゲシュタルト崩壊起こしそうですね。何を見せられているのでしょうか?」
「さ、さあ?」
(朱里ちゃんフリーズしてる。あ、えんぴつ折った)
「絵が持ちませんね。私、小豆でも洗いましょうか?」
(河村さんが困ってる。この映像を一日中流すだと?どうかしてるよ。僕にどうしろっていうんだ)
「焚き火の映像とかを流すといいんじゃないですかね? 小豆はちょっと、ね? あ、でも波の音とか出せるのかあ」
「えーと、とりあえずCMです」
~CM中~
「前回もこんな感じの大会でした? 河村さん」
「スポンサーが知的な絵を入れたいと言いましてね。言い方悪いんですけど、知的な絵を馬鹿が考えた結果と言えばいいのでしょうか」
「なるほど。これは馬鹿が考えそうですね。問題自体は簡単なんですよね?」
「名前さえ書ければ合格かと。魔王の頭脳は側近が受け持てばいいですし、どちらかというとやはり魔王は腕っぷしが評価されます」
(ちょっとだけ望遠鏡を使って朱里ちゃんの事覗いてみよう。……え?)
「あの河村さん」
「どうしましたか?」
「名前が書けないなんて人も受かったりするんですかね?」
「名前ですか? 自分のですのね」
「そうですね。自分のですね」
(まさか!?朱里、君は自分の名前すら書けないのか)
「恐らくダメなのではないでしょうか?」
(リルちゃん、どこ見てるんだろう?すっごい遠い目してる。あ、あの雲ソフトクリームみたい)
「CM明けまーす」
「……白熱してますね。河村さん」
「はい」
「小豆でも一緒に洗いますか? コツとかあるんですか?」
——
……私ってなんて名前だっけ?
鰤?……いや違う。
栗?……それは押し売られたやつ。
呪印?朱印?朱里?ちがう。
違くねえ!
朱里だ!
あっぶねぇ!
『実行委員会からのお知らせです。只今の時間を持ちましてテストを終了致します。テスト用紙は裏返しにして、そのままご退場お願い致します。点数、質問、合格ラインなどは一切お答えする事は出来ません。予めご了承の程お願い致します』
まじかよ。名前しか書けなかった。
追試無いの?土下座するから追試やらせて。
そういえば私が魔王じゃないと側近やらないってリルちゃん言ってたよね?
それは規約違反なんだよね?もう逃げるしか道は残ってないんだね。
でも安心して。私、鬼ごっこで捕まった事ないから。
絶対に逃げ切ってやる。
リルちゃんが時効を迎えるその日まで。
今度こそ全力をお披露目出来そうだよ。