表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次女ですけど、何か?  作者: 長編
小学生編
5/59

鳳海学園の初等科と中等科には給食がある。高等科に入ったら、お弁当や学食だ。

 給食と呼ぶにはかなり豪華すぎるものを食べ終えた後は、昼休みに入る。


 いつもは読書やなんかで時間を潰すが、今日は違う。

 大丈夫。大丈夫だ。イメージトレーニングはしっかりしてきた。ベッドにおいているクマ男くん相手に練習もした。姉にコイツ何してんだ、という目で見られたが……それだけ頑張ったということだろう。

 あとは、自然に言うだけだ。

 強張らないように注意しながら、笑みを浮かべる。

「あの、美紀(みき)さんと遼子(りょうこ)さん?」

「はい、何ですか?」

「何でしょう、楓様」

美紀ちゃんと、遼子ちゃんは私の取り巻きの子たちの代表のような存在である。血の繋がりはないはずだが、どことなく雰囲気が似通った二人だ。

 この二人に聞き入れてもらえたら、自然と他の子たちも様づけを直してくれるだろう。ちなみに、チキンな私は実際に、二人をちゃんづけしたことはない。私の心の中だけで呼んでいる。上手く立ち回って、どうにかちゃんづけ出来る関係になりたいものだ。


 ──そう思っているのに。

 きらきらきら。

 きらきら光っている瞳が目にまぶしい。

「……うっ!」

「大丈夫ですか!楓様」


 優しい二人は、私が呻くと駆け寄ってくれた。

 大丈夫じゃない。全く大丈夫じゃない。


 彼女たちの目の輝きは、目が潤んでいるからじゃない。尊敬だ。目から「私たちはあなたを尊敬しています」オーラがでているのだ。

 友人という関係にもお互い尊敬することは必要だろう。でも、これは違う。こんな尊敬を私は知らない。


 もっと気軽な空気が欲しいのだ。


 「……ええとね、二人とも」


 私が呼吸を整えて、話し始めると二人は小首を傾げた。そんな姿も可愛い。……じゃなくて、可愛らしいけれども。


 尊敬してくれるのは嬉しいが、私はそんな大層な人間ではないのだ。

 それに、そんなことをするつもりはないが、もし間違って私が姉や妹――ひいては淳お兄様や前川を――敵に回してしまった場合には、私をスパッと見限ってほしいのだ。

 自意識過剰かもしれないが、彼女たちは、どこまでもついてきてくれるような気がする。

 ついてこられてもその場合、最悪の場合私は自殺をしてしまうし、そこまでいかなくとも何らかの処罰は受けることになるだろう。そうなれば、私は彼女たちを守ることが出来ない。

 彼女たちが巻き込まれなければいいが、記憶に間違いがなければ、彼女たちは漫画で道脇楓(わたし)と共に姉や妹に様々なことをしていたので、巻き込まれる可能性が高い。


 「呼び方を変えて欲しいのだけど、駄目でしょうか?」 


 私がそういうと二人ははっと目を見開いた。

 よかった。自然に言えたようだ。

 私がほっと胸を撫で下ろすと、彼女たちはおろおろとしだした。


「申し訳ありません!」

「気付かずにすみません!なれなれしかったですよね」


 深く頭を下げられた。

 アレ。何だかおかしくないだろうか。様づけってなれなれしいどころか、丁寧すぎると思う。


「道脇様!!どうかお許しを」

「もう二度と楓様とお呼びしません!!」


 どうやら彼女たちは私が、名前で呼ばれるのを嫌がったととったらしい。違う。寧ろ、呼び捨てにしてくれ、と言いたいがぐっと堪える。いきなりそこまで求めるのは酷だろう。


「……そういうことではなくて」

 私が溜息をつくと二人はびくっと体を強張らせた。いけない、そういうつもりではなかったのに。もっと、にこやかに穏やかに言わなければ。頭ではそう思っているのに、だんだん頬の筋肉がひきつってきた。普段から使わないからこうなる。家に帰ったら、笑顔の練習をしよう。


「下の名前で呼ばれるのが嫌なわけじゃないの。そう呼んでもらえて嬉しいわ」


 私がそういうと、ようやく二人は顔をあげてくれた。

「え、じゃあ……」

「これからも、楓様とお呼びしても……?」

私が大きく頷くと、とても嬉しそうな顔をした。

 「「ありがとうございます!!」」

なぜ、これだけでそこまで喜ばれるのかは謎だが、私が二人をちゃんづけで呼びたいのと同じような感覚なのかな。ううむ、よくわからん。


 「私の名前に『様』をつけるのをやめて頂きたいの。私たちは、同じ年齢なんだし、他の方と同じように呼んで下さらないかしら」

自分と歳が違う相手なら、様を使う場合は多々ある。けれど、私は姉や前川や赤田とは違うのだから、様づけはやめて頂きたい。

 私がお願いすれば、すぐに聞き入れてくれるだろうと思ったが、予想に反して二人は首を振った。

「ええっ!そんなの無理です!!」

「そんな失礼な真似できません!!」

いや、だからその私がいいっていっているのだけど。


 「……よろしければ、なぜそのように呼ぶのか聞かせて頂けませんか?」

「だって、楓様はあの青薔薇(ブルーローズ)冬月様(ふゆづきさま)と対等に話せるお方で、いいえ、冬月様だけじゃないわ、他の上級生の方々とも堂々と話すことができる方ですよ」

「冬月様って……?」

何だか聞いたことのある名前だが、思い出せない。

 「ええと、この前も教室にいらしていた……メガネが特徴の……」

「ああ!」

メガネ先輩のことか。確かにこの前の前川家主催のパーティにも参加していたけれど、メガネ先輩そんなすごい人だったのか。知らなかった。


 「それに、私たちがもし楓様とお呼びしなくなっても、他の方はそう呼ばれると思いますよ。男子の間でもそう呼ぶようになっているみたいだし」

なぜ、なぜに男子にまで広がってるんだ。この前までは、女子のしかも私の取り巻きの子たちだけだったはずなのに。

「前川様とやりあえるのもこの学年で、楓様しかいらっしゃいません」

 まえかわめえええええ!!!!アイツか。アイツのせいか。

 やりあうって、睨まれてもどうしようもなかったからスルーしてきただけなのに。

 だって、大魔王様を呼び出すのにはかなり勇気が必要だ。

 それが仇になったとは。


「……何か勘違いをされているのではないかしら」


 ……というか、何かいいように誤解されている。上級生と話せる……というのは前世があったからだし、メガネ先輩のこともそんな大物だって知らなかっただけだし、前川のことは怖かっただけだ。


「そんなことございませんわ!!」

「勘違いなんて、一つもありません!!」


 きらきらきらきら。

 あ、だめだ。くらっと来た。


「大丈夫ですか!!楓様!!!」


 そのままふらっと倒れた私は、保健室に運ばれた。

 保健室とはいえ、鳳海学園のベッドはふかふかだった。 

 色々とオーバーしてしまった私はベッドで眠り続け、起こされたのは、授業も全て終わった後だった。


 そして、最悪なことに、私を迎えに来たのは姉だった。 


 姉に作った貸しの代償はあまりに大きく、私は様づけをなくしてもらうことを諦めることとなり、踏んだり蹴ったりな一日だった。



 この間七月に入ったばかりなのに気づけば、夏休みはもうすぐそこだった。


 それまでには、先延ばしにしてきた大魔王様の件もどうにかしなければならない。


 胃がきりきりと痛んだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