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※本日四度目の更新です
「いっそのこと私たちで、部活を立ち上げませんか?」
という大変魅力的な提案を美紀ちゃんがしてくれたのだが、部活を立ち上げるには、最低20人、集めないといけないことや、諸々の手続きを考えて、断念することになった。
でも、その代わりに、月に何度か三人でお茶会をしようという話になった。美紀ちゃんと遼子ちゃんと過ごす時間が増えるのは、素直に嬉しい。喜びながら、帰路に就く。
■ □ ■
「ただいま戻りました」
といったものの、帰ってくるのはお手伝いさんの返事だけだ。嬉しい気分が一気に沈む。自室に入り、ため息をつく。もう一年も経つというのに、未だに淳お兄様のおかえり、を聞けないことも、隣の部屋を気にしない生活も慣れない。
こういうところが未熟で、淳お兄様と対等になんか全然なれないよなぁ、と思うけれど。
「淳お兄様……」
会いたいなぁ。会えなくてもいいからせめて声が聴きたい。……そうだ、電話! 携帯を取り出して、淳お兄様へかけようとしてはた、と止まる。好きだと意識する前は、もっと気軽に電話ができていたけれど、そんなときってどんな内容を話してたっけ? ものすごくくだらないことばっかりだった気がする。それでも、淳お兄様は毎回私の話を最後までちゃんと聞いてくれた。でも、今の淳お兄様は、お姉様と両思いだし、それどころか、一つ屋根の下だ。もしかしたら、いちゃいちゃしているのかもしれない。そんなときに私が電話をしたら、お邪魔ではないだろうか。
どうする? どうしよう。
――結局迷っているうちに、私の恋愛脳は思わず、コールボタンをタッチしてしまった。
プルルルル
電話の呼び出し音が鳴る。出ないで欲しい、という思いと出てほしいという思いが半々になってぐちゃぐちゃだ。
コール二回で繋がった。
『もしもし、楓?』
「お久しぶりです、淳お兄様」
ただ電話を切りたくなくて、今日が入学式だったことや、部活見学をしたことなどをとにかくしゃべりまくった。淳お兄様からしたらどれもくだらない話なのに、今回も淳お兄様は最後まで話を聞いてくれた。
『大丈夫、楓?』
私が一通り話しつくすと、淳お兄様は心配そうな声でそういった。少し低い落ち着いた声はよく耳になじんだ。
「えっ……?」
『最近電話するなんて、珍しいから』
どうやら心配をかけてしまったらしい。
「何でもないんです、ただ」
別に何かがあったわけではなく、ただ、貴方の声を聴きたかった、という言葉は寸前のところで飲み込んだ。お姉様と両想いな淳お兄様にとって、その言葉は負担になるだけだろう。
「ただ、淳お兄様はどうしているのかなって、それだけです」
『そっか、ならいいけど』
淳お兄様は、私の言葉を疑うことなく、大学の近況などを話してくれた。
『僕の方は……といった感じかな。それじゃあね。……楓?』
電話は掛けたほうが切るのがマナーだとわかっているけれども、名残惜しくて中々切れない。
「ごめんなさい、淳お兄様の方で切って頂いてもいいですか」
『? わかったよ。それじゃあ、おやすみ』
「はい。……おやすみなさい」
今度こそ、電話は切られた。
「……はぁ」
携帯を握りしめてため息をつく。淳お兄様と物理的距離が離れて、好きだという思いは薄れるばかりか、どんどんつのるばっかりだ。
いずれは婚約破棄されるというのに。
――その時に、私は上手く笑えるだろうか。