第7話:名前
バタンとドアを閉めて、部屋の中には僕と獣人の二人きり。
「.......」
「.......」
この重々しい静寂を破ったのは、獣人のほうだった。
「あの...なんで名前を付けるのを躊躇ったの?」
「...この世はね、強き者から死んでいくんだ。」
「なんで?」
「わからない。
けど、僕には、少し前世の記憶が残ってるんだ。前世の僕は、死ぬのを恐れていた。
だから、この世界にかけられているこの呪いを解く方法を必死に探した。」
「それで...見つけたの?」
「見つけた...けど、そこまでの記憶は残ってない。」
前世の僕は、確かに呪いを解く方法を見つけている。しかし、全くそれを思い出せない。
それを思い出さないと、きっと40歳になる前に死んでしまう。
涙が1滴、頬を伝う。
獣人は、指でそれを拭き取る。
「それで...名前は付けてくれるの?」
「...ごめん。まだ、考えさせて...」
パートナーなしで生きていく人生も、全然ある。
少しだけ珍しいだけで...
僕は、気分を変えるために、いつもの広場に行くことにした。
ドアノブに手をかけると、後ろから話しかけられた。
「どこへ行くの?」
「村の子たちが集まる広場。」
「私もいっていい?」
「まぁ、いいけど。」
僕がそう言うと、獣人はボンっと煙を上げて、狐の姿になった。モフモフである。
狐は、僕の肩に乗ってきた。顔に、モフモフの尻尾や毛並みが当たる。
僕は、広場に着くまで心の中で存分に堪能した。
「「「シンハ〜!やっほー。」」」
広場に着くと、いつもの子供たちに声を掛けれられる。
「肩のやつ、狐?」
「かわいいー」
「そいつが新しいパートナー?」
「うん。まぁ...」
「っていうか、お前村中で噂になってるぞ。」
それはそうだろう。神紋なんて、滅多にいない。自分の村にいるだけで、誇らしいことだ。
僕は今日、パートナーだとか名前だとかは考えないようにした。
何も考えずにいつも通り、夕暮れまで遊んだ。
「「「じゃあね、シンハ!」」」
「あぁ...またな。」
僕は何も考えないまま、家に帰った。
今日は、いつにもまして疲れた。
半ば倒れるように、ベッドに横たわった。
フッと目を閉じて、夢の中に入ろうとした瞬間
ーーガシャァン
窓が割れたような大きな音がした。
その数秒後に聞こえたのは
グラフィアの悲鳴である、