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スッキリ。

 河童はあの後、私にとても大切な事を教えてくれた。それは私のこれからの人生の指針にもなるだろう。


 河童はとても真剣な顔でこう切り出した。君の実力を甘く見てたよ、いつの間にか俺の目は釣り上げてから一週間経った鯵の瞳くらい白濁色に濁ってた、って。


 そうして深々と頭を下げた河童の頭の皿から水が全部こぼれ落ちたその瞬間、河童は砂浜に頭を突っ込んで痙攣し始めたんだ。


 頭が地面に刺さりながら、びくっびくって。だから私急いで飲みかけのトロピカルジュースを注いだんだ。砂浜から引き抜いた河童の頭のお皿に。


 ふ、そしたらあいつ、さ、皿が割れちまった!って馬鹿みたいにオロオロし始めて。


 ふふっ!その姿がさ、私の高校の担任にすごい似ててもうそれが可笑しくて、可笑しくて——あは、あはははは。


 はー、面白い。……ん?あれ?あれれのれ?何話そうとしたか忘れちゃったのだ!



          —————————



「宿のお金まで出してもらっちゃってありがとうね。クリス」


「ここの宿は安いもんだし、お安い御用さ」


「よーし! じゃあ今日は、なんだっけ? なんか洞窟行くんだよね?」


「そう! 『気まぐれ穴』だね! 折角だから依頼もついでにこなしちゃおう。まずはギルドだね!」


 ギルドまでの道のりでも、ここの魔物達はニコニコで皆が挨拶をしてくれる。


 昨日、勇者に酷い事された魔物も中にはいるかもしれない。私の中で魔物を守りたい気持ちが少しずつ膨らんできたんだ。


 あ、甘栗は今日は大丈夫ですよ。ありがとう、気持ちだけで十分!だ、だからいらないって。本当に大丈夫だから!し、しつこい!いらねえって言ってんだろ!


 バササササササッ!かーかーかーかーかー。


「ど、どうしたんだい朱里!? 天津甘栗屋さんが威圧で気絶して道に栗ぶちまけたもんだからカラスの大群がやって来てるじゃないか」


「あいつ、しつこいから嫌い」


「確かにこの街じゃ有名だね、しつこいって。警察にも何度か注意されてるんだけどね。そうこうしてる内にギルドに着いたよ。入ろっか! おはようございまーす」


「すいませーん。『気まぐれ穴』の依頼ってありますか?」


「あそこの依頼かい? 助かるよ。最近魔石が足りなくてライフラインを圧迫してるんだ。出来るだけ集めて来て欲しいんだ」


 魔石の力で電気とか作ってるのかな?意外に不便は無さそうだな、ムポポペサ。


「分かったよ! できる限り持ってくるね」


「あまり洞窟の奥まで行くと帰りが大変だから無理しないで」


「はーい! 行ってきます!」


 こうして私達は『気まぐれ穴』に向かった。どうやら洞窟には瘴気や魔力の影響で、魔物が凶暴化したり、アンデットなんかもいるみたい。


 勇者の件もあるし、どうやら思ってた以上に大変かも。


「さあ、そろそろ着くね。ここまで来るだけでも大変だからまず拠点を作ろう」


「キャンプみたいなもん? テントとか持ってきてないよ」


「僕が用意したよ! あーん」


「いいねー! クリスのそれ本当に便利! 気持ち悪いの我慢すれば満点だよ。じゃあテント立ててから出発だね!」


「首里も毒吐く様になってきたね。打ち解けてきてくれたみたいで僕も安心だよ」


 ん!?何奴!

 

「今、なんか草むらで音したよね?」


「あっ! あれは!!」


「なになに? えっ! かわいい!」


「珍しい! あれは幻獣フェンリルだね! しかもまだ子供だ。おや、怪我をしているようだ。『気まぐれ穴』の奥の方で暮らしてるって噂なんだけど」


「それって勇者がなんかしたんじゃない?」


「その可能性はあるね。フェンリルの子供が親元を離れるなんて滅多にないよ」


「かわいそう、おいで。怖がらなくていいからね」


 許せない、同じ人間として恥ずかしいよ。こんな可愛い子を親と引き離すなんて。しかも怪我をしてるって親は無事なのかな?


 がぶ。


「いでででででで。こ、怖がらなくて大丈夫だよ」


 がぶがぶぎりぎりぎりぎり。


「いったたたた! すごい凶暴なんだけど! いたたたたた! 噛みついて犬歯ですごいギリギリしてくる! ギリギリやめて!」


「ははははは。戯れてるんだよ。可愛いなー」


 何呑気に笑ってやがる!こ、これが戯れてるだと!?指全部持ってかれるわ!ぐっ!こんな小さい子に威嚇を使うわけにも、ましてや物理攻撃を繰り出すわけにも、あいたたた。ギリギリするのやめてー!


 ペロペロ。


「あ、朱里の事を友達として認めたみたいだね」


「そうなの? それならこのまま骨が見えかけてる右手の指達も報われるよ。いてて」


「うわあ、スプラッターだね」


「とりあえずその指の治療をしないとダメだね!……まてよ? 『気まぐれ穴の』にはピクシーがいるんだ! その子達にお願いして治して貰おうよ!」


 引き返すのもなんだしその子達に頼んだ方が早いかな?


「じゃあ早速『気まぐれ穴』に入ろうよ」


「そうしよう。君もおいで親のところまでついでに連れてってあげるから」


「あ、着いてきた。よーし! この指の恨みは勇者一行に全部ぶちまけるぞー!」


「勇者一行がなんだって?」


 !!


「……誰?」


「その一行の一番槍って所かな。何やら物騒なはな——」


「ぐへーーーーー!!」


 バキバキバキバキバキバキ!!!


 ズズーン!!


「なにー! 無慈悲、無慈悲すぎるその一撃は神をも穿ちかねない破壊力! 初登場で、カッコつけて(笑)木に寄りかかって話をしてる途中の一番槍の顔面に左コークスクリュブローを何の躊躇もなく打ち込んだだとー! そしてその拳が半分ほど顔面にめり込んで、人間大砲から打ち出されたように勢いよく吹っ飛ばされた一番槍が木を何本も薙ぎ倒し、まるで森が間引きされたかの様な光景が目の前に広がっているだとー!」


(指噛まれてイライラしてたのかな? 恐ろしいね)


 うん!スッキリした!

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