ぐるぐる巻きって怖いね、
森である。見渡す限りに森である。
砂浜から1時間程たっただろうか?!トミーは森の中でさ迷って
いた。
『北ってどっち?』
そうギーズが北といい指差していた
方向へ歩いていたのだが、
目印も何もない森の中で方向
感覚が狂っていた。
ふと空を見ると陽が少し傾いて
いるのが見えた。
『ん~太陽は西に沈むからそれに対して右にいけば北だよな?!』
と何となく北とおぼしき方向に進んでいく。
『ていうかあれだよな~
いい加減にそろそろ服が欲しいよね。』
そうパン一である。元の世界での夏ごろの陽気なので寒い訳ではない、
訳ではないがパン一の格好で
人族の国にいれてもらえるとは
思えないので、途中で何とかせねば
と呟いていた。
ただ歩いているだけでは暇なので
歩きながらできることを考えて
いると、魔法で服とかできないか
考える。
『光学迷彩…姿がみえない
モザイク…色々な意味でダメ
毒服…うーん。』
と悩んでいるとトミーの前方から
バキバキと木をなぎ倒す音が聞こえた。さっと近くの木に姿を隠し、
そっと顔だけだして様子をうかがう
すると、30mほどの前方にいる魔物
を目にとらえた。
赤色の毛皮に頭に1本角を生やした
5mはあろうかという大きな熊だった
LV35
種族 レッドボア
HP 600/620
MP 50/50
攻撃力 380
防御力 285
素早さ 95
(やべぇ!!俺より強いぞこいつ!
こんなことになるなら
先に色々魔法つくっとけばよかった)
後悔先にたたずとはこのことである。
だがレッドボアはこちらに気づいた様子はない。あわよくばやり過ごす
ことができるかもと、見えないように木に隠れる。
『ぷぅぅぅ!!』
……やってしまった。極度の緊張感に
お腹がやらかしてしまったようであ
る。だがレッドボアは、ハッキリと
分かっている訳ではなかった。
ただ何かいるなという不穏な空気
いや、不穏な匂いを嗅ぎとっていた。
『ぶっっ!!』
……トミーは思わず自分の腹を殴っていた。
(静まれぃ!静まれぃ!)
次の瞬間、
『ヴォォォォッ!!』
バギャッ …メキメキメキ…ドォン!
トミーの耳元で轟音が鳴り、木の倒れ
る音がした。恐る恐る振り返って
見上げると…レッドボアと目があった。
『ぎゃぁぁぁぁ!!
ファイアーボール!
ミキサー!
デトックス!
ダイソン改!』
トミーは覚えた魔法を唱えていた。
ドォン!と爆発音が聞こえたのち
ギャリギャリと切り刻むような音が
聞こえた。
よく見るとレッドボアから煙りが
でていて体の部分だけにミキサー
が発動していた。体以外の手、足、頭はレッドボアが大きすぎて
範囲外だったようである。
デトックスは意味なかったようである。ダイソン改も発動こそしたが
何も吸い込まず消えていった。どうやら生きていると効かないようだ。
トミーはミキサーが使えるとふみ
連発する。
『ミキサーミキサーミキサー…!。』
トミーの唱えたミキサーがレッドボアを捕らえる。全部で6つの球体が
レッドボアを覆っていた。
顔に1、両手足4、体1である。
6つのミキサーが出す音が凄まじく
トミーは思わず耳を塞いでいた。
次第にひとつ、またひとつと
ミキサーが消滅していき、
レッドボアが姿を現す。その姿は
瀕死そのもので、ミキサーに刻まれた切り傷は全身に及び、立っている
のもやっとのようであった。
『くっ!中々しぶといなっ!!』
後は、トドメを刺す状況にトミー
の中二病魂に火がついた。そして
拳に力を込める。
『トドメだ!!くらえぃ、我が金色の拳を!』
まったくもって拳は光っていなかった。だがそれでも瀕死のレッドボア
には致命傷だった。
トミーの拳が腹にめり込み
ドォンと音がした後、
レッドボアは空を見上げ倒れていった。トミーはレッドボアに背を向け
トドメを刺した右こぶしを天高く掲げる。
『捕ったどー!!』
勝利の雄叫びが森に響き渡った。
『ふぅ!死ぬかと思った。』
深く深呼吸をして先ほどの戦いをふりかえる。
自分のお腹の勝手な単独行動により
死の局面に立ち会ったことを思いだし、頬を赤く染める。
『そうだもんな!こんな大物相手
だもんな!』
と慰めるようにお腹をさする。
『まっとにかく、こいつをどうにか
しなきゃな。』
レッドボアに目をやる。赤色の毛皮で
わからなかったが、よくよく見ると
血だらけであった。
『えーと、とりあえずキレイにするか!!ん~~これだな!?』
【クリーニングを覚えました。】
『クリーニング!!』
レッドボアを水の塊が覆い、ワシャワシャと洗っていく。
自分にもと、トミーは自らの体に
クリーニングをかける。
そして、キレイになった自分の体
をながめ、
『あれ?濡れてない!
