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異世界的おつきあい

作者: 西順

「はあッ!!」


 可憐な少女は苛烈な表情で細剣を相手に突き出す。



 ここ、王立聖剣学院の訓練場の裏手で、今、伝統の決闘が行われていた。


 一方はサーベリン家三女、この学院始まって以来の才媛にして、剣聖との誉れ高いクリス・サーベリン。腰まである金髪は陽光に輝き、銀の瞳は涼やかながら熱く相手を見据えていた。身体は引き締まり、細剣を構える姿に隙はなく美しい。


 対するはジャベリン家長男、冴えない日陰者、万年普通のアトム・ジャベリン。銀髪は短く刈り込まれ、碧い眼は遠目には眠そうに見える。とぼけて見えるが容姿は整っていた。細剣を片手に構えたままピョンピョンと飛び跳ね、迫る決闘に備えていた。


 二人の決闘は放課後、ひっそりと行われていた。


 始まりは一通の決闘状。それに呼び寄せられた二人は、こうして対面し、一礼の下、決闘が開始された。


 先に仕掛けたのはクリス・サーベリンであった。アトム・ジャベリンの喉元目掛け、細剣を突き出す。


 しかしそれはアトムの細剣により弾かれてしまった。


「くっ」


「そう易々とはやられないよ」


 攻め急ぐクリスに対して、アトムの方にはまだ余裕があるように見える。見る者が見れば奇妙な光景だ。方や剣聖、方や万年普通である。


 その後もクリスは何度となく突きを繰り出すが、その全てをアトムに防がれてしまう。


「流石です」


 しかしクリスは嬉しそうだ。強敵と相対せる事が幸せなのかも知れない。そんな表情をしている。対してアトムは複雑な表情で、感情は読み取れなかった。


「ふぅ……」


 クリスは呼吸を整えると、細剣に魔力を注入していく。輝いていくクリスの細剣。それに合わせるようにアトムの細剣にも魔力が注がれ、輝いていく。


「はっ!!」


 クリスの攻撃速度が上がる。魔力による身体能力向上だ。それはクリスの攻撃速度を数倍に引き上げ、突きの回数はそれまでの十倍に増えていた。


 しかしそれでもアトムには一歩届かない。クリスの突きを防ぎ、受け流し、かわし、避け、いなす。


「くっ」


 手詰まりを感じたクリスは、攻撃を中止し、アトムから距離を取ろうとするが、アトムはそれを許さなかった。


 距離を取ろうとするクリスに追いすがり、今度は自分の番だとばかりに鋭い突きを繰り出す。


「はあ!!」


「うぐっ」


 クリスはそれをなんとか己の細剣で受け止め、後退していくが、アトムの攻勢は止まず、ついに訓練場の壁際まで追い詰められてしまった。


「これで終わりだ」


 アトムがトドメとばかりに細剣を突き出すが、そこに慢心があった。クリスは大振りになったその突きをしゃがんでかわすと、アトムのがら空きとなった喉元へ己が細剣を突き出す。


 が、それは紙一重でアトムにかわされてしまう。今度はアトムがクリスから距離を取るように後退する。


「ふぅ、今のは危なかった」


 額の冷や汗を拭うアトム。詰め切れなかったクリスの顔は苦いものだ。


「ふぅ……」


 気を取り直してクリスは更に魔力を細剣に注いでいく。その光は眩しい程で、アトムは眼を細める。と、次の瞬間にはクリスの細剣の切っ先が眼前に迫っていた。


「くっ!」


 アトムはそれを己が細剣でいなし、絡まった細剣を膂力で弾き返した。が、弾き返したクリスの姿はそこになく、ゾッとする気配に振り返ると、後ろに細剣を構えるクリスが居た。


「覚悟!!」


 クリスの突きがアトムに迫る。だがあと一歩と言う所で、アトムは弾けるようにその場から飛び跳ね後退し、クリスの突きは空を切る。


 そして大技の後と言うのは得てして隙を生みやすい。細剣を突き出して身体が伸びきったクリスに、今度はアトムの細剣が襲い掛かった。


「ふっ!!」


 それをクリスは無理矢理に細剣の軌道を変えて受け止めた。


「やるな」


「貴方こそ」


 そして互いの剣が切り結ぶ。突いては受け、突いてはいなし、突いてはかわす。もしそれを傍目に見掛けた者が居れば、華麗な舞踏を踊っているように見えた事だろう。


 それ程に二人の技量は拮抗し、洗練された技は見る者を魅了する美しさを備えていた。


 しかしその二人だけの舞踏会も終わりを迎える。ギィンと言う高い金属音とともに、細剣はクリスの技量に耐え切れず中途で砕けてしまった。


 これで終いとアトムはクリスの喉元に細剣を突き出すが、クリスは諦めていなかった。


 アトムの突きをくるりとかわすと、クリスはそのまま回転しつつアトムの懐に潜り込み、砕けた細剣の先をアトムの喉元に突き付けたのだ。


「……ふぅ、参った」


 アトムのその言葉に喜色満面の笑顔を浮かべるクリス。その笑顔にアトムまでも笑顔にさせられてしまった。


「それじゃあ、これから私たちは恋人同士と言う事で、いいわね?」


「ああ」


 余程嬉しかったのだろう。クリスは自身がアトムの懐に潜り込んでいるのを良いことに、そのままアトムに抱きついた。アトムもそれを甘受し、クリスを優しく抱き締める。



 これこそがここ、王立聖剣学院で行われている伝統の決闘、恋愛決闘である。


最後までお読み頂きありがとうございました。

ここまで読んで下さったのも何かの縁。感想や評価ポイントなんぞを下さると作者が泣いて喜びます。

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