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第二章 地中の女王

「おい、セイルそっち行ったぞ!」

「分かってる。」

体格の大きいジェスがまず魔物たちを押しとどめ、取りこぼした魔物をセイルが対処する。

さらにその後ろに控えたクロロが魔物に追い討ちをかける。

一番後ろのマリアが回復や補助を引き受ける。

狭い坑道内では二人以上並ぶことができない。そのため、このような並びになったが、これがなかなかに効果的だった。

「マリアそろそろ回復を頼む。クロロ大丈夫か!」

「はい、何とか。」

「分かってるけど、そろそろ、魔力が底を付くわよ。」

狭い坑道のおかげで大量の敵を一度に相手にする事は無くなったが、持久戦になることは否めない。

「何でラッディクオークばっかこんなにいるんだよ!」

(確かに単体での繁殖力の低いラッディクオークがこんなにいるのはおかしい。考えられるとすればあれか。)

クロロ改めクロムは何か考えることがあるようだが、敵は待ってくれない。

セイルの魔法剣によって体の一部を凍らされたラッディクオークが飛び掛ってくる。

まさか、避ける訳にもいかないのでブーストで威力を底上げした一撃を放つ。


十分後


「ようやく終わったか?」

「さすがに疲れたぜ。」

「私、もう無理。」

セインとジェスはまだ余裕があるようだが、マリアは魔力が尽きてしまったようだ。

「しかし、お前の双剣すげーな。どこで手に入れたんだ?」

「実は、父が魔具職人で死んだ時に残してくれたものなんです。コートもですけど・・・」

我ながら、演技がうまいと思う。

「なんか、悪いこと聞いたな。」

「いや、昔のことです。」

いや、ほんとに死んでくれれば良いのに。

「さすがに今回は撤退するしかないか。」

ぽつりと言ったセインの言葉にジェスは猛反対する。

「おい、陰影草はどうすんだ?少なくともそれは見つけないと。」

「だが、マリアがあんな状況だし予想より、はるかに魔物が多い。もう一度で直そう。」

「皆さんは帰ってください。僕一人で探します。」

(チャンス、この辺りでも精鋭度C以上の魔石がでるはず。このまま帰ってもらって、採掘して僕も帰ろう。)

「そんな訳には・・・」

セインの言葉をジェスが遮った。

「セイン、お前はマリアを連れて先に帰れ。俺はこいつと行く。」

「そんな無茶だ。」

(ホント無茶だ。)

「なあ、セイン。こいつには命をかけてでも救いたい奴がいる。そのための覚悟もある。するべきときにするべきことをしない奴は必ず後悔する。なあに、こいつの腕は十分見ただろ?一人なら無理だが、二人なら帰ってこれるだろ。臨時とは言え仲間だ。仲間は絶対見捨て無い。俺のするべきことはこれだってはっきり分かってんだ。だから俺はこいつを、お前はマリアを守るんだ。いつだってそうだっただろ?」

「ああ、いつだってお前は一番馬鹿な選択をする。の癖にいつだって生き残るんだ。お前はお人好し過ぎるんだよ馬鹿。」

「それは、行って良いってことか?」

「行って来い。マリアを外に連れて出たらすぐに後を追う。死ぬなよ。」

「よかったな。クロロ。」

「有難うございます・・・。」

(ありがた迷惑ってこういうことを言うんだろうな。て言うか、騙してる僕ってものすごい悪人見たいじゃないか。)

「相棒を頼むぞ、クロロ」

「はい。」

(こうなったら絶対生きて帰らせなきゃ。ついでに魔石も。)

「はいって、俺一応年上なんだけど。」

「じゃあな!」

「待てってまだ話は・・・っち帰ったら覚えてろ。行くぞクロロ。」

「はい。」


こうして余計な心配事が増えたクロロもといクロムだった。


「なあ、クロロ結局、陰影草ってどこにあるんだ?」

「前は最下層に生えていましたけど。」

嘘じゃない。三年前にも来たことがある。

「じゃ、とりあえずこの階段は下りたほうがいいか」

と言いながら二人が足を踏み出さないのは、階段を埋め尽くすラッディクオークの所為だろう。

「別の道探しますか?」

「いや自体は一刻を争う。突っ切ろう。」

(妹が病気だ、なんて言い訳使わなきゃよかった。)

