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夢じゃない。

 私は体育の授業が大嫌い!だって目立たないようにするのが大変なんだよ。


 特に体力テストだよ。テストなんかしなくたって、自分の実力は自分が一番分かってんだ!


 腹中黒、お前も自分の持病ぐらい把握してるだろ!?それと同じなんだよ!このやろう!


 目立たない為に記録を平均的に抑えるには、繊細な力のコントロールを必要とするんだよ。そんなんしてたらハゲるわ!


 とにかく、目を開けて眼球パリパリにしながら居眠りしていれば事なきを得る座学とは違い、神経を削る体力テストの方が苦痛なんだ。


 だけどね、私と同様に実力を隠してる子を発見したのもこの体力テストの時なんだ。


 そして恐らくあの子は、私の事も気づいている。


 その子は、私の学校で知らない人はいない有名人だ。


 勉強もできるし、運動神経もいい。明るい性格で、とても女の子らしい可愛らしい子。


 同じ国に生まれ、同じ年月を生き、同じ環境で青春を過ごす私達に何故ここまで差が出るのだろう?


 神様は残酷だよ。


 私が唯一勝るであろうは、この鍛え上げた腕力のみ。


 なんで体力テストには腕相撲がないんだろう?


 いつか手合わせしてみたいもんだね!


         —————————


「ごちそうさま! お銀さんの手料理、とっても美味しかったよ」


「熊肉という癖のある食材をここまで色鮮やかに、そして美味しく昇華されるなんて。お銀さんは今すぐお店を開いた方がいいよ」


「嬉しいわね、そこまで言ってくれるなんて。近くに寄った時はいつでもご馳走するよ」


 美味しすぎる、この衝撃はシンディさんの豚骨ラーメン以来だ。


 替え玉したい。じゃなくて、おかわりしたいくらいだ。


「ご馳走様! おいしかったー! この料理はシンディさんの料理に匹敵するね。私が作ってたら恥かく所だったよ」


(作ってたら恥もかくし、僕は恐らくこの世から去る事になっていたよ)


(朱里ちゃんの料理が逆に気になる。今度クリスちゃんが爪とか髪をねだって来たらお願いしてみようかな)


「それにしても三人共、どこで一晩過ごすつもりだったんだい? 良かったら空いてる部屋があるから遠慮しないで泊まって行って」


「やったー! お泊まりだ!」


「ありがたいよ。お銀さんはいい河童だね」


「ふふ、褒めても何も出ないよ。さあ、二階に案内するよ」


 お銀さんはとっても優しい。ピンクの河童とは違い、大人で知的な河童。


「どうぞ。たまに掃除はしてるから綺麗だよ」


 あれ?この部屋、なんか生活感がある。でも使ってないって言ってたし、ん?


(あれ?誰かが住んでた部屋なのかな?使ってないって言ってた割には物が揃ってる……ん?)


(あれ?お銀さんさんっぽくない部屋。使ってないってって言ってたよね?……ん?)


 生臭っさ。

 

(生臭っさ)


(うわ、生臭いよ)


「ここはね、私の婚約者が使っていた部屋さ。今は出て行ってしまったピンクの河童のね」


「えぇ!? 婚約者って生臭河童、じゃなくてルシアが?」


 だからお銀さんはあいつを探してたのか。


「なんてこったい。あの河童さんが!? どうやって、こんな気立のいい河童を捕まえたんだ?」


「もう長い事ここで待ちぼうけさ。でも生きてる事が知れただけでも良かったよ」


 お銀さんはドアに寄りかかってタバコを吸ってる。なんかカッコいい。


(本当に色っぺえ河童だな)


(お銀さん、キレイ)


「じゃあ、おやすみなさい」


 ルシアの事を思い出したのか、お銀さんは少し悲しそうな笑顔で部屋を出て行った。


「クリス、窓」


「全開にしとくね。はい、消臭スプレー」


「三本くらい出しといて」


「二人共、こういう時の連携は本当にすごいね」


 臭いを消すのは、とてもとても大変だったけど、鼻がぶっ壊れたせいか意外とよく寝れました。


「お銀さん、ありがとう! ルシアに会ったら首根っこ捕まえて連れてくるね」


「料理美味しかったです! また遊びにくるね」


「お銀さんが料理人として一緒に来てくれれば死亡確率が少し減るんだけど、ありがとね!」


 お銀さんは私達が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。


 ルシアが肉塊にならなくて本当によかった。お銀さんを悲しき未亡人にしてしまうところだった。


 今はあいつの耐久力に感謝だ。


 急いで街に戻った私達はそのままリルちゃんの家に直行した。


 気まぐれ穴は瘴気が無くなりかなり住みやすくなった、と呪いの解けたとリルちゃんのご両親にとても感謝された。


「朱里ちゃん、クリスちゃん本当にありがとう。お父さんとお母さん、すごい嬉しそうだった」


「お礼を言われることなんか何もしてないよ。君の笑顔が見れればそれで十分だ」


「お前は痺れて気絶しただけだぞ。……それじゃあリルちゃん、元気でね。勇者を討ち滅ぼした暁には絶対会いに来るよ」


 涙出ちゃいそう。本当はクリスをここに置いていきたい!


 けどそれはとても迷惑だし、家族と仲良く暮らせる事がきっとリルちゃんも幸せなんだ。


「一緒に行くつもりだったけど、わたし置いてかれちゃうの?」


「わあ! それは助かるよ! ご両親の許可は得たのかい?」


 「朱里ちゃんと一緒なら、安心だろうって。いい機会だから外の世界を楽しみなさいって言ってくれたよ。だから、私もついていく!」


「あ、あれ? 朱里ちゃん動かなくなっちゃった」


「予想外の出来事で一時停止しちゃったみたいだね」


 これは夢!?


 いでででででで。千切れる寸前までほっぺたをつねったけど痛い!


 夢じゃない!まさかのリルちゃんが一緒に旅を?


 か、神様。こんなに愛らしい仲間をプレゼントしてくれた事を感謝します。感謝感激アメフラシ。私はこの身を捧げてこの小さなお姫様をお守り致します。


「ひざまづいちゃった」


「大変、ほっぺが千切れちゃう! ほっぺたってあんなに伸びるものなの?」


 伸びたほっぺたが戻るのに数時間かかったけど、この時ばかりはムポポペサに来れて良かったと思いました。

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