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店員さん間違える。

 とっても毛深い治癒師のケンタウルスのケンタさん。、彼は紳士的に、そして的確な手つきで私の怪我の治療をしてくれた。


 ケンタさんは時折、不安そうな私に向けてウインクをしてきたり、綺麗な真っ白な歯を覗かせ、素敵な笑顔を投げかけてくる。その立ち振る舞いはまるでハリウッドスターの様。


 最初はその気遣いが恥ずかくて、自分の顔が熱くなっていくのを感じたけれど、段々とその仕草に慣れていくにつれて、私はその温かな瞳に吸い込まれそうになっていった。


 その時、私は思ったんだ。


 ああ、きっとこれは恋に似た感情なのだろうって。


 恋した事ないから知らんけど。


 目の前にいる紳士がケンタウルスじゃなかったらと、血が滲むほどに拳を握りしめ、唇を噛み、心から惜しいと涙を流したのは内緒の話にしておこうと思う。



         —————————



「わあ、すごい! もう治っちゃった!」


「すごいだろう? 朱里のDNAを瞬時に見抜き、その血肉となりうる物体を、無理矢理ぎゅうぎゅうに詰め込んで蓋したんだ! ケンタ先生の得意技なのさ」


「私は何を詰め込まれたんだよ、表現がいちいち怖いんだよ。そんな事よりさ、ここってクリスが教えてくれたような世界で間違いないの?」


「そうだよ。むしろ朱里みたいな見た目をした不気味な生物が珍しいくらいだ」


 ケンタさんが私の足の治療をしている間にクリスはざっくりとこの世界の事を教えてくれた。


 どうやらこの世界はクリスやケンタさんみたいな、いわゆる魔物や魔獣が多く住む世界で色々な種族もいるし、人族も住んでいるらしい。


 ただ人族は例外なく転移して来ており、同じ人族同士で家族やコミュニティを作り、滅多にその姿を現さないとの事だった。なんならツチノコの方が見つけやすいって。


 ツチノコはいるんかい。


「ねえ、クリス。帰る方法なんてアンタ分からないよね?」


「うーん? 多分、無理だよ」


「なんでよ。方法が分からないんじゃなくて、無理なの?」


「転生する人は使命があるからムポポペサに来ると言われているんだ。その使命をやり遂げないと転移者は帰れないって」


「は? それマジで言ってんの!?」


「マジだよ。誰かの友達のおじさんが飼ってる猫に引っ掻かれた人が言ってたような言わなかったような、そんな記憶が微かにあるよ!」

 

「微かな記憶で無理って言うんじゃないよ。結局言ってたのは誰なの?誰か詳しい人とかいないの?」


「村長が詳しいと思うよ。おーい村長! 朱里が聞きたいことあるってさ!」


「はいはい。如何なさいましたか? おや、足は綺麗に治ってますね。恐らく朱里さんのDNAを瞬時にみぬ——」


「それ今聞いたから。ねえ、今クリスに元の世界に帰れないって聞いたんだけど、それって本当なの?」


「うーん、そうですね。ご自身のステータスはご覧になりましたか?」


「ステータス? 見てないけど」


「転移者の方は使命を与えられてこの世界にやって来られます。ステータスを見れば朱里さんの使命が載っているかもしれませんが」


「ステータスね、それどうやって出すの? ベタにステータスオープンとか?」


 おわっと!なんか出た!


「おお、流石だね。なにも教えていないのにステータスを出すなんて」


「どれどれ? ん、なにこれ!? おい! なんで体重まで載ってんだ! 情報漏洩じゃねえか!」


(おっ鬼!)


「村長が、おっ鬼! とか思ってブルッブルしてるから少し落ち着いてもらってもいいかな? 隠したい表記は隠せるから僕達にも確認させてもらっていいかい?」


 心読めるのかよ。軟体ゲル状機動式モンスター識別名『青』すげえ優秀じゃん。お、隠せたね。使命はどれだ?


 ん?これかな?


「この名前の横に書いてあるやつがそう? なんだこれ? 『勇者を倒し魔物を救う者』だってさ」


「な、なんだって!?」


「きゅっ、救世主様だ! 皆の者集まるのだ! 今宵は宴だー!」


「すごい! 朱里は僕達の救世主様だったんだね!」


 ……なんかありがちな設定。ゲームっぽい感じだな。人族がいるって言ってたし、その人達に聞くのが一番早そうだけど、ツチノコより探すのは難しいって言ってたしなぁ。


 うーん、どうしたものか。って、うええぇっ!こんなにスライムいたの!?きもちわる!芳香剤の匂いがすげえ! 


 おい、ちょっとどこ触ってんだ、蹴飛ばすぞ!みんなまとめてコインに変えたろか!?あっ!や、やだー!あたしったら!ドジっ子なんだから、もう!


 ふえーん!新作ゲームの『恋して☆どすこい!ちゃんこ鍋はハニーソーダで煮込んで寝込んで恋の病』がカバンから落ちてしまったのだ!


 はてはて?カバンが開いてたのかな?この間、オヤツに食らおうと思ってた豚足を駅でぶちまけて小っ恥ずかしい思いをしたばかりなのに。


 本当に私は学ばない女だよ。


「ちょっと村長、スライム達を落ち着かせてもらっていい? 何匹いるんだよこれ、地面が真っ青じゃん」


「これは失礼致しました。皆の衆、一旦落ち着いて下がりなさい。救世主様が困っておるぞ」


 あーあ、袋から出ちゃってるよー。やーだー、もー。


 ……ん?なにこれ?


『恋して☆どすこい!以下略』じゃない!じゃあ、このカバンから出てきた物はなに!?


 っ!?

 

【20XX年上半期圧倒的クソゲー大賞受賞!さあ、君もムポポペサ大陸の魔物を勇者の手から救え!!『ムポポペサの魔物を勇者から救っても救わなくてもDX』】


 嫌な予感しかしない。カバンから落ちた見覚えの無いゲーム。転移してしまったとされている目の前に広がる不思議な世界。


「クリス」

 

「なんだい?」


「もう一つだけ、聞いてもいいかな?」


「もちろんだよ」


「ここの世界の名前って、なに?」


「それはいい質問だね! 世界っていうか、大陸だよ。ムポポペサ大陸」




 店員さん、ダメよ。


 渡し間違いはダメ。絶対。

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