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5章 遊園地(19)

「奈々城、真田、逃げろ!」

「は、はい!」「分かった!」


 素直に引いてくれた彼女らを横目でちらっと見てから、俺は彼らの中に割って入り、無理矢理奈々城を引き剥がす。案の定、猿顔の男が奈々城を捕まえようと追いかけてきたが、


「行かせるか!」

「ごへっ」


 後ろから奇襲気味に蹴りを食らわせ、押し倒す。そのまま奈々城たちを目で追い……いない。どうやら結構離れたようだ。ほっと胸を撫で下ろ――


「なにしてくれんだ!」

「ッ!」


 ――す暇もなく追ってきた猿顔に殴られる。バランスを崩して転ぶが、痛がってる場合じゃない。立ち上がって振り向く。


「オラぁッ!」


 反撃をする暇もなく、小田原の一撃が腹に来る。さすがに鳩尾への一撃は耐え切れず、俺はその場にうずくまった。そして、それを見逃がす彼らではなかった。


「キモいんだよ、クソが!」

「邪魔しやがって!」


 それぞれの言葉で罵倒されながら頭を蹴られ、頬を殴られ、髪を掴まれ、地面に叩きつけられる。痛え、痛えよ。やっちゃえとかそんな女の声援も聞こえる気がするけど、だんだんその声も聞こえなくなっていく。最早蹴られすぎて、どこが痛いのすらも分からない。何分経っただろう。時間感覚も既にない。


「はぁ、はぁ……クソっ、無駄な手間取らせやがって」

「もう良くね? コイツも懲りたっしょ」

「間違ってもチクろうとか考えるんじゃねーぞ」


 何を言ってるかよく聞こえない。が、もう蹴られてない。飽きたのだろうか。

 痛えなあ……ちくしょう。やりすぎだろ。先にやってきたのは小田原じゃねーか。

 あー、らしくないことしちまったなあ。本当に俺らしくない。


 まさかここまで腹が立つとは思わなかった。


 最早力が入らない。それでも、力を入れて立ち上がる。

 大したことはない、痛いだけだ。痛みなど、とうの昔に慣れている。


 そんなことよりも一発、一発だけでいい。あいつらに一矢報えれば、それで。


「お、おい。アイツ」

「ん? はあ……? マジかよ」

「なんであんなに蹴られて立てるんだ……」


 どうやら何かを言っていた。でもそんなものはどうでもいい。走れはしないが、足は動く。腕も動く。まだ手を握れる。頭はこんなに冴えている。一発。一発でいいんだ。

 小田原めがけて走る。走れはしないが、それでも走る。俺は右手を振りかぶって――


「倒れろ!」


 小田原の回し蹴りが腹に入り、横薙ぎに飛ばされる。嫌な咳が口から出た。昼食も一緒に出そうだったが、何とか抑えこむ。手は……足は……ああ、大丈夫だ、問題ない。

 立ち上がり、立ち向かう。ゆっくりと確実に近づく俺を見て、小田原は冷めた表情で呟いた。


「よく立てるな、お前」


 今度は額へのパンチだった。仰向けに倒れ、腰を打ち、背中が土にぶつかり、後頭部が地面に当たる。


 痛い。頭を抑えて転げ回りたい。

 泣いて思いっきり叫びたい。

 痛いのは嫌だ。誰だって嫌だ。俺だって嫌だ。


 でも……ここで諦めるのは、もっと嫌だ。


「……なんで立てるんだよ」


 気味の悪い物を見るような視線を向けてくる。知るか、そんなこと。立てるから立てるんだ。

 肩が震える。膝が笑う。息は荒い。でも、アイツを殴ってやるためなら……


「ヒッ、こ、こっち来んな!」

「あっ……」


 小田原たちの背後から、石が飛んできた。俺はそれをただ眺めていた。自分に向かって飛んできたそれを、避けることすらさえもできなかった。そのうちの一つが足に当たって、膝から力が抜け落ち、その場にくずおれる。


 どうやら連れの女が投げてきたようだ。何をそんなに怯えてるのかは知らんが、余計な邪魔はしないでもらいたい。倒れたらもう一度立ち上がって、走るだけ――


「もうやめて!」


 叫びとともに、背中にかかる重さ。目の前で交差される手。これは……奈々城?


「お前……逃げろって……」

「こんな遠藤君を見捨てられるわけないじゃない!」


 見捨ててもらって構わなかったが、そうだ。俺は元々こいつらを逃がすために……何をしてたんだ俺は、頭に血が上ってバカなことを……。

 と、今度は目の前に4本の足が見えた。思わず見上げる。


「貴方達……それ以上遠藤に何かしたら、わたくしが許しませんわよ!」

「そ、そっちが石使うならあたしだって使うからね! ほ、本気だから!」


 空手の構えをしたセレナと、石を持った真田だ。お前らも戻ってきたのか……。


「……チッ」


 小田原たちは、俺の前に立ちふさがる彼女を見て、勝てないと判断したわけではないだろうが、まあ面倒だったのだろう。舌打ちをしながら遠ざかっていった。

 やがて姿が見えなくなり、ふぅ……。とセレナと真田が構えを解く。


 はあ……俺のしたことは無駄だったのかもな。なんか俺よりもセレナの方が喧嘩強そうだし、彼女に任せたらよかったのかもしれない。けど、それでも……。


「エンドーくん? ねえ、大丈夫? エンドーくん!」

「遠藤! し、しっかりしなさいな!」


 気を抜いたせいか、だんだん意識が遠ざかる。彼女らの声も遠くなっていく。


「遠藤君!」


 うるさい、黙れ。俺は寝る。少しくらい休ませろ。


 ああ、それでも……こいつらが、無事でよかった。

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