クロムは激しく後悔していたが、前の男はやる気満々で駆け下りようとしている。

(しょうがないか。)

「ジェスさん。」

「何だ?」

「今から僕が攻撃魔法を放つんでその隙に駆け下りましょう。」

説明している暇は無い。魔物たちの動きが激しくなっている。

「デリーグライトバースト!」

一瞬、坑道内が明るく照らされ、すぐに何も見えなくなる。暗くなったのではない、明るすぎるのだ。

いくつもの光の奔流が一本の太い光線となって、階段まで突き進み魔物の大群に突撃。それでいて尚、勢いは衰えない。終には魔物の大群を簡単に消し飛ばし、坑道の壁にぶち当たると大音響とともに大爆発を引き起こした。

「すげぇ。お前、魔法使いだったのか。」

「早く、行きますよ。」

(セインとか言う奴の前では使えなかったがこいつなら大丈夫だろう。)

ジェスの少年のようにはしゃぐ姿を見てそんなことを思ってしまった。

階段の下に下りると、さっきの魔法で空いたのだと思われる大穴が下の階までぶち抜いていた。

「ラッキーだったな。これで一気に下まで行けるぞ。それよりお前パーティ組まないか?」

(さっきの力を見ても何も主は無いのか?おそらく本当にいい奴なのだろう。)

「いえ、やっぱり村のことが心配ですから。」

「そうかー、やっぱり妹のことが心配だよなー。」

ジェスは村の部分を勝手に妹に変えて何やら頷いていた。

「おっと、危ねえ。飛び降りるぞ。」

「はい。」

僕は危なげなく着地したのだが、ジャスはこけてしまった。

「痛ててて。確かセインは三階構造とか行ってたから、ここが最下層か。」

「はい、そのようですね。」

「だけどさっきまでの様子となんか違うなあ。」

さっきまでは、ライトや昔の道具が残ってたりだとかしてたのだが、今はやけに通路が広い。それに筒状に伸びている。

その時、僕は脳髄にピシリと来るものがあった。

「ジェスさん。ライアントクオークですよ。」

「らいあんとクオーク?絵本かなんかか?」


『グギュオオオオオオ』


「あれですよ、あれ」

「何じゃありゃ、気持ち悪すぎ!」

「と、とりあえず逃げますよ!」

そこには先ほどまで倒してきたラッディクオークをでっかくして足をさらに付け足したようなものがいた。実際に見えるのは巨大な複眼と顎の牙だけだがゆうに幅は十メートル以上長さは一キロを超える者もいるという。

顎の破壊力は中級ドラゴンを凌駕する地中最強最大の虫。ラッディクオークの雌が何らかの影響で、百年以上生き完成体となった姿。繁殖力が非常に高く巣を荒らすものに対してはきわめて凶暴。『地中の女王』誰がそういったか知らないが討伐ランクA+の魔物だ。

「かなり怒ってるよー。」 

「あれだけ子供殺せば無理も無いな。」

「ど、どうします。」

「さっきの魔法は?」

「こんな所で使って岩盤が崩れたらどうするんですか!!」

「さっきのはなんだったんだよ!」

「あれは魔物だけに当てるように絞る時間があったからですよ。」


『グギュオオオオオオ』


「戦意が萎える。あの声聞いてるとー!!」

「僕ら死にますよー。このままじゃ!!」

(ライアントクオーク。想定はしていたが、まさか巣の真ん中に出るとは・・・どうするどうする。)

「どあしゃー。」

「っちょ、こんな所でこけないでー」

「クロロ、俺のことはもういい先に行け。(笑)」

「何笑いながら行ってんですかー!!」

「それは、俺はこんな所死なんと言うことだ!ライオンとクラークだかなんだか知らんが覚悟しろ。」

なんと、ジェスはオノを振り上げるとそのまま突進していった。

「こんな小回りの利かん所で俺に挑んだのが間違いだったな。くらえ!!」

ジェスは牙が届く直前で斜め前に跳躍、ライアントクオークは避けるにも牙を振り回すにも狭すぎた。


バキッ


ライアントクオークの眉間に直撃。

「時間は稼いだぞ。今だー。」

「は、はい。デリーグライトバースト!!」

(まさかあの状況で攻撃できるとは。)

光の奔流が一本の束になり眉間のヒビ一点に集中。


ピキキキ・・・


殺ったか?


