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※今回もかなり短めです
結局、その日の体育の授業はサッカーだったので、ペア決めはなく、新たなお友達はできなかった。良いよね、集団スポーツ。ペア決めで余っちゃう子もいないし。最高だよ。……嘘だ。ちょっと期待していた分がっかりしたが、まだまだこれから。だって、私には何といっても部活がある! 今年料理部に入部する子が、まさか私一人だけということはないだろう。ないはず。だから、それ繋がりできっとお友達ができるはずだ。
■ □ ■
「へぇ、中学校ってそんな感じなんだ」
今はリカちゃんと電話中だ。来週、遊ぶ約束をしているから、それについて話し合うためだった。
「でも、楓ちゃんがいるなら、鳳海学園を受験するのもいいかな」
リカちゃんは、公立の中学ではなく、私立の中学を考えているらしい。彼氏の陸くんと離れてしまっていいの? と思ったが、その程度の距離は恋のスパイスになるらしい。うん、勉強になります。
しばらくわいわいと二人で話に花を咲かせていると、唐突にリカちゃんからジャブが放たれる。
「……で、楓ちゃんには誰か好きな人いないの?」
うっ。だからなんでリカちゃんは、私と話すたびにこの質問を投げかけるんだ!
「いないよ!」
自分で即答していてあれだが、少しだけ悲しくなってきた。リカちゃんも呆れた声で返される。
「折角中学生になったんだし、一人ぐらいいないの? クラスのカッコいい男の子はもちろんチェックしてるだろうけど、隣のクラスとかもちゃんと把握してる?」
これがコミュニケーション能力の差なのか。私は、まだクラスの半分の子の名前を覚えるのでいっぱいいっぱいだ。
「それに、楓ちゃんの従兄だっていうあの人は? あんなにカッコいいのにまさかときめいたことすら無いとか言わないよね?」
リカちゃんから放たれた強烈なストレートは、私にクリティカルヒットした。
「………………………………アリマス」
「ほらぁ、やっぱり! そういうのが恋の始まりなんだからね」
そこからリカちゃんの恋愛講義が始まったが、私にはどうも難しすぎて眠――……。
「……えでちゃん、きい……の?」
「うん……聞いて……」
気付けば眠りに落ちてしまった。
■ □ ■
――懐かしい、夢を見た。
一昨年の夏祭りの夢だ。はぐれないように、と握られた手をぶんぶん揺らすと、淳お兄様は微笑んで……
「……好きだよ。楓」
「うわああああああああ」
思わず飛び起きた。深夜なのに眠気なんて今の変な夢のせいで、完全に覚めてしまった。
何だ今の。記憶改ざんもいいところだ。
きっと、リカちゃんと話していた影響だろうけれど、あろうことか、淳お兄様に告白される夢を見るなんて。厚かましいにもほどがある!
心を落ち着かせるために台所で水でも飲もうかと向かうと、そこには先客がいた。
「あ、淳お兄様!?」
思わず声が裏返った。そして、また夢の光景が再生され――……しない! しちゃだめだ! 煩悩退散!
私がブツブツと煩悩退散、と口ずさんでいると、淳お兄様は優しく微笑んだ。
「……こんな時間に起きるなんて悪い子だね、楓。そんな悪い子には、悪いものをあげよう」
そう言って、淳お兄様は私にホットチョコレートを入れてくれた。こんな時間に飲むホットチョコレートなんて罪深すぎる! でもおいしい。
私が罪の意識とおいしさとの葛藤で揺れ動いていると、淳お兄様はくすくすと笑って、私の頭を撫でた。
ふと思う。こうして、淳お兄様といられるのはあとどれくらいだろうか、と。私と淳お兄様の仲は悪くない。けれど、きっともうすぐ淳お兄様にも好きな人ができるはずだ。そしたら、きっと今のようにかまって貰えなくなるだろう。リカちゃんも彼氏が一番大事って言ってたし。もしかしたら、その相手はお姉様ではないのかもしれないけれど。その時のことを想像したら、やっぱり寂しく思う。
でも、その時がきたら私は、全力で応援するつもりだ。だって、淳お兄様は私にとって、とても大切な人なのだから。
……だから、煩悩はさっさと消え去って欲しい。
淳お兄様と物理的距離が近づいたせいで、さっきから何度も夢の光景が再生されてしまって敵わない。 淳お兄様にホットチョコレートのお礼を言って、脱兎のごとく立ち去った。
私は何とか、自室に飛び込み、息をついた。危ない、危なすぎる。もう少しで、脳がオーバーヒートするところだった。
しかし、ホットチョコレートを飲んだというのに、寝転がっても眠気は全然やってこない。少しでも寝ようとすると、煩悩が私を襲うのだ。
結局、その夜は煩悩退散と呟いているうちに夜が明けてしまった。