表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/57

5章 遊園地(10)

「さあ、お昼ご飯の時間よ」

 それらをテーブルに置いて、包みを解きながら奈々城が言った。中から出てきたのは、ピンクや青などカラフルな弁当箱だ。


「……トイレじゃなかったのか?」

「え?」

「あ、いや。弁当持ってきてたのか」

「ええ、折角皆で来てるのだし、これくらいはね。……可奈、これはセレナさんに。はい、これは遠藤君の分」

 差し出されたのは、割り箸と紙皿。……?


「なんだこれ」

「割り箸と紙皿だけど」

「そんなこと聞いてねえよ」

「いや、それを取り皿にして取ってってね、って意味だったのだけれど。……セレナさん、ちゃんと遠藤君に説明した?」

「あっ」


 忘れてた、とでも言いたげでな表情で声を漏らすセレナ。どうやら、席を取ってる間に俺に話しておけ、という取り決めがあったようだ。おい、忘れてんじゃねーよ。


「つーか俺も食っていいのか?」

「……むしろ遠藤君のために、皆で張り切って作ったのよ?」

「皆で?」

 セレナと真田を見やると、反応して応えてきた。


「そうですわ。最初は自分のだけ持ってくるつもりでしたけど……」

「三人で相談して、分担しておかずを作って持ってくることになったんだよー。あたしはほとんど担当してないけどね」

「……先に言ってくれてもよかったんじゃないか?」

「だってそうしたら遠藤君、俺のはいらないって言うじゃない」

「確かにそうだが……俺が弁当を持ってきてたらどうするつもりだったんだ、お前ら」

「そのときはどうしようもないですけれど、遠藤は普段学食ですから、どうせ今日も弁当持ってこないでしょう、と踏んで計画を立てたんですのよ」


 その通りすぎて何も言えん。いい勘してるな、こいつら。


「それは有難いな。で、いくら払えばいい?」

「そう言うと思った」

 はぁ、と溜息を吐く奈々城。何故俺が真田と同じような対応をされなきゃいかんのだ。


「お金はいらないですわ。というより、皆で作った材料を単純に四で割ればいいわけじゃないので、計算出来ないと言った方がいいですわね」

「あ、でも今から皆の飲み物買ってくるから、その分のお金はいただくわよ」

 飲み物の実費だけか? せめて何かの礼は必要だと思うんだが……考えておくか。


「あたしオレンジジュース!」

「わたくしは……このメロンソーダというやつに興味がありますわね」

「オレンジとメロンソーダね……。遠藤君は?」

「俺はコーラにするか」

 テーブルに置いてあったメニューを見て決める。


「私もコーラにしようかしら。ジュース代百六十円はあとで集めるわよ」

 と言って、奈々城は注文しに行った。……一人で四人分持ってこれんのか? 無理だろ。

 俺も行くか。自分の分くらい自分で持つし、金もそこで払ってしまおう。


「あれー、エンドーくんどこ行くの? お花摘み?」

「自分の分運びに」

 軽く走り、奈々城を追って隣に並ぶ。急に現れた俺に奈々城は少し驚いたようだ。


「きゃっ……あら、どうしたの? 手伝いにでも来てくれたのかしら」

「まあそんなとこだ」

「それは嬉しいわね。でも、そこにお盆があるから一人で運べるわよ」


 奈々城が指した方に、確かにそれはあった。……気付かんかったが、まあいい。他にも用はある。

 注文窓口の最後尾に並ぶ。とは言っても前に二人しかおらず、すぐに順番は回ってきて店員に注文を聞かれた。


「オレンジジュース一つと、メロンソーダ一つと、コーラ二つ。以上で」

「はい、合わせて六百四十円になります」

「これで」

「あ、あら?」

 奈々城より先に、残ってた八百円のうち七百円を店員に渡してお釣りを受け取る。


「では隣で少々お待ちください。次のお客様ー……」

「もう、あとで集めるって言ったじゃない。はい、百六十円」

 一緒に列の横にずれた奈々城が小銭を載せ、手を差し出してくる。……俺が建て替えだなんて、そんな面倒なことすると思ってんのか?


「いらねーよ。コイツは礼だ」

「礼?」

「昼食の礼だっつってんだよ。足りないとは思うが」

「そんなのいいのに」

「俺の気が済まねーんだ。ほら受け取れ」

 店員が盆に乗せて出してきたコップのうち、コーラのコップを手に取って奈々城に渡す。


「……冷たいわね」

「あ、すまん、乗せといた方が良かったか」

「いえ、このままでいいわよ」

「そうか、これも俺が運ぼう」

 盆を手に持ち、元の席に向かって戻る。


「ねえ、遠藤君」

 と、途中で奈々城に肩を叩かれた。

「どうし「えいっ」冷たっ!?」

 振り向いた俺の頬に、コップを押し当ててきやがった。蓋とストローがあるからまだいいものの、バランス崩して溢れたらどうすんだ。すげー冷てえ。ほっぺたがひんやり。

「……いきなりなにすんだ奈々城」

「ふふっ、教えない」

「はあ?」


 嫌がらせかと思ったが、奈々城の顔は嘲笑ではなく純粋な楽しさに溢れていて、そういうわけでもないようだ。

 彼女は返事をせず、先に言ってるわねと言い残して、席に戻っていった。

 