第一章 臨時パーティ結集
途中から、ラッディクオークと書くのが面倒になりました。
僕は森を東に向かっていた。本当は西の村に寄りたかったのだが、昨夜のこともあり警戒されているかもしれない。
そのため僕は当初の目的を変更し、ヨーホルンの廃鉱に向かうことにした。
廃鉱とは言っても、実はまだ十分採掘可能である。問題は最近になって増えた魔物の方だ。
何故そんな所に行くかと言うと、魔石を採るためである。
何を隠そうこの僕はなんと魔具職人なのだ。普通、素材を確保するには商人などに注文するのだが、生憎僕は犯罪者だ。しかも、国内最上級犯罪者だ。
と言うわけで素材の確保も命がけ、親父を超せる日は何時になるやら。
しかし、国内最上級犯罪者になった、なんて言ったらなんていうだろう?
おそらく親父は『おまえがまさか犯罪の道で俺を超そうとするとは思わなかったぜ。まあ、確かに魔具士として天才の俺を超そうと思ったら、一生無理だもんな。何でも魔王って呼ばれてるんだっけ?俺を超すにはせめて、国の一つや二つぐらい軽く落としてもらわないとな。ガッハッハッハ。まあせいぜい頑張れよ。』とか言いそうだ。
人としての常識が欠落しているとしか思えない。
そもそも、村を追い出された時の言葉が『親としての愛を持ってここに宣言する。
あと十年で俺を超えて来い。
よし、とりあえず魔物の巣窟とか言ったか?冥界の穴とか言うこの世でもっとも深く危険な場所で、そこに言ったら帰ってこれねぇって言う穴があるらしい。そこの最下層に転移させてやるからよじ登って出て来い。十年したら帰って来いよ。じゃな!おっと、もし無名のまま死んだらの話だが、冥界から魂引きずり戻して千回殺した後、俺じきじきに鍛えてやる。だから安心しろ。じゃあ、悪名でも何でも良いから伝説になって来いよ!!』だ。
あの時は死にそうだったぞ。まあ、あの時の経験が無かったらもう生きていないだろうが・・・
実際、親父は人間離れしている。十一の属性魔法をマスターし、この世界最強の戦艦ノールドフェリアをたった一人で完成させた挙句、災厄と呼ばれた黒の神パンドラをこの世から消滅させたのだ。この世界で父の名を知らないものはいない。
もちろんそんな英雄の子だ。回りからも僕は期待されていたらしい。しかし、父に比べ僕が扱えるのは光属性と無属性のみ、しかも無属性は魔力量が極めて少ない。魔具の作成ではさまざまな属性を用いる。属性の数=技術といっても過言ではない。つまり、僕は魔力総量こそ父以上に高いが、魔具士としては落ちこぼれなのだ。
それでも僕はあきらめない。光以外の魔石を生成できなくてもこうして自分で採掘すればいいのだ。
ちょうど、タイミングよく廃鉱についた。
「真っ暗だな。」
廃鉱なので当たり前なのだが・・・
ゴーグルが自動的に光量を調節したお陰で奥の方まで見えるようになった。
瞳が灰色なせいか、僕の目は光に弱い。直接太陽を見るとしばらく目が見えなくなる。
親父の作品だと言うのが気に食わないが、このゴーグルには色々と助けられている。
「さてと、あれを使うか。」
空間魔法を利用した、布袋から魔力検知器を取り出す。
「ん、ふむ入り口だからこんなものか。おや?」
どうやら僕以外にも人がいるらしい。
魔力検知器によると少し先らしい。会いたくないが、しばらく一本道だ。
(しょうがない、何食わぬ顔で追い越そう。)
クロムは廃鉱の奥へと進んで行った。
そのころ、廃鉱の奥には大きなオノを持った戦士風の男と、剣士風の中性的顔立ちをした男、白いローブをまとった魔法使い風の女性が歩いていた。
斧を持った男が震える声で言った。
「なあ、セインやっぱり引き解さないか。」
一歩歩くたびにカンテラの明かりが揺れ怪しげな陰を作り出す。自らのカンテラ以外明かりは無く目の前の暗闇からは今にも何か飛び出してきそうだ。
セインはなにかうそ寒い物を感じながら口を開いた。
「ジェス、何回も言ってるだろう。この依頼は途中であきらめると契約違反でギルドからの罰金が発生する。つまり金が無くてこの依頼を選んだ僕たちには・・・」
「違反金は払えない。そうでしょ?」
「ああ、そうだ。」
「だけど、よう。ここむちゃくちゃ幽霊でそうじゃん。俺そういうの苦手だって知ってるだろ?それに廃鉱内の魔物を一掃しろなんて三人でできるわけないじゃん。」
「依頼には複数パーティ受注可となっていた。他にもいるだろう、たぶん。そもそも、この依頼を受けようと言ったのはお前だろ。」
「二人とも静かにして、何かが近づいて来る。」
「何かまではわからないかのか?」
「残念ながら。」
「ぜってー幽霊だ。やっぱりいるんだよー。悪霊退散、封魔破邪」
「って、泣くなよ男の癖に。」
「だから静かにしてって言ってるでしょ!」
(ジェス、幽霊と怒ったマリアどっちが怖い?)
