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次女ですけど、何か?  作者: 長編
小学生編
24/59

24

 寝たふりを続けようと思ったが、私のお腹の音に驚いたおじさんと目が合ってしまった!


 ――ぐーぎゅるっぎゅる


 再び、私のお腹が鳴った。

 違う!この音は消化音だから!!決して、かき氷食べ放題の後、クッキーを食べたにもかかわらず、もうお腹を空かせた食い意地の張った子供じゃないから!


 そう主張したいのに、また私のお腹が鳴りそうになったので、ガタガタと椅子を揺らして音をかき消そうと試みたが、残念ながら、私のお腹の音の方が大きかった。


「…………」


 無言で数秒間おじさんと見つめあう。ものすごく気まずい。

「…………………………おにぎりでも食べる?」

敵からもらう飯などない!そもそも、クッキーに睡眠薬を潜ませるなど邪道なことをした相手から貰うおにぎりなんて信じられるわけがない!!


 しかし、首を大きく振った私を裏切り、


 ぐーぎゅるぎゅるぎゅる


 お腹がまたもや鳴った。しかもさっきよりも音が大きい!

「…………」

 再びおじさんと見つめあう。

 

 ……仕方がないから、そのおにぎり頂いてあげてもよろしくてよ。


 ■ □ ■

 


 結局、誘拐事件の顛末としては、私からなかなか迎えの連絡がないことや、アプリで私の位置情報を検索して、居場所が駅ではないことを訝しんだお兄様が警察に連絡し、スピード解決となった。

 ――いやぁ、便利な時代ですね。

 おじさんは、どうやら電話相手に借金があったらしく、それを返すために誘拐を行ったらしい。借金を返すために誘拐を行ったのに誘拐をする前よりも大量のおにぎり代で、お金が減ってしまったのは――天罰だろう。うん。ただ、初犯だったので少し罪は軽くなるらしいので、今度こそ誘拐なんてせず、まともに働いて頑張ってほしいと思う。


 これにて、誘拐事件は一件落着。めでたし、めでたし……とはならなかった。

「…………」

無言が、気まずい。

よりもよって――というか、父の出張に母も同行していて不在だったので当然と言えば当然なのだが――、保護者として私を迎えに来たのは、樋口さんと淳お兄様だった。

 淳お兄様は、私の無事を確認して、強く抱きしめた後、流石に私に呆れてしまったのか、車内でもずっと無言だった。

「あの……、淳お兄様」

「なに?」

うっ。そんなに冷たい淳お兄様の声は初めてだ。どうやら私は、本気で淳お兄様を怒らせてしまったらしい。


 「あの……、すみませんでした」

「それは何に対する謝罪?」

何……だと!?なんて返すのが正解なんだ。

「その、ご迷惑をおかけしまして……」

「僕は、楓のことを迷惑だと思ったことは一度もないよ」

そう言って、また押し黙ってしまい、再び車内は無言に包まれることとなった。


 ■ □ ■


 ――今日も窓から見える景色は美しいです。

「ああ~!!」

そこまで書いて鉛筆を放り投げた。もう、絵日記にこの文を書くのも何回目だろう。絵をかくのが楽でいいけど!けれども!!

 誘拐をされた次の日に、父と母から。別荘から外出禁止令を出されてしまったのだ。確かに、私も軽率だった。反省はしている。でも、そこに無料でおいしそうなクッキーがあったら食べない理由はないでしょ

う……なんて、酷い言い訳だ。言い訳だよね。自分でもわかっている。


 でも、妹と前川をくっつける作戦は一向に進まないし、絵日記もほぼ毎日同じ内容だ。お陰様で、夏休みの宿題も絵日記を残して全て終わってしまった。


 つまり、することが無くて、暇で辛い。それから、辛いことがもう一つ。あの誘拐事件が起きてからというもの、淳お兄様から避けられているのだ。食事のときでさえ、目線を逸らされ続けてしまう。妹はともかく、淳お兄様にそんな態度を取られたことがないので、この上なくしんどい。仲直りをしたいけれど、淳お兄様が何に対して怒っているのかわからない以上、会話の糸口が見つからない。


 ……どうしたものか。


 椅子に座って椅子ごと体をくるくる回転させていると、

「ん……?」

あることに気づいた。カレンダーの今日の日付のところに、小さく丸印がつけてあり、その下に20時と書いてある。これは別荘の隣の市にある花火大会の日程だった。


 これだ!

