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今回もかなり短めです
どうやら、淳お兄様とお姉様は、両思いだったらしいということが判明して二日後。私たちは、お祖父様に婚約を破棄できないか、掛け合っていた。
「無理だ」
「えっ」
あまりにもあっさりしすぎる返答に、私たちは驚いた。
「楓、お前を道脇家の次期当主である淳の婚約者であると正式に発表している。それを、今さら覆せるとでも?」
そこはお姉様と淳お兄様の真の愛情に免じて、とか。
「無理だ」
に、二回言ったー!! お祖父様が二回言うとか、これ完全に無理なやつじゃん。
どうしよう? と思って淳お兄様の方をみると、淳お兄様は畳に擦りそうなほど、頭を深く下げて懇願していた。けれど、お祖父様は、それを無視して立ち去ってしまった。
「淳お兄様……」
淳お兄様よっぽど、お姉様のことが好きなんだな。そう思うと少しだけ、胸が傷んだ。食べ過ぎだろうか……?
■ □ ■
「……と、言うわけで、私が淳お兄様のことを好きなことはくれぐれも内密にお願いします」
前川にモアイ像の出来が気に入らないから、もう一度作るぞ、と海に呼び出されたので、ついでに状況を説明した。
淳お兄様とお姉様が両思いなこと。でも、お祖父様から私たちの婚約破棄はできないと言われたこと。
「……大丈夫か?」
前川が心配そうな顔で私を見た。
「え、平気ですよ、全然へい……あれ?」
淳お兄様が、誰かを選ぶ日がくることはずっと前からわかっていたことじゃないか。それなのに、何でだろう。視界が滲んで、よく見えない。
「あれ、可笑しいな、あれ?」
どうして、涙が出るんだろう。全然平気なはずなのに。
「……可笑しくないぞ。本当に、好きなんだな」
何故か、その時は烏滸がましい何て思わずにすっと、心に入ってきた。
ああ、そうか。私は淳お兄様のことが好きなのか。
「好きです、本当に好き、なんです」
「……ああ」
好きなんです、と何度もうわ言のように呟く私に前川は肩を貸してくれた。
「うわっ、おいやめろ。鼻水を俺の服でかもうとするな! …………まぁ、いいか」
■ □ ■
「……これは酷い」
翌日、鏡を見ると目がかなり赤く腫れていた。これでは、泣いたことが一瞬でバレてしまい、淳お兄様とお姉様を心配させてしまうだろう。
どうにか冷やして多少ましになったので、自室を出て、階段を降りる。
リビングにいくと、淳お兄様とお姉様が深刻そうな顔をしていた。おそらく、婚約をどうやって破棄するか話し合っていたに違いない。
淳お兄様は、私に気づくと、顔をあげて、おはよう、と挨拶してくれた。
「どうしたの? 目が赤いよ」
「えっとこれは……」
少しはマシになったかと思ったけれど、まだまだだったらしい。淳お兄様が心配そうに顔を覗きこんでいる……ち、近い! 今までこの距離に何とも思わなかったのに、淳お兄様を好きだと自覚したら急に恥ずかしくなった。っていうか、前からわかっていたことだけど、淳お兄様ってすごく格好いい。長いまつげも、すっと通った鼻筋も、憂いを帯びた瞳も、どうしよう。前よりもずっと格好よく見えてしまう。なんか、後光まででそうだ。
「すっ」
「す?」
危ない。条件反射で好きだというところだった。
「すっ……すき焼きがたべたいなぁ、なんて」
「じゃあ、今日の夜はすき焼きにしようか」
かなり無理な誤魔化しなのにのってくれた。優しい。すき。ああ、ダメだ。熱に浮かされて、なんだか頭がさらにポンコツになっている。
「……楓? 顔も赤いよ、大丈夫?」
「大丈夫じゃ、ない、みたいなので失礼します!」
淳お兄様にあれ以上近づかれる前に、リビングから立ち去った。二階からおりてきたと思ったら、すぐに自室に戻る従妹。うん、挙動不審だ。
自室に戻って、深い息をつく。危ない。
まさか、私の頭があそこまで恋愛脳だとは思わなかった。そして、あることに聞いてはっとする。
淳お兄様とお姉様は既に両思い。だけど、私が婚約者の座に収まっているせいで、婚約できない。
そして、私は淳お兄様のことが好き。
「……もしかして、原作より悪役ルートつっぱしってる……!?」




