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Sailor's Act  作者: 里崎
1/3

前編 \\ Ready

挿絵(By みてみん)

寄せては返す潮騒の音。

照りつける太陽の下、


「--Ready?」


制服姿の少女が、歌うようにささやいた。


ローファーのかかとが軽やかに鳴る。

だだっ広いコンクリートの道を駆けてゆく少女の、その前方にそびえ立つのは--


今しがたこの軍港に停泊したばかりの、巨大な総合艦が一隻。


黒を基調としたシックな塗装。舷側(げんそく)にペイントされたナンバーとロゴは、本国の新戦艦である証だ。


「Get set, 」


少女の赤い唇が動く。

同時に、自身の艶やかな黒髪にするりと手櫛を通す。それだけで、手品のように一瞬で、吸い込まれそうな黒い髪が、鮮やかなブロンドのそれに変わった。

潮風にふわりとなびいて、金糸は青空に散らばる。


翼を広げたカモメが一鳴きして、のんびりと中空に漂う。


真っ白なワイシャツの襟元を、するりと滑る赤いリボン。コンクリートに落ちたそれの上に、直後、タータンチェックのプリーツスカートが広がって重なる。


「GO!!」


これ以上なく楽しそうに叫んだ少女が、ちょうど地面が途切れた位置で、ひざを深く曲げ、強く地を蹴り--


大きく跳躍した人影が、高く、青空を舞う。


しなやかに反る背を包み込むように、大きく広がる鈍色の外套。

見る人が見ればすぐに分かる、世界最高レベルの防弾・防刃品質を誇る特殊素材の特注品(テーラーメイド)だ。


布をはためかせて、空にその身を投げ出した少女は、目の前の海をあっさりと超えて艦船に至る。



直後。

その波止場に、黒塗りの車両が音もなく停車する。

中から降りた黒服の男が、少女が脱ぎ捨てた制服を丁寧な所作で拾い上げた。


「--ご武運を、Sue」


すでに姿の見えない、自由奔放な年下の上官(・・)に向けて、うやうやしく一礼。


低頭する人影の、はるか頭上を飛行機が横切る。

なめらかに伸びてゆく飛行機雲。


***


頭上を横切る影。

その、鳥にしては大きな気配に、甲板で各方位を監視していた乗組員たちが次々と顔を上げる。


すとん、と--

落下音というよりは、着地音。


衆人環視のど真ん中、甲板のど真ん中に降り立ったのは、暗い色の布をまとった不審な一人。

どこの国の軍人にも、あるいは軍艦の乗組員にも見えないその身なりに、三国合同の軍事演習を進めていた乗員たちは、一瞬、思考を停止させた。


着地から少し遅れて、潮風に遊ばれた布が広がる。

深く曲げていたひざをゆっくりと伸ばして、立ち上がる。


布の下から見えた、その口元がふわりと微笑んだかと思うと。


一番手前にいた年若い軍人の首筋に叩きこまれる、鮮やかな手刀。

そのたった一撃で、声すら上げず、大柄な男はどさりと崩れ落ちる。


踊るように身をひるがえした不審者は、驚きに息をのむ右隣の青年にも同様の一撃を食らわせた。


「おい! 止まれ!」


近くにいた別の男がそう叫んで、腰のホルスターから拳銃を引き抜き、

その手首に鋭い衝撃。


黒い拳銃が上方に弾け飛ぶ。


その場の誰もが視認できない速さで男に肉薄した不審者は、彼の鼻先に右足のかかとをぴたりと押し当て、からかうような口笛を鳴らす。


はるか後方の床に、拳銃が落ちる音がした。

2018/5/20 加筆修正、表紙絵追加

2018/6/4 タイトル変更

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