5章 遊園地(14)
彼女らがデザートを別腹に収めたあと。
仕舞うものは仕舞い、捨てるものは捨て、次はどこ行く? という話になった。
「食後だし、揺れたりするのはダメよね」
「コーヒーカップでグルングルンヒャッホーってするつもりだったんだけどダメかぁ」
「平時でも勘弁して下さいませ」
さすがに、この腹で、激しいアトラクションは、ダメ。
「ほらーエンドーくんの顔が青いー。まるでブルーマウンテンのようだよ」
「なんか綺麗そうね。全然違うけれど」
「そんな雑談はいいから早く決めないか?」
でなきゃ帰るぞ、おい。
「はいはい、遠藤もこう言ってることですし、早く決めますわよ」
「そだねー。じゃあ暑いし、ヒヤリとするとこにでも行こうか」
「涼しいところ? 急流すべりはもう行ったじゃない」
「違う違う。涼しいじゃなくて、ヒヤリとするところだよ」
「その2つってなにが違……って、まさか」
「勘付いた? 勘付いちゃった?」
ニシシと薄ら笑いを浮かべる真田。俺とセレナは話が読めず、首を傾げる。
「お二人さんは分からないかー。どこかって言うとねー?」
『お化け屋敷』
真田に案内され、着いたところはここだった。お化け屋敷か。なるほど、涼しいではなく、ヒヤリだったら確かにここだろう。ただ、残念なのは記憶を漁ってもそんなヒヤリとした覚えがないことだが……まあ、作り物だしな。
「お化け屋敷……? なんですの、これ」
「知らない? その名の通りオバケが出てくる屋敷だよ。ホラーハウスで通じるかな」
「うーん、よく分かりませんが……入ってみれば分かりますわね」
「さっすがセレナちゃん話が早い! じゃあ一緒に行こーか」
「いいですけれど……4人で入るものでは無いんですの?」
「2、3人ずつ入るの推奨って書いてあるしー。まあ3対1でエンドーくん1人にするんだったらそれでもいいけど」
「1人だけ仲間はずれにするわけにはいきませんわね。そちらは遠藤と祈のペアということでよろしいですの?」
「問題ない」
「まあいいわよ」
俺は普通に、奈々城は髪をかきあげながら答える。とりあえずは普通に楽しめそうだ。
ジャンケンでどっちのペアが先に入るかを決め、俺と奈々城が先発組となったのでスタッフにフリーパスを見せ、中に入る。人気アトラクションだったと思うのだが、運良く空いてたな。
最初の感想は、あ、涼しい。だった。……お化け屋敷となんら関係ないな。辺りを見回し、耳を澄ます。
入ってすぐの通路では微かにヒュードロドロ……というBGMとともに、まさに恨めしそうな声色で「お前を生きて返さん」というようなセリフが降ってきた。辺りはほとんど暗闇で、奥に淡く赤い光が付いているのだけ見える。まずはそのまま進めばいいようだ。足を進め――ようとして、左手が急に重くなる。
「ま、待って」
奈々城が俺の腕を掴んでいた。……何故?
「なにしてんだ、行くぞ」
「待って、待って、行かないで、置いてかないで……」
どこか切羽詰まったような声で言う奈々城。なに言ってんだ、こいつ。
「お願いだから一緒に行かせて……」
「いや、置いてかねえよ。だから行くぞって」
「うん……」
俺が進もうとすると、今度は素直についてきた。――その胸に、俺の腕を抱きながら。
何故だっ! 無駄に重くて歩きにくい! しかもセレナはただ掴むだけだったが、奈々城は思いっきり胸に俺の腕を抱いていて、その、男にはない感触が、腕に……! 腕に!
……セレナ? そうだセレナだ。アイツも俺の腕を掴んできた。それは何故だったか。
よく目を凝らして奈々城を見る。顔は下向きでどんな表情で俺を見ているのか分からないが、息遣いは少し荒い。内股気味で、膝が少々震えている。……なるほど。
「……怖いんだな」
「……そうよ、怖いわよ。わ、悪い?」
暗闇のせいではっきりとは見えんが、赤渕メガネの奥から俺を睨む奈々城。聞いたときの反応は違うが、腕を掴むのは同じなんだな、お前ら。
「誰も悪いなんて言ってねーよ。腕を掴むのは悪い」
「だって、こうしないと怖いし……それに……」
俺なら? 俺でもの間違いだろう。仕草は可愛いが、それとこれとは話が別だ。
「さっきまで平気そうだったじゃねーか。なんでそんな震えてんだよ」
「だって……いい年してお化け屋敷が怖いなんて……恥ずかしいじゃない……」
言うと同時に、ぎゅっと腕の力を強めてくる。自分のしてることわかったうえで言ってんのだろうか。それに、虚勢張ったってここで俺程度に縋るようじゃ同じだろう。
「とりあえずそこまで思いっきり掴むのはやめてくれ。そのな、胸が……」
「イヤよ」
「話聞いてるか? 当たってんだけど」
「イヤ」
こいつ聞いてねえ。まあ素直に離されても残……念ではないけど!
「……行くぞ」
「うん」
俺の言葉に、奈々城はこくりと頷く。なんか普段と態度が変わってるような……気のせいだろうか。




