出頭。
すっごーい!こんなに大きな船に乗るのはお初の朱里ちゃんでーす。いえーい!
さっき白いワンピースと麦わら帽子とサンダルを具現化させました。ぴーす!
見て、見て!夕日をバックに打ち上げられる河童。鯱って強いんだね。ひゅー!
あれ?な、なんだと?
あの河童、鯱が溺れる程の渦巻きを起こして倒しただと?
や、やるじゃない。次は私がお相手するわ!って違う違う。
あれってルシア?
あ、あいつったら何をやってるかねー!?
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「ルシアやるじゃん。鯱を倒してバタフライで追いかけてくる」
「なんでバタフライを選択したんだろう?」
「なんか体から引き締まって、顔つきも凛々しくなったね! ルシアさん凄いよ!」
己の不運を力に変えて確実に成長してる。これは私もウカウクしてられないね!
「あっ、力尽きた。格好つけて再登場しようとしてバタフライなんかするから」
「ルシアさん、溺れてない? あ、イルカさんに助けられた」
……何やってんだあいつは。
「ねえ、この船って後どれくらいで到着するんだっけ」
「確か、一時間位かな?」
「じゃあ放っておいてご飯食べに行こ!」
「お、いいね!」
(イルカさん達がついてるし、心配しなくてもいいのかな?)
私達は雄大な海と、イルカに助けられたピンクの河童を眺めながら、豪華客船のディナーに舌鼓をうった。
真っ暗になった海を見ると、ぼんやりとピンク色の光が見える。
蓄光する河童。停電した時にはとても役に立ちそうだ。
しかひ、夏になったら虫が寄って来るのは間違い無いだろう。
リルちゃんが双眼鏡で覗くと、イルカとの旅をとても楽しんでいるとの事だった。
幸せそうで何よりだ。
「とうちゃーく! 楽しい船旅でした!」
「私はあっという間だったな」
「朱里は座禅してたしね」
「ねえ、クリス。今日泊まる所はどこなの?」
「驚くなかれ。このリゾート地における最高級ホテルの最上階、スイートルーム「雅」を予約しといたからね!」
どっから金出てんだこいつ?
(朱里、リルちゃん、これは先行投資だよ。これから君達には馬車馬の如く働いてもらうことに——)
「なるからね! はーっはっはっはー、やば。心の声でた」
「お前、変な事企んでんじゃないだろうな?」
「はははは気にしない、気にしない。さあ、着いたよ。子猫ちゃん達、手を貸そうか?」
にょきにょきにょきにょき。
「うわ、びっくりした! クリスが八頭身になっただと!?」
「タキシードにシルクハットまで」
「どうしたんだい? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして。化け物でも見つけたみたいじゃないか」
八頭身で、肌が青くて、金髪、白い歯のスライムなんて化け物以外に何があるんだよ。
(まさか、クリスちゃん自分がかっこいいと思ってるの?勘違いも甚だしいよ)
「いけないよ。僕との恋は真夏の夜のラビリンス。君達は僕にとっても特別だけど特別扱いは出来ない。許しておくれ」
ちゅ。
殺されたいらしいな?この水飴野郎。
(おえ、朱里ちゃんの手の甲にキスしたよ。ごめん、クリスちゃん気持ち悪い。あまり人の悪口言いたくないけど——)
「本当に気持ち悪い。あ、心の声出ちゃった」
「な、な、な! 気持ち悪いだって!?」
「お前はいっぺん鏡見ろ。あ、あれ? 萎んじゃった」
(この美しい姿が気持ち悪いだと?しかもリルちゃんに言われた事でダメージは倍だ!リルちゃんのあの顔、あの目、あの可愛らしい姿から想像できない口の汚さ。これは……癖になりそうだね!)
「癖になりそうだね!」
すっげえ笑顔。こいつ、メンタル強いんだな。
「朱里ちゃん、警察行こ? クリスちゃん絶対犯罪起こすよ。わたし怖くなってきちゃった」
「クリス、悪い事は言わないから自首しなさい。あんたが罪を償うって言うなら、私達が待っててあげるから」
「お願い、自首してクリスちゃん! これ以上罪を重ねないで。わたし、もう見てられないの」
こうして僕は二人に連れられて警察に出頭した。
警官に罪状を問われ「何もしていない」と言うと、本官をからかうのは辞めなさいと怒られました。