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次女ですけど、何か?  作者: 長編
小学生編
27/59

27

 「姉さん……」

ああ、やっぱり、あの児童会のパーティで見た姿は見間違いではなかったのだ。夢にまで見て、会いたかった貴方が目の前にいる。


 「……お前の姉ならさっき向こうでケーキを食ってたぞ」

前川にそう言われてはっとした。そうだ、私は道脇楓なのだ。もう…………じゃない。だから、もし、姉さんも生まれ変わっているとしたら、私と同じく姿が変わっているだろう。

 でも、それでも、一度でいいから話してみたい。

 そう思って、ドリンク片手に人混みを掻き分ける。


 もう少しで、姉さんに会える、というところで、思わぬ事態に教われた。

 「うわっ」


 後ろの人がよそ見していたようで、私にぶつかってきたのだ。

それを受けた私は、足をもつれさせ、姉さんではなく、姉さんの近くにいた淳お兄様に向かって思いっきり転んだ。当然のことながら、グラスに入っていたドリンクは淳お兄様目掛けて飛び散った。


 穏やかだった会場の空気は一変して凍り付いた。

 婚約披露パーティで、婚約者にドリンクをぶっかける人を私は見たことがない。しかも最悪なことに、中身はオレンジジュースだった。



「大丈夫、楓、怪我はない?」

そんな会場の空気をきにせず、淳お兄様は、私に手を差し出した。明らかに被害を被ったのは淳お兄様なのに、まず、心配されるのが私のことというのが余計いたたまれなかった。

 「す、すみません!!」

淳お兄様に助け起こされた私は、急いで淳お兄様を引っ張って別室に連れていき、ハンカチでポンポンと叩くが、なかなかオレンジジュースのシミは落ちない。そうこうしていると、流石に淳お兄様も怒ってしまったのか、肩を震わせた。


「淳お兄様……?」

「……ふっ。もうだめ、こらえきれない」

 私は怒られるのを覚悟して、ぎゅっと目を瞑った。

 しかし、予想に反して淳お兄様は、大きな声で笑い始めた。こんなに、笑う淳お兄様を私は見たことがない。あまりのことに私が目を白黒させていると、また淳お兄様は笑った。


 淳お兄様はしばらく笑い続けた後、一度深呼吸をした。それでもまだ笑い足りないのか、まだ口角が緩んでいる。

「……ふふ。本当に楓はお転婆なんだから。でも、楓に怪我が無くてよかったよ」

怒ってないだと!? なんて淳お兄様は寛大なんだ。

「……それに、やっぱり、楓にしてよかった」

「?」

良いどころか迷惑しかかけてない。何のことだろう。疑問に思って首を傾げる私に、淳お兄様はまた笑って、私の頭を撫でた。



 その後、道脇家の名に泥を塗りまくった私は、祖父に呼び出され、説教を食らい、また習い事を増やされた。姉さんと話せず、淳お兄様は許してくれたけれど、恥をかかせてしまうという踏んだり蹴ったりな一日だった。


 しかも、翌日前川に深刻そうな顔で

「……お前淳さんを逃したら一生結婚できないぞ」

と言われてしまった。余計なお世話だ!


 ■ □ ■

 パーティでの失態を思い出し、肩を落としそうになるが、首を振って、頭を切り替える。

 何といっても、今日は、運動会。今日こそ、大活躍を果たし、クラスのヒーローになって見せる!そして、美紀ちゃんと遼子ちゃんとお友達になるのだ。


 大丈夫、準備は抜かりない。

 多めにスポーツドリンクも持ってきた。これで、配分を間違って、運動会が終わってしまう前に飲み切ってしまった子にも分けてあげられる。

 今日の為に、毎日走り込みもやってきたのだ。もちろん、一番大切なイメージトレーニングも欠かさなかった。


 まずは、メイン種目である徒競走だ。

 今回のピストルを撃つ係の人はどうやら去年や一昨年と違い、男の人のようだ。これで、声に気を取られて、転ぶことも無いだろう。


 並んでいる間にも、友達を増やすイメージトレーニングをした。

「ふふふふふふ」

白熱するレース。果たして一位になるのは、私か、それともA子ちゃんか。ぎりぎりのところで勝ったのはA子ちゃんだった。その後二人は、互いに認め合い、友達にな――


 「いちについて」

しまった!妄想をしている間に、もう順番が来てしまったようだ。

「よーい、ドン」

パアァンというピストルの音を合図に一斉に走り出す。一生懸命走った結果、一位になれたが、あまりにもぶっちぎりすぎたため、一緒に走った子から微妙な顔をされた。はっ!この顔は、運動会で本気で走るとかありえなくない?の顔だ。しまった、この子たちは、そっち派の人間だったか!!


 けれど、三年生のテントに戻ると、美紀ちゃんと遼子ちゃんから、とても格好良かったと褒められた。やった!そう、目標はこの二人と友達になること。他の人にどう思われようと、関係ない。


 気持ちを新たにして、今度は自分の係の仕事に向かう。私の係は、去年と一昨年と同じく、等旗を持って運ぶ係だった。私と同じ三年生でも、もう少し難しい役割を与えられている前川と赤田との違いは何なのか、少々問い詰めたくなるが、気にしない。難しい役割を与えられることが目的ではないのだ。


 無事に五年生の障害物競走の等旗を運ぶ係を終えて、運動会実行委員のテントに直す。

 今日は、雨が降りそうだからか、運動会のメイン種目の一つである騎馬戦をもう午前中にやってしまうらしい。そのせいで、運動会実行委員のテントには、私と下級生以外、誰もいなかった。


 

 しかし、そこで、思わぬ事態が起きる。

「騎馬戦で人手が足りないから、誰か放送係を手伝ってもらえませんか?」

なんと、放送係から助っ人のお願いが来たのだ。

 運動会の放送係と言えば、上手い実況ができればスターになれるが、一つ間違えれば非難轟々の諸刃の剣だ。しかも、メイン種目の騎馬戦の、放送を担当するだと。

 折角今日は上手く行きかけているのに、余計なリスクは背負いたくない。しかし、辺りを見渡せども、皆出払っていて、テントにいる下級生以外の児童会役員は私だけだ。

 

 ……どうしよう。


 

 

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