食いしん坊朱里ちゃん。
あわわわわ!またやらかしてしまったのらー!?はしたなくソニックブームなんか巻き起こしちゃって!スカートめくれたらどうするの!めっ!
ダメ!ダメ!こんなんじゃ『恋☆どす』を具現化しても、愛しの井太利亜の海様から恥ずかしい目で見られちゃうよ!えーん!
……でもそんな目でじーっと彼に見つめられるのもまた一興!それはそれで風情があっていいかも!?なんてね!
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「あの乾坤一擲の一撃をモロに貰い、体躯が辺り一面散り散りに爆散しないなんて。あの耐久力を僕は誇りに思うよ! 肉片がバラバラに飛び散っていた可能性も否めなかったんだから。そうなってたらこの浜辺にホオジロザメが獲物を食い散らかしたと勘違いされてパニックを引き起こしていたところだよ! ところで朱里、レベル上がってないよね?」
「上がってないよ。あんな未完成の、よちよち歩きの三歳児が放ったような諸手突きじゃ蚊の一匹はかろうじて倒せても勇者は倒せない」
「朱里は向上心の塊、いやそのものだね! レベルが上がってないって事は河童さんはまだその命を繋ぎ止めてるんだね! すごいや!」
「……こんなんじゃ駄目」
「何がだい?」
「もっと大地を蹴った力をスムーズに両の腕に伝えなきゃ河童の体躯を爆散させる事は出来ない。体の使い方が下手なんだ。こんなんじゃ『恋☆どす』の世界に行っても私は教室の隅で霞を喰らう羽虫のような存在でしかいられない」
そうだ。こんなんじゃ餅詰まらせ丸には一糸報いる事はできない。くそ!自分の非力さ、無力さが、只々悔しい!
「朱里、目標は勇者を倒す事だよ。そして河童さんの事を爆散させたらいけないよ」
……はっ!いけない!私、今何を?
「河童どこ行った?」
「今、ライフセイバーさんが朱里に慄きながら救助に向かってるよ」
「そうなんだ。じゃあ海の家でも行って待ってる? クリス少しお金貸してよ」
「もちろんだよ! むしろ僕がご馳走するよ!」
「やった! ラッキー! 何食べようかな? ダイオウホウズキイカの事考えてたらイカ食べたくなっちゃってたんだよね」
「まったく。朱里は食いしん坊なんだから!」
「たはっ! お恥ずかしい」
あははははははははははははは。
こうして私はゲームの中の海岸でサンセットビーチを眺めながらクリスと二人でトロピカルジュースとイカの姿焼き、焼きそばを食べて心穏やかな時間を過ごしたんだ。
このまま時間が止まればいいのに、そう思える位に素敵な時間。部活漬けの毎日だったんだ。私の青春にこんな1ページがあっても神様は許してくれるよね?
「いや、ちょっと待って。死にかけた俺をほっといてサングラスかけて水着着て麦わら帽子よく被ってられるな。おまけにトロピカルジュースて。その図太い神経なんなん?」
「あはは! 河童! 大袈裟だよ! そんな松葉杖ついて。包帯巻いてないの口と鼻と皿だけじゃん」
「お前、ライフセイバーさんの迅速な救助に感謝しろよ。あの人がいなかったら河童殺しの大罪犯す所だぞ」
「朱里はわかりやすい嫌味が通じない位には図太いよ!生きて行くの楽だろうね!」
「そうそう。そんなの気にしてたら疲れるだけだから、っておい。お前毒気付くのも大概にしとけ」
あはははははははははははは。
「勇者の場所教えようか」
……勇者?急に何言ってんだろうこの河童。
(河童さん、かわいそうに。頭部に重大なダメージを負ってしまったのだろう。訳のわからない事を口走っているよ。無理もない、あの一撃を、まともに食らったのだから……ん?勇者?)
「そうだった! 朱里! 勇者の行き先を教えて貰おうとして無謀にも河童さんが朱里にぶつかり稽古をやらせたんだ!」
言われてみれば!少し背伸びをして大人の階段を登っている女子高生な自分に酔っている場合じゃなかった!
「ほうは! ゆうひゃはほほひっはほかほひえへよ!」
「イカ食いながら喋るんじゃねえ!」
「そうだよ! ずぞぞぞぞ! ひゅひ、はひへにずぞぞぞぞ! ひはなひゃ」
「お前は焼きそば食ってんじゃねえ!」
「ごめんごめん。で? 勇者どこ行ったの?」
「この島にあるダンジョンに潜り込んだよ」
「まさか! あの『生きてる洞窟』かい!?」
「そう、入る度にその中身を変える通称『気まぐれ穴』だ。勇者はそこで今レベリングをしているって話だ。あいつらがあそこから出てきた時は、更にその力を上昇させているだろう」
「じゃあ私達もその『気まぐれ穴』に行く事になりそうだね」
「そういう事になりそうだね。でもね、あそこは地元の魔物なら絶対に近づかないよ。それくらい危険な場所なんだ。気を引き締めないとね」
「はわへっる。はわへへほ」
「流石! ずぞぞぞぞ! ひゅひははほひひなふなー」
ごくん。
さっ!次は何食べようかな!