(そりゃ、マリアに決まってるだろ。)
「何こそこそ話してるの?」
「なんでもないです!」
ジャリ ジャリ
(足音、魔物が迫ってるのかも。)
(そうだな一人でこんな所来るとは思えない。)
(よかった幽霊じゃない。)
それぞれ緊張した面持ちで得物をかまえた。
しかし、暗闇から現れたのは黒いコートを着た少年だった。
そして少年はそのまま奥へ向かっていく。
「お、おい。ちょっと待て。」
あわててセインが呼び止めるが、そこで少年は急に駆け出した。
「皆、どういう理由があるにせよ、ほおって置けない。追うぞ。」
「任せとけって。」
「了解よ、リーダー。」
もう二、三分は追いかけているだろうか
「あいつ、足はえーな、マリアもセインも大丈夫か?」
「なんとか」
「右に同じく。」
しかし、少年の逃走劇は唐突に終わりを告げた。
「ん、あいつ止まったぞ、あきらめたか?」
その頃、少年ことクロムは・・・
「まだ、追ってくるか・・・」
急に開けたところに出る。
「これは、ラッディクオークか。なんて数だ。」
そこには、壁が動いているのではないかと思うほどの魔物がいた。
少なくとも二、三十匹はいる。巨大な牙を振りかざして穴を掘っていた。暗闇だから分からないが、赤黒い甲殻はかなり硬い、剣に電撃を纏わせたぐらいじゃ利かないだろう。
「しょうがない、あれを使うか。」
双剣に魔力を通す。
僕が製作した、この双剣の正式名称はクロム式爆発機械双剣M−0156型、名前の通りこの剣は目的に応じ、埋め込まれた魔道機関を利用して二種類の爆発を引き起こす。
一つは・・・
ラッディクオークが飛び掛ってくる。右手の剣を振ると相手に当たった瞬間爆発を引き起こした。
ラッディクオークの甲殻は粉砕し壁に叩き付けられた。
このようにダメージを与えるため前方に放つ爆発。
そしてもう一つは・・・
そのままの勢いを利用して、そばの二体に切りかかる。
僕の意思に応じて片刃の切れない方から爆発が噴射される。
そして二対をそれぞれの剣で両断する。
爆発を推進剤として利用して威力を高めるいわゆるブースター
ラッディクオーク達をかなり刺激してしまったらしい。かなり怒っているようだ。十体ほど同時に飛び掛ってくる。
(さすがに双剣でもこの数はさばききれない。なら)
クロムは双剣を水平に縦に並べて構える。そのまま回転&ブースター&前方爆発
飛び掛ったラッディクオーク達はあえなく撃墜された。
多少めまいがする。百五十六回の改良で、僕とともに成長してきたこの双剣に弱点は無いと言い切りたいのだが、生憎、耐久力の問題でそう何回も使用できない。
残りのやつ等はどうしたものかと困っていると、ようやく三人組が到着したようだ。
「おい、大丈夫か。僕達も加勢する。」
厚意は有難いのだが、ラッディクオークには剣やオノでの攻撃は利きにくい。魔法なら余裕なのだが、おそらく魔法使いも補助専門ぽい。あまり期待しない方が良いかもしれない。
「うらうらうらうらっ」
ジェスは斧を振り回しながら魔物の群れに突撃する。
(斧の大きさからある程度の破壊力を予想していたが、予想以上だ。簡単に魔物たちを吹き飛ばしている。)
「僕も行くか。」
セインは、そう言うと剣に冷気を纏わせる。
(魔法剣士っしかも構築型か)
セインつぎつぎと魔物たちを凍らせていく。
「火の精霊よ、その強き力を彼の者達に分け与えたまえ、土の精霊よ、その偉大な力を持って彼の者達を守りたまえ。ハイルート プロテクス」
(二重詠唱での補助魔法かこの三人強い。)
集まっていた、ラッディクオーク達は数分ほどで殲滅された。
「うー、疲れた。」
「久しぶりに運動したなぁ。」
「なんで、ジェスはそんなに元気なのよ?」
「そうだよさっきまで震えてたくせに。」
「そりゃ、戦士だからな。体力には自信がある。」
「そんなことより、君は何でこんな所に?」
(正直に話せる訳は無いよなぁ。よーし・・・)
「あの、えーと。僕はクロロ・フィルと言います。ここから西に行った村に住んでいるのですが、妹が病気でこの辺りにはこの洞窟にしか生えない陰影草と言うものが必要で・・・」
「それなら、冒険者ギルド頼めば良いじゃん」
(ジェスだったか、余計なことを)
「恥ずかしいことにお金が無くて」
「その割には結構高そうなコート着ているよね。」
「えっと、それは・・・」
(余計なことを・・・)
「セイン、疑うのはよせ、妹さんのためにこんなとこまで来てんだ、泣ける話じゃねーか。」
「ジェス、あなたはもう少し人を疑うことを覚えた方が良いわよ。でも、まあ確かに可哀相ねぇ。」
「ジェスもマリアもそこまで言うなら、クロロだっけ、僕たちが陰影草を探してあげるよ。図鑑で見たことあるし。」
「そんな、有難うございます。でも、場所までは分からないですよね?大体の場所なら分かります。やっぱり僕も行きます。」
「でもなぁ、さすがに君を守りながらは戦えないよ。」
「大丈夫です。自分のみぐらいは守れます。」
「良いじゃないか、セインさっきの戦いで腕も分かったし。」
「うーん、よし分かった一緒に行こう。」
「有難うございます」
(まったく面倒なことになった。この先どうするか。)
(うーん本当に大丈夫かなぁ。)
それぞれの思惑が渦巻く中一行は先へと進んでいくのだった。
次回、いよいよボス登場。よろしければ感想、希望等もお願いします。