フォーカイドのとある村で 01
少年は特に特徴もない子供だった。この孤児院の中でも背格好は真ん中、力比べで秀でるわけでもなく、近年から普及し始めた科学思想や、それに付随する魔術学……哲学に興味を示すことなく、目立つことはない。
それでも、彼には人一倍強い気持ちがあった。
かくれんぼの中、木陰から孤児院の窓を覗く少年。その先には小さな咳を漏らす少女の姿がある。
リエ=K=ギミヤ。声がキレイな少女で、孤児院に拾われた少年に始めに手を指し伸ばしてくれたのが彼女だ。
「……」
「ウィー! チョウエツみっけ!」
「あっ」
「なーにボウっとしてんだよッ」
無邪気な子が、窓の方に視線を向ける少年の肩を強く叩いた。
「また見てるよ」
「み、みてねえよ!」
「お前、リエのやつが好きなのか?」
「そんなんじゃないって」
「へぇ~」
その少年、御山野チョウエツの肩を叩いた子供は腕組みをしてニマニマとしながらチョウエツをみやる。
「まあ、噂なんだけどよ。助からないらしいぜ、リエ」
「っ……!?」
一つ背格好の高い少年がずいっと飛び出る。チョウエツは狼狽を隠すように切り出した。
「た、助からないって?」
「流行り病なんだと。今、”先生”が二つ隣町に出向いてるけど、今回はどうだろうなぁ」
「薬、とか?」
「みてくれる医者もだよな。こんな片田舎じゃ……ね? やっぱニュートーキョウ辺りのトカイじゃないとさー」
「……」
うつむいて、鎮まるチョウエツ。下唇を噛むそんな少年に、リエは小さく手を振っていた。
「おいおい! デキてやがるぜ!」
「っ!! そんなんじゃないって!」
ムキになって手足をバタバタとさせるチョウエツだが、そんな彼女の微笑みがこの退屈な孤児院での生活の中でのチョウエツの数少ない生きがいだった。