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次女ですけど、何か?  作者: 長編
中学生編
35/59

35

 「……はぁ」

私が教室でため息をついていると、前川が近づいてきた。

 「一体どうしたんだ? 珍しくシリアスな顔をして」

珍しくって何だよ! 私は、いつでもアンニュイな雰囲気を醸し出しているはずだ。

「はっきりいって不気味だからやめたほうがいいぞ」

前川ははっきり言いすぎだと思う。もう少し口を慎むということを覚えたほうがいい。そう口にしたくなるが、それよりも倦怠感の方が勝った。季節は梅雨。こうじめじめとした日が続けば、ため息をつきたくもなるが、私を悩ませているのはそれだけではなかった。


 中学生になってから早二か月。すでに、入学するときに立てた目標でつまずいたのだ。その目標とは、そう――、交友関係を広げること、だ。


 あの部活の日からというもの、更ちゃんから目線を一度も合わされないのだ。それだけではない。

 あれから何人か料理部にも新入部員が増えたのだが、その子たちからもなんだが避けられている気がする。とても辛い。


 「零次、道脇さん。今日は生徒会の集まりがある日だから、そろそろ行かないと」


 そして、そんな私に追い打ちをかけることがもう一つ。それは生徒会のことだった。生徒会に入れば、交友関係もおのずと広がるだろう、と思っていたのだが、生徒会の大変さを聞きつけたようで私たちの学年で何人か入っていた子たちは次々と辞めてしまったのだ! そのおかげで先輩方にはとても可愛がって頂いているが、同学年で新しくできた友達は皆無だった。


 何たることだ! 非常に由々しき事態である。 

 私は、再びため息をつきそうになり――いや、待てよ。完ぺきな作戦を思いついた。これで友達が増えるはずだ。


 私は、意気揚々と生徒会室に向かった。


 ■  □  ■


 生徒会の集まりが終わったあと、前川たちに勉強会に誘われた。二人は、どうやら学校に残って図書室で勉強するらしい。そろそろテストが近いのだ。

 「道脇も勉強していくか?」

私の目標その2は、テストで10番以内にはいることだ。恐らく今回のテストで一位と二位を取るであろう、赤田と前川と共に勉強することは、私にとって大いにプラスになるだろう。そして、友達と一緒に図書室で勉強して帰る、という青春の一ページも経験できるとってもいいチャンスだ。だが、しかし。

「いえ、私は忙しいので失礼します」


 そう言って、前川たちと別れた。嘘だ。実際は、今日は習い事もないし、テスト近くなので部活もない。しかし私は、前川たちと勉強をするわけにはいかなかった。なぜなら、私の目標は十番以内に入ることだが、じっくりじわじわと順位を上げて、最終的には、一位になりたいのだ。つまり、前川と赤田はライバル。敵に手の内を晒すわけにはいかない。

 

 そして、図書室で勉強しないことにより、まるで全然勉強していないように見せかける。そして、勉強していないのにテストで点数が取れる人、として、有名になるのだ。だって、なんか努力せずに余裕で何でもこなせちゃう人って、カッコよくみえない? そして、私の周りには、私に勉強を聞きにくる子であふれ、私はその子たちに優しく勉強を教えることによって、育まれる友情! 何て完ぺきな作戦だろう。思わずニヤニヤとしながら、道脇家本邸に帰り、私は教科書を広げた。



「………………………………」

 教科書と見つめあうこと十分。


 「……さっぱりわからん」

いやいやいやいや。落ち着け。何のために、家庭教師を雇ってもらってると思ってるんだ! ほら、こことか、あそことか習ったじゃん! ……しかし、習ったときはわかった気がしたのだが、こうしてみるとどうやって解くのかさっぱり思い出せない。やっぱり前川と勉強すればよかったかな。いや、諦めるのはまだ早い。まだ、たったの十分じゃないか。そういえば、何か部屋、散らかってない? そうだ、部屋が散らかっているから集中できないんだ。部屋を片付けよう!


 私が部屋の片付けに熱中していると、

「楓、さっきからすごい物音がするけど、大丈夫?」

淳お兄様に襖から声をかけられた。淳お兄様は、私の隣の部屋だ。恐らく、さっき本棚を整理しようとして、本棚の本を落としまくった音で心配されたのだろう。


 慌てて襖を開けて、淳お兄様に返事をした。

「すみません。少し、部屋の片付けをしていたら、本を大量に落としてしまって……。」

 机の上に広がった教科書と、綺麗に片付いた部屋を見て、淳お兄様は全てを悟ったようだった。淳お兄様は、微笑んで

「もし良かったら何だけど、僕が勉強を教えようか?」

と言って下さったのだ。


 な、何だってー!?淳お兄様といえば、かなり成績優秀だ。そんな淳お兄様に教えて頂けるなら、テストは勝ったも同然。私としては、是非ともお願いしたいところではある。だが、しかし。

私の煩悩は、まだ鎮まっていないのだ。今でさえ、淳お兄様と話しているだけで若干緊張しているのに、教えて貰うとなったら、当然距離が近くなるだろうし、私の心臓が持つだろうか……?


 いや、でも、目の前に成績アップの方法があるのに、煩悩のせいで断るなんて勿体ない!


 結局、私は淳お兄様に教えて貰うことにした。

 淳お兄様は、とても熱心に教えてくれて、その解説を一生懸命きいていると、煩悩が入る余地がなかったので、結果的にはとても良かった。


 淳お兄様は、とても丁寧でわかりやすい解説をしてくれた。

「淳お兄様って、先生にむいていそうですよね」

授業がこんなにわかりやすかったら、私は学校がもっと好きになるだろう。私がふと、そう溢すと淳お兄様は固まった。

「淳お兄様……?」


 私が呼び掛けると、淳お兄様は

「ああ、ごめんね。少し茫としてた」

そういって、苦笑すると私の頭を撫でた。……どうしたんだろう?淳お兄様がそうなるなんて珍しい。しかし、私が感じた違和感は、すぐに再開した淳お兄様の解説によって、忘れ去られることとなった。


  ■  □  ■


 そして、テストを終えて一週間後。

 今日は、待ちに待った結果発表の日だ。後で、個々にテストは返されるのだが、その前に学年の上位五十名の名前と順位が張り出されるのだ。


 50……45……38……28……27、26、25、24、23、22、21、20。

 ドキドキしながら、目線を動かす。

 19……17……15、14、13、12、11。

 ここまで私の名前はない。

 そして――。


 10 道脇楓


 あった! やったーー!!

 淳お兄様のお陰で、私は何とか十番以内に滑り込むことができたのだ。ちなみに、赤田と前川は予想通り、一位と二位だった。

 後で淳お兄様にお礼をしないと。

 そういえば、次のテストでライバルとなる九位は誰だろうか? 今から勉強して、絶対に追い抜いてみせるぞ。

 

 ええっと、九位は――、


 「…………え?」


 9 星菜更


 と書かれていた。

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