 淳お兄様だって、花火大会に行くことを条件付きで許可してくれたので、花火大会自体は嫌いではないはず。そして花火大会といえば――屋台!屋台といえば、たこ焼き、わたがし、リンゴ飴、金魚すくい、輪投げ、ヨーヨーなど、ときめきに満ち溢れている。特に、屋台の焼きそばは絶品だ。何であんなにおいしいのだろう。

 古今東西、お詫びの時にはプレゼントと決まっている。どうにかして、二階にある自室から抜け出して、花火大会に行き、屋台で何か買って、それを淳お兄様にプレゼントするのはどうだろう。屋台でいいものがなければ、どこかお店に行って何か探すのもいいな。


 そうと決まれば、実行だ。早速、シーツでロープを作り始める。そういえば、前から二階から脱出をしてみたかったんだよね。まさか、こんな機会があるなんて。一石二鳥じゃないか。

 そう思いながら、ロープを編んでいると、ドアがノックされた。急いで、ロープをベッドの下に隠しつつ返事をする。この時間だと、大方昼食ができたから降りてこい、ということだろう、と思っていたが、ドアの向こうからは返事がない。私が不思議に思って、ドアの前に行くと、ドアの隙間にカードが挟まっていた。カードには

『20時 裏庭』

とだけ書かれている。癖のない綺麗な字を見るに、カードの差出人は淳お兄様だろう。

 ちらりと、一度だけカレンダーを見る。花火大会が始まる時間とカードの時間は一緒だった。

 どちらを私が優先させるかは、明白だった。





 時間ぴったりに約束の場所――別荘の裏庭に行くと、既に淳お兄様がいた。淳お兄様は、何やら荷物を抱えて……あれは花火だ!!まさか、淳お兄様、ここで花火をしようというのか。流石、神様仏様淳お兄様だ!と、思わず抱き着きにいきそうになったところで、はた、と立ち止まった。そういえば、淳お兄様と喧嘩中だった。広げた腕の行方をどうするか迷い、結局自分を抱きしめた。うん、不審者だ。

 そんな、私の様子に気づいたのか、淳お兄様は苦笑して、

「とりあえず、花火しようか」

と言ったのだった。

 

 淳お兄様が用意した花火は様々な種類があった。吹き出し花火はもちろん、ねずみ花火や蛇花火もあった。花火はとっても楽しかった。もちろん、一番最後には線香花火の耐久勝負も行った。


 淳お兄様は、姉と妹にも声をかけたが、

「虫に刺されたら嫌だわ」

「桜お姉様がしないならしません」

と返されたらしい。何とも勿体ない話である。その代わり、淳お兄様と花火を二人占めできるのでよかったのかもしれないけれど。


最後の線香花火の火が落ちた後、淳お兄様は口を開いた。

「ごめん」

これには私も驚いた。喧嘩の原因は明らかに私にあるのに、淳お兄様に先に謝られたのでは私の立つ瀬がない。

「私の方こそ、すみません!」

結局、淳お兄様が私が迷惑をかけたこと以外に何を怒っているのか、私はわからなかった。

「楓のことを無視するなんて、本当大人気なかった。怒っていたのは、僕の自己嫌悪と、それに何より――僕は迷惑、じゃなくて心配したんだよ」

あの時、心配かけてごめんなさいと謝っていれば、こうこじれることはなかったのか。でも、その二つにそんなに大きな違いがあるのだろうか。

「……こればかりは、楓自身で気づけるようにならないとね」

私が困惑しているのがわかったのか、淳お兄様は、苦笑して、私の頭を優しく撫でた。淳お兄様は、時々とても難しいことを言う。

 まぁ、そのことについてじっくり考えるのは、後回しにするとして。

 

 今度こそ、淳お兄様に抱き着いた。……仲直り、でいいんだよね?

 淳お兄様は、ゆっくりとほほ笑んだ後、私のことを抱きしめ返してくれた。良かった仲直りだ。



 こうして、今度こそ、誘拐事件はめでたし、めでたしで解決したのだった。


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