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5章 遊園地(21)

「……ん」


 目が覚めた。まぶたを開ける。夕焼け色の空が見え、なんかピンク色のものが景色を邪魔している。……なんだこれ。

 それを除けようと手を動かしたとき、聞き慣れた声が響き渡る。


「遠藤! 起きましたのね!」

「あら、やっとお目覚めかしら」


 セレナの顔は視界に入ってきた。次いでピンク色の何かが動き、その上から奈々城が見える。

 ……俺が奈々城の真下にいるのか? いや、それにしては位置が変だな。というか俺はいつの間に寝てた? この枕は一体――


「うおっと!?」

「きゃっ」


 ピンク色の物体――奈々城の服を回避しながら飛び起きる。自分が寝てた辺りを見ると、彼女の膝。……えーと、つまり? もしセレナが俺に声をかけるのが遅かったら、危うく奈々城の胸に触れそうだった、ということは分かるが、俺はなぜ寝ている?


「どうだったかしら? 私の膝枕」

 最高の寝心地だった。……そうじゃなくて!


「なんでこうなってんだ? つーかここはどこだ??」


 あとこの絆創膏と包帯は? なんか所々痛むし。

 俺が疑問を投げると、セレナは怪訝な表情で答えた。


「……なんにも覚えてないんですの?」

「……えーと……」


 必死に思い出そうとする俺から彼女らが説明してくれた。つまりこういうことだそうだ。

 小田原たちと喧嘩して気絶した俺は、スタッフによって遊園地の医務室的な所に運ばれ、気絶しながら診察を受けた。傷は多いが命に別条はないと判断され、絆創膏や包帯を巻いてもらって放り出され、敷地内のあるベンチ俺の面倒を見ることになったのだそうだ。

 ……そこは普通、ベッドにでも寝かされるところじゃないのか? なかったの? まあ無事だからいいが。


「で、なんで膝枕なんだ」

「ちょうどいい枕がなかったから仕方なく、ね」


 そういうことを聞きたいんじゃないんだが……まあいいや。どうでもいい。気にはなるが、どうでもいい。

 時計を見ると、午後6時を回ったところだった。……飯食ってお化け屋敷に向かったのが1時頃だから、4時間半くらいは寝てたのか、俺。いくらなんでも寝過ぎだろう。


「その……ありがとな、俺の面倒を見てくれて」

「いいのよ、目が冷めなかったらどうしようと思ったけど、医務室の人は大丈夫だと言ってたし、こうして無事そうだし」

「まあもう一人増えるとは思ってませんでしたけど」

「もう一人?」

 セレナが指をさしたところを見やると。


「……すー、すぴー……」


 道理でさっきから姿が見えないわけだ。ベンチにもたれかかり、真田が寝ていた。鼻ちょうちんでも割ってやりたくなる気持ちよさそうな寝顔だった。


「まあ可奈も二時間くらい寝てるし、そろそろ起こすべきかもね……ほら、可奈、起きて」

 奈々城が立ち上がり、真田の元へ向かう。奈々城がツンツンと真田をつつくと、うっすらと目を開けた。


「うーん、あと7分……」

「なに、その中途半端な数字は。ほら、遠藤君が起きたわよ。可ー奈ー」

「えんどうくんね……えんどう……エンドーくん!? あ痛っ!」


 ガバっと飛び起きる。奈々城と額をぶつけた。2人揃って額を抑える。……なにやってんだ。


「いたた~……で、エンドーくんはどこ!? ここ? それともここ!?」

「ここだアホ」


 植え込みの中や側溝を覗き、俺を探す真田。目の前の影が見えないのかコイツは。


「やだなー冗談だよジョーダン。それで、大丈夫? 痛みはない?」

「あるけど問題ない。この通りな」


 腕を曲げたり屈伸したり、元気なところを見せてやる。それを見てよかったー、と真田は微笑んだ。別に俺なんて心配しなくていいというのに。

 動かしたり触れたりすると痛いところはあるが、まあこの程度だ、表情筋を動かす必要もない。風呂に入るときは、ちょっと覚悟しなきゃダメだろうが……。


「それでー、えーと……」


 珍しく真田が苦々しそうな顔をする。その仕草を一瞬だけ疑問に思ったが、ここがどこだか考えれば分かった。おそらくまだ遊びたいのだが、こんな怪我してる俺の手前、言い出せないのだろう。だから、気を使わなくてもいいのに。


「で、お前ら。次はどこで遊ぶんだ、決めてんのか」

「遠藤君が寝てるのに決めれるわけないじゃない」

「それに、わたくし、そろそろ帰らなければ……」


 ああ、用事があんのか。まあ俺のせいで5時間くらい無駄にしたようなもんだし、それはしょうがないか。


「それじゃー次行くところが最後になるかな?」

「そうね、そうした方がいいと思うわ」

「ゆっくりできる所に行きたいところだが……」

「ふむふむ、最後に行くとこで、ゆっくりできるとこ……」


 真田の目がキラリと光る。

「じゃあアレしかないね! それでいいかな?」


 真田が指で示した先。最高到達点は一番高く、ゆっくり回るアトラクション。なるほど、あそこならいいかもしれない。

 誰も反対しないのを見て、真田は意気揚々と出発した。


「いざゆかーん、大観覧車!」


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