パリン


表面を覆っていた。殻が崩れだしその下から白い殻が現れた。おそらく冒険者達はこの姿を見てこう呼んだのだろう。『地中の女王』と。それほどまでに純白に輝く姿は美しかった。光届かぬこの地中でそこまでの美しさを持つ必要はあるのかと思うほどに美しかった。

「こいつホントはこんな姿だったのかよ。」

「そのようですね。」

ライアントクオークは本来あらゆる地を巡り子を産み落とす。一所にとどまる事は無い。それ故ラッディクオークが増えすぎることは無い。気性もきわめて温厚で、ドラゴンと同じように非討伐魔獣に指定されている。

しかし、今回のケースのようにライアントクオークが大量の魔力を体内に取り込むとライアントクオークは凶暴化し一所で生活するようになる。今の外郭はその不要な魔力を排出するさい皮膚上で結晶化したもの。そのため魔力が体外に排出できず体内に留まるようになる。そうなった場合今の様に殻を割ることで正常に戻る。ライアントクオークの討伐とはそういうことだ。しかし、これはライアントクオークが殺されかけたことを意味する。だが、まあ・・・

「これで、生態系も元に戻るでしょう。」


『キュルルルルルル』

ライアントクオークは穴を掘り始めた。

「ちょい、待てこらー逃げるきかー。」

「いいんですよ、ライアントクオークの場合これで討伐したことになるんで。」

「マジか?」

「はい、この殻を持って帰ればOKです。」

「以外にあっけなかったな。」

「まあ、僕の魔法攻撃があればこそですね。」

「言うなあ、お前。そういえば陰影草。」

「これですよ。」

さっき、無人採掘機を使っていたことは内緒だ。もちろん魔石も入手済み。

「いつの間に。」

「さっきですよ。」

「ま、いっか。」

しばらく、洞窟内には二人の笑い声が響いた。


「よう、セイン」

「ジェス無事だったのか。」

「何とかな。」

「クロロは?」

「妹のことが心配なんだってよ。」

「手のそれはもしかして・・・」

「ああ、それが聞いてくれよ。実はなあ・・・」

セインはジェスの擬音効果だらけの説明に時々口を挟みながら聞いていた。

「それでよう、俺の大活躍でライアントクオークの殻がドバーと。それでめでたしって訳さ。これがその殻なんだが、クロロは分け前も要らないんだとよ。きっと礼のつもりなんだろうが・・・」

「まあ、良いじゃないか。それよりクロロが唱えたって言う・・・」

「デリーグライトバーストか?」

「ホントにそういったのか?」

「ああ、あれはすごかったよな。俺の決死の攻撃の次にすごかった。うん」

しかし、セインはジェスの話を聞いていなかった。

(光魔法の中の上級魔法を杖なしで二度も使えるとは。黒いコートに光魔法、あのゴーグルは灰色の瞳を隠すため・・・クロロは魔王なのか?・・・だが、なんだかんだで最後までジェスを守ってくれたようだし、ジェスが助けたいと言うような奴だ。根はいい奴なのだろう。)

このあとセインは小一時間ジェス武勇伝とやらを聞かされるのだが、それはまた別の話である。


クロロいや、クロムは西に向かうことにしていた。

「なかなか、いい奴だったな。」

最後まで嘘を信じてさらに助けようとしてくれるとは思っても見なかった。

「あれで礼はできたかな?」

クロムは顔に軽く笑みを浮かべると西へと歩き出した。

これで臨時パーティは解散です。次回はそろそろクロムに魔王らしいことをやらせようと思います。

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