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今日は、凰空女学園の運動会である。ちなみに明日は鳳海学園の運動会だ。例によって、お父様とお母様は仕事なので、桃の勇姿を撮ってくるよう頼まれている。そう! 何と桃の保護者役に私が選ばれたのだ! これは、桃と仲良くなる絶好のチャンスである。
ええと、確か桃が出るのは――。プログラムを見ながら確認する。徒競走と五年生のダンス、それから……えっ!? パン食い競争!? 桃がパン食い競争に出るなんて意外過ぎる。
まぁ、でも今日の私の役割は、カメラ係なので、しっかり頑張ろう。
■ □ ■
午前の競技が終わり、お弁当を食べる昼休憩の時間になった。
朝から、頑張って場所取りをした場所で桃を待っていると、ほどなくして桃は現れた。
「えっ?」
私の顔を見るなり笑顔から顔を顰めるのは、悲しくなるからやめてほしい。
「……今日は桜お姉様が来て下さるはずだったのでは……」
「それが、お姉様は急遽予定が入られたので、私が今日は桃さんの保護者です」
私がそういうと、桃はあからさまに残念そうな顔をした。本当に、桃はお姉様が大好きだな。
「……そうですか」
「あっ、でもほら、お弁当を預かってきてますから、一緒に食べましょう」
二人して黙々とお弁当を食べていると、……それで、考えたのですが、と桃は急に話を切り出した。
「何をです?」
「やはり、桜お姉様が淳さんを好きなことはあり得ないと思います」
その話か。でも、淳お兄様もお姉様も私の婚約破棄する気満々だし、信じられないかもしれないけれど、本当のことだと思うよ? そういうと、桃は顔を顰めた。
「桜お姉様ほどの人が淳さんを好きになるなんてありえません」
……それ酷くない? 間接的に淳お兄様のことけなしてないか。淳お兄様は、格好良くて、優しくて、笑顔が素敵で、怒るとちょっと……かなり怖いけど、素敵な人だよ! お姉様にだって負けてないよ!
「……淳さんには楓さん程度の人がお似合いです」
程度って何!? と思いながらも、ふと気になった。
「それで、桃さんには好きな人がいないんですか?」
さっきから私とお姉様のことばっかりだけど、桃はどうなんだろう。桃の話が聞きたいな。
「は、はぁ!? わ、わわ私にすっ、好きな人何ているはずないでしょう!?」
……いるのか。すっごくわかりやすい反応をありがとう。ええーでも、お姉ちゃんとしては、どんな人なのか気になるなぁ。
「凰海女学園……は、女学園だから多分違うだろうし……もしかして、私が知っている方だったりして」
「そ、そんなわけないじゃないですか! ……っていうか、そもそも好きな人何ていません!」
そうですか、と棒読みな相槌を打ちつつ考える。私が知っている人か。……もしかして、前川だったりして。二人が直接話しているのをあまり見たことが無いが、何せ桃は『三女の彼女』のヒロインで、前川はヒーローだ。私が知らないうちに、惹かれていることも十分あり得る。
前川なら、良いやつだし、安心して桃を任せられるんだけどな。
そんなことを考えているうちに、昼休憩が終わり、桃は競技に戻ってしまった。
■ □ ■
桃の運動会が終わり、道脇家別邸に桃の勇姿を収めたカメラをもっていったあと、本邸に戻る。すると、丁度淳お兄様も戻ってきたばかりのようで、ばったり玄関で出くわした。
「おかえり、楓」
「ただいまもどりました、淳お兄様」
今までなら、おかえり、の言葉と共に、頭を撫でられることがセットだったけれど、今ではただ、おかえりの言葉だけだ。それを寂しく感じつつも自室に戻る。
はぁ、それにしても、桃にも好きな人がいるのかぁ。一体誰なんだろう? すごく気になる。
そんなことを考えながら、眠りについた。
……ピピピピッ
「うーん」
目覚まし時計がうるさい。寝ぼけながら、目覚まし時計を切る。まだ七時半か。登校するまでまだ一時間も……
「えっ」
思わずがばり、と飛び起きた!
今日は、鳳海学園の運動会。そして、生徒会執行部は、通常の生徒よりも早く――……七時に学園のグラウンドに集合だったはずだ。
「ち、遅刻だーーー!」