1.朝起きると女になっていた
入れ替わりモノ大好きで、気づけば10年前くらいの活動報告から書きたい書きたいと言い続けて書きたい詐欺を働いてきたヘッドホン侍。ようやく書き始めます。
「うぅーん……」
意識がだんだんと覚醒していく。朝が来たという感覚と同時に違和感を覚える。
なんだか、すごくかわいらしい声が聞こえた気がする。
「ふぁー」
あくびの声もかわいいなぁ……?
ん? おかしいよね? 昨日は動画を再生したまま寝てしまったのかな。
いや、それにしてはクリアに聞こえすぎる。
むくりと起き上がると、そこは知らない部屋だった。白い壁に、白いカーテン。ベッドの色は灰色で、ストライプ模様の毛布が自分にかかっている。
「え、どこ」
思わずつぶやくと、自分から先ほど聞こえたかわいらしい声が出てきた。嘘やん。
反射的に自分の胸を触ってみる。や、やわらかい……胸が……あるね……。しかもちょっと強く握っちゃったから痛いよね。……夢じゃないってことですね……。
オーケー、状況を整理しようか。
朝起きると、俺は女になっていた。そして、この部屋は俺の知る部屋ではない。つまり、自分の身体が女になるというよくあるTSモノの展開ではなく、男女入れ替わりものということだろう。
男女入れ替わりものを読むたびにもし俺にそんな事態が降りかかってきたらどうしようと考えていた。 俺はその時、何を考えていたか。――そうだ、自分に電話をかけようと思っていた。だって、勝手な行動をしてもされても周りに不審に思われる。
枕元を探すと、案の定スマホが充電されていた。しかもリンゴのマークだ。ありがたい。スマホのロックを指紋認証で開けられる。さっそくスマホを開いて、電話マークを押して自分の携帯の電話番号をかける。
4コールくらい鳴ったところで相手が電話に出た。
「も、もしもし」
電話に出たのは間違いなく、俺の声だった。よし、俺の人格が分裂したということでもなければ、入れ替わりもので間違いなさそうだ。
「お、おはようございます。俺の身体の主さん」
「え!? も、もしかして、私たち、いれかわってるんですか……? 朝起きたら知らない部屋にいるし、男になっているし、転生しちゃったのかと思ってました。でもその割には今までの記憶とかないからこれからどうしようと思ってた!」
そうか、転生ものの線は考えてなかった。
でも、入れ替わっているということに間違いはないようだから、よしとしよう。
「えーっと、それで一応自己紹介をしておくと、俺は日暮 優です。両親と俺の3人家族で、高2で、家の近所の渡瀬高校に行ってます」
「私は、比留間 晴美。私も高2で、家の近所の百合野高校に行ってます。両親と兄2人の5人家族」
この身体の名前はハルミ、というのか。
「あと、漢字とかはスマホの連絡先を見てもらえればわかると思うので、省略します。ただちょっと俺の記憶が間違いなければ今日は日曜なので学校行くにせよ、なにをするにせよさっさと今後の行動をどうにか決めないといけないと思うんです。準備もあることだし」
「うん」
「で、提案なんだけど……お互い記憶喪失ということにしませんか?」
多分、それが最善手だと思う。いや、これまでの俺のシミュレーション的には。いずれバラすにせよ、信じてもらえるかが不明だし、信じてもらなかった場合が悲惨すぎる。なので、現実にも起こりうる記憶喪失という症状が一番不審に思われず過ごせると思う。
「オッケー」
と、返ってきたのはめちゃくちゃ軽い返事だった。ちょっと不安になる。
「えっと……本当にそれで大丈夫ですか?」
「え、何も問題ないけど、何か懸念点でも?」
「あ、いえ、な、ないです」
うん、そういう性格の子なんだな。この身体の中身の子は。
「あ、やっぱ、ある。君の身体、Tシャツにパンツだけだから、さすがに着替えておきたいんだ、着替えの場所を教えてください」
……オーケー。そういえば俺は昨晩めずらしくそんな恰好で寝た気がする。なんだか寝苦しくて。普段はそんな恰好してないのに! 割としっかりしてる方だと思うのに!
「……はい、それでしたら、本棚の右下の方に箱があると思うんですがそこがシャツ入れなのでそこからシャツをとってください。その下の箱が靴下です。制服上下やズボン類はクローゼットにかけてあります」
「お、あった、あった。了解~、あ、私の服は全部クローゼットにあるから適当に着替えてください。ブラのつけ方とかは、わかる?」
「ブッ、ブラ……!? わ、わかりません!!」
童貞の陰キャが知ってるはずがない!
「説明するのめんどいからY〇uTubeで調べてくれ!」
ひどい! 自分から聞いてきたくせに!
「……了解です!! じゃ、記憶喪失なら電話しているのも不審だと思うので、そろそろ切ります。また、今晩にでも電話するので、では」
「オッケー。バイバイ」
プチッと通話を切るマークを押して俺は深いため息をついた。
なんだか、めちゃくちゃ不安になってしまったのだけど。なんにせよ着替えて行動をしなければ。
俺はぎこちなくクローゼットに視線を向けてから首を振ると、スマホでY〇uTubeのアプリを立ち上げた。