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5章 遊園地(13)

「真田」

「なになに?」

「これ持ってろ」

「え? ちょ、エンドーくん!?」


 持ってたクレープを真田に押し付け、子供に近寄る。その子供には既にオッサンが近寄り、抱き起こしていたが肘と膝の怪我を見てオロオロしているだけのようだ。ホント無能だな、このオッサン。


「失礼」

「な、なんだ君は」

「黙れ」

 不審な目で見てくるオッサンを一蹴し、しゃがんで子供と同じ目線に座る。


「おい、大丈夫か。痛いのか?」


 声を掛けても泣いているだけで反応はなかった。面倒なので、さっさとやってしまおう。

 俺は鞄から消毒液と絆創膏を取り出し、彼の患部を消毒液で濡らしたハンカチで拭う。元々自分が怪我したときのために持っていたものであるが、使えるなら使っておこう。


「いたたっ、痛い!」

「我慢しろ」


 見た目出血が多いだけで、傷口は小さく、浅い。手持ちの絆創膏で十分だな。

 絆創膏の裏面の紙を剥がし、出来る限り素早く貼る。計3箇所に貼って、これで終わりか。


「どうだ、もう大丈夫か」

「…………うん」


 やっと子供が俺の言葉に反応し、首を小さく縦に振る。まだ若干瞳に涙が溜まっているようだが……そうか。それならよかった。


「エンドーくんエンドーくん」

「真田か」

 真田がやってきて、俺と同じようにしゃがむ。と思えば、


「はいこれ持ってて」

「あ、ああ……」


 今度は俺がクレープ3つを持たされた。なんだ。押し付けたお返しか?

 戸惑う俺をよそに、真田は子供に顔を近づけ、にっこり笑った。


「えっとねー。ボク、名前はなんていうのかな?」

「り、竜太です。峰岸竜太って言います」

「峰岸くんだね。あたしは真田可奈っていうの。それでね、えーとこれ見てコレ」

 真田が出したパンフレットを、峰岸とやらが覗き込む。真田はある一点を指して、


「峰岸くんはヒーローショー見たかったんでしょ? 今日は二時頃からもう一回あるから、そのときにお父さんと一緒に見たらいいと思うな!」

「え、ほんと!?」

「そうだったんですか……。教えてくださって、ありがとうございます」


 峰岸竜太の表情から悲しみが消え、ぱあっと笑顔になる。オッサンは真田に礼を言っていた。どうやらヒーローショーは午前と午後の二回あったようだ。


「おじさん、あたしより先に礼を言う人がいると思いますよー」

「そうですね……」

 オッサンはスッと立ち上がり、俺を見た。ん? 俺?


「あの、どちらか存じませんが、ありがとうございます」

「いえ、大した事じゃないんで」

 俺も立ち上がり、軽く会釈する。消毒して絆創膏を貼っただけだ。本当に大した事じゃない。


「うんうん、よしエンドーくん、行こ?」

「ああ」

 真田に促され、奈々城たちのもとへ戻ろうと踵を返す。


「あのっ!」

 袖口が後ろから引っ張られた。思わず振り向き、目線を下げる。


「あの……絆創膏、ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 誰かと思えば峰岸とかいう子どもだった。しっかり礼を言えるいい子のようだ。俺には関係ないことだが、そのまま純粋に育つことを望んでおこう。


「ぼく、峰岸竜太って言います! お兄さんのお名前はなんですか!」

 お兄さん、って俺か? なんか似合わんな……。俺の中の俺のイメージに合わん。


「……遠藤孝だ。じゃあな、今度は怪我するなよ」

「あっ……」


 もう一度足を進めると、素直に手が離された。幾ばくか峰岸親子との距離が開くと、真田が小さく声を漏らす。


「……す」

「す?」

「凄いじゃんエンドーくん! ちょっと見直しちゃったよ!」

「なにがだ」

「だって、怪我した子供を助けるために、颯爽と飛び出ていくだなんて思わなかったから……。あたしには真似できないよ。どうしちゃったのさ、急に」

「どうしたって言われてもな」


 確かにあの子供が泣こうが喚こうが、俺にとっては至極どうでもいいことだ。別に子供を助けなきゃとか、そういう偽善的な意識が働いたわけでもない。だが……。だけど……。……?


「……何で俺は前に出たんだ?」

「そんなのあたしが知るわけないじゃん」

 その通りである。まさか真田に正論を言われるとは。


「けど、推測ならできないこともないかな」

「推測か」

「そうそう。……きっとね、『なんとなく』だと思うよ」

「……そうか」


 なんとなく。何の説明にもなってない、完全に抽象的な理由だが、それ以外に言いようがないのも確かである。……なら、そんな抽象的なものでもいいのかもな。


「おーい、祈―、セレナちゃーん! 持ってきたよー!」


 角を曲がり、奈々城とセレナの姿が見えるなり一気に駆け出す真田。クレープ持ってるのは俺なんだが……。しょうがないので、零さないように気をつけながら小走りで後を追う。


「思ったより遅かったわね。そんなに人並んでたのかしら」

「そーゆーわけじゃないけどー」

 追いついた俺を、真田はちらりと見る。どうした?


「……いや、そーゆーことそーゆーこと。ただそれだけだったよー」

「そう、ならいいのだけれど」

 何の話か聞いてなかったが、俺に用がないならそれでいい。


 で、どのクレープが誰のなんだ?

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