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5章 遊園地(11)

「いっただっきまーす!」

 真田の声を皮切りに、皆で弁当箱の蓋を開ける。席順は時計回りに、俺、セレナ、真田、奈々城。目に入ったのは、色とりどりの豪華なおかず。


「……本当に俺も食べていいのか?」

「早く食べないとなくなるわよ」


 そいつは困る。本当にいいなら遠慮無く貰おう。まずはおしぼりで手を拭いてから取り箸を使い、自分の皿に盛りつける。

 最初は玉子焼きから頂こう。割り箸で摘んで、口に運ぶ。

 甘すぎず、舌触りもふんわりしていて美味いな。結構好きな味だぞこれは。


「その玉子焼きはわたくしが作りましたの。どうですの?」

「美味い。頑張ってるな」


 そういや前のハンバーグ弁当の時にも同じの入ってたな。……前はハンバーグだけ超えられてる気がする、という感想だったが、これは玉子焼きも超えられたな。俺だって休日の昼飯とか自分で作ったりしてんのに、成長早すぎねえか?

 よし、次はこっちの唐揚げを……。


「この唐揚げは私のね。レモンかける?」

「ああ、貰っておこう」


 受け取り、レモンを少しかけて食べる。レモンの酸味もいい感じだが、なにより衣のカリッとした歯ごたえと、中のプリっとした肉の舌触りが最高だ。冷めても美味しいのが実にいい。

 この辺でご飯を……というかおにぎりか。ラップを剥いて……。


「おにぎり頑張って作ったんだよ! 頑張ったから味に自信あるよ! 形のことは聞かないで」

「そ、そうか」


 確かに丸かったり歪だったり歪んだ三角形だったりいろんな形のおにぎりがあるな……。しかし、世の中には見た目は整っていても物凄く不味かったポテトサラダがある。形がおかしくたって問題は味なのだ。味さえ良ければ何ら問題はない。


「……? わたくしの頬に、何か付いてますの?」

「いや何でもない」


 ついセレナの方を見てしまったようだ。食事に集中しなければ。

 まずおにぎりを一口。当り障りのない、無難な白米と海苔の味だ。そして中の具は……ツナマヨに、醤油を掛けた感じか? 丁度いいしょっぱさが味覚を刺激する。ふむ、こいつはいい。嫌いじゃない味だ。何でこいつら、的確に俺の好きなところ突いてくるんだろう。


 その後もたらふく食い続け、気付けば結構腹が重い。いやー、タコさんウインナーとか久々に食べた。学食じゃ絶対出ねえもんな。

 そういや、全然コーラを飲んでいない。まあ、完全にぬるくなったわけじゃないだろうし、まだ飲めなくはないだろう。右手の箸を置き、手に取ってストローに口をつける。

 ……? 何でこんなに軽い? こんなに飲んでたっけか、俺。まあいいや。


「え、え、遠藤君……」

「ん、何か用か?」

 口からストローを離し、答える。何であんなに震えてるんだか。


「そ、そ、それ、私の……」

「それ? ……これ?」


 手元のコップを指すと奈々城が頷いた。なるほど、これは奈々城のだったのか。道理で……。

 道理で……量が少ない……ってことは、既に大半を飲んで……。


「す、すまん申し訳むぐぅ」

「しっ、静かにして」

 突然手で口をふさがれる。そ、そうか。公衆の面前だもんな。注目されたくはないのだろう。


「祈も遠藤も急にどうしたんですの?」

「え? なんふぁふぁったの?」

「別に何でもないわ。あと可奈は食べるか喋るか、どっちかにしなさい」

「そうですの? なんでもないならいいんですけれど」


 セレナは興味を無くしたように食事に戻り、真田は不思議そうに三秒くらい奈々城を眺めたあと、結局食事に戻る。ああ、俺の口をふさいだのはこいつらに知られたくなかったという意味もありそうだ。


「で、遠藤君」

「はい」


 小声で呼ばれ、奈々城に顔を戻す。と、意外なことに怒ってるわけではないようだった。何て言おうか迷ってる感じの微妙な表情である。悩みに悩んだ末なのか、彼女は俺にこう聞いてきた。


「……わざと?」

「まさか」

 即、否定する。何故好き好んで他人が口つけたものを飲みたがらなきゃならん。


「でも聞かれてハイって答える阿呆もいないわよね」

 確かにその通りだ。シラを切り通せば免罪されることなんて多々あるだろう。だからといって、俺をそういう奴らと一緒にしてもらっては困る。


「もちろんわざとじゃない。が、どっちにしろ俺が悪いことをしたのは事実だ。この通りだ、すまなかった」

 軽く頭を下げて謝る。

「……なんか誤魔化そうとしてない?」

「断じてしてない」

 何故疑われなければいけなのだ。俺だからか。なら仕方がない。


「まあいいわ。遠藤君がそうやって謝るのなら本当にただの過失でしょうし、それに……」

 ちら、と俺の横辺りを見る。そこにはセレナがいるだけだが……?


「何か言いたいのならはっきり言ってくれ」

「あ、いや……そう、これ遠藤君のお金で買ったものだからいいかな、って思っただけよ」

 俺の金で買ったもの。それはそうだ。だがそれは弁当に対する少しばかりの礼として払ったものであり、所有権は奈々城にある。……やっぱり勝手に飲んだ俺が悪いな。


「よし、もう一杯買ってくる」

「その心遣いは嬉しいけれど、お金は大丈夫なの?」

 ……そういや残り百円しかなかった。一応非常時のために持っている数千円はあるが、そこからなら……。


「それに、もうお腹いっぱいでもう一杯なんて飲みきれないわよ」

「そうだったか」

 上げかけた腰を下ろす。さて、俺はどうするべきか。


「別に遠藤君がなにかする必要なんてないわよ。……って言っても、納得しないでしょうから……あとで何か考えておくから、それで納得して頂戴」

「分かった」

 奈々城なら相応の罰というか、そういうものを考えてくるだろう。何か言える立場でもなし、ここは納得しよう。


「さっきからこそこそと何を喋ってましたの? 食べないのならあとは持ち帰りますわよ」

「お前らはもうたくさんなのか」

「そうですわね、もともとあまり食べる方ではありませんし」

「乙女には体重管理も大事なんだよー!」


 なるほど、そういうことか。……乙女? ……乙女?


「あーっ! エンドーくん何か失礼なこと考えてるー! 気をつけたほうがいいよ! 女の子はそーゆーの分かるんだからね!」

 へぇ、そうなのか。覚えておこう。……いや、どうでもいいな。どうせ使わん知識になる。


「で、遠藤はあと食べますの?」

「そんな残ってるわけでもないから頂こう」

 結局残りは俺が処理し、昼食タイムは終わりとなった。腹はキツいがその分美味かった。機会があったらまた食べたいものだ。

 そんな機会はないだろうが。


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