精神世界、現実世界
少年は、しばらくの間、眼を閉じて自分自身の感情と必死に向きあっている。
文学少女との出逢いの意味やこれまでの出来事の意味を繋げようとしている
時間にすれば、たった3分位の出来事だろう。
けれど、少年にはその3分間が、永遠にも感じられているようである。
眼に見える全てが、夢の中の出来事のように思えて、
天国と地獄が心の中を彷徨っている。
少年は、再び眼を閉じた。
その時、
(アタマの中でシュミレーションするクセに。)
と、少年を陰で嘲笑う悪魔の声が脳裏をかすめていった。
意識が朦朧とする中、
まさに陰が極まって、死にたいという誰かの叫び声が襲ってくる。
少年が人を信じる心を失いかけた瞬間。
(幸せのシュミレーションなら得意でしょう?)
と、天使のように無邪気に笑い飛ばしていく声が聞こえた。
少年は、ぱっと眼を見開いた。
金色のショートヘア。
黒のモード系スタイルが印象的な女性が椅子に座っている。
何事もなかったかのように、ただ、微笑んでコーヒーを飲んでいる。
テレビのスクリーンには映画マトリックスが映し出されている。
確か、精神世界と現実世界の存在をテーマにした映画だっただろうか。
『目覚めた?コーヒー飲むでしょ?』
女性は少年に声をかける。
高級フランスレストランで観るようなお洒落な場面が発生している。
(あぁこれは現実だ。)
異質な空間こそが文学少女というイメージを勝手に植え付けてしまったのだ。
手紙を頼りに、僕は文学少女に逢いにきてしまった。
外には高級外車が止まっている。犬もいる。
お話ししたことや手紙に書かれていたことは全て事実だったのだ。