まさかの乾燥付きか!!』
と、クリーニングの使い勝手の良さに
舌を巻く。
『おおっ!!レッドボアもキレイになったな。でもなぁ傷がつきすぎ て毛皮が台無しだなぁ。
とりあえず保管するか。
ダイソン改!!』
と、レッドボアを吸い込み、休憩するかと近くの切り株に腰をおろす。
トミーは魔法創造を使い魔法を開発
していた。自らの知識を
フル動員してありえない様な魔法を
つくっていた。
『ふぅだいぶできたな!!
これでよっぽどでない限り大丈夫だ
ろう。…と飯にするか。えっと
探知機!。』
トミーの目の前に半透明のスクリーン
が現れる。そしてそれをあれやこれやといじくる。
『うーん探知範囲は1キロが限界かぁ。生物反応を赤で表示するようにしてっと。ん~~800m程離れた所で小さな反応が二つあるなぁ
まぁ動いてないからいいかな。』
と食事の準備をする。
キメラフィッシュの干物を焼くだけであるが加工してあるのでいつもより美味しそうである。
『モグモグっ!うん塩加減も丁度いいな。旨いやっ!!』
干物の出来映えに満足し、腹も満足したトミーは先程あった小さな反応
が気になり、行くことにした。
すると、ふいに『たーすーけーてー』
と聞こえた。まさかと、辺りを見回して、探知機を発動すると、
先ほどあった二つあった反応が
一つになっていた。いやこれは重なっているなと思い、足早に向かう。近づくにつれてハッキリと
声が聞いてとれ、女性の声だと
わかった。後100m程の所で
足を止めるトミー
『スコープ!!』
すると目の前で見えていたものが
拡大ズームされていく。
そして声のした方向へと目をむけると
クモがいた。その傍らには糸で
ぐるぐる巻きにされた何かがいた。
『なんだあれ?片方はクモで、ぐるぐる巻きにされてるのは人?ではないな!
小さすぎるもんな。
あぁ見ちゃったもんなぁ
助けるか!よしこれだな!
クモをとりあえず追い払おう。
パチンカー!!』
ポン!!と煙りがでて、遠距離攻撃武器がでてきたYの形状で両端の端からゴムのようなものが1本繋がっていた。
『よしっ!玉はと…これでいいか!』と足元から小石を拾いゴム状の真ん中に挟み、人差し指と親指でぎゅっと押さえつけ、思いきり引っ張る。
『いけ~!!』
ビュンと風を切る音と共に小石が
飛んでいく。とっさに選んだに
しては丸い方だった。そう
丸いほうなだけで丸くはなかった。
そうすると、普通は空気抵抗の
関係で目標物に当たるのは、
難しいはずだった。だがここにきて
トミーの持って生まれた運なのか
小石はクモの魔物にめがけてとんで
いく。大きさにして手の平ぐらいの
大きさのクモだろうか。そして
その脇にも同じ大きさでぐるぐる巻きにされた何かがいた。
トミーは確信する。間違いなく当たると、
そして、その瞬間はやってきた。
小石は勢いを殺すことなく飛んでいき、くもの鼻先をかすめ、
ぐるぐる巻きにされた何かに直撃
した。
『ぎゃっ!!』
断末魔のような声が聞こえた。
クモは何事かとビックリして
遠くへ逃げていった。
トミーは何も発する事なく、
ぐるぐる巻きにされた何かに向けて
走った。…力の限り走った。
まだ生きていることを信じて。
そうして無事、ぐるぐる巻きにされた
何かに到着するなり
『ひぐちカッター!!』
といい、クモの糸であろう部分だけを
丁寧に切っていく。匠の技である。
さすがひぐちカッターである。
糸を切りほぐしていくと、
可愛らしい妖精が白目をむいて
痙攣していた。ピクピクと
『させるかぁ!!
ハイヒール!ハイヒール!』
トミーはハイヒールを連発した。
けして女性用の靴ではない。
ヒールのパワーアップした魔法である。
するとどうだろうか、先ほどまで
どこかへ旅立とうたしていた妖精
が意識を取り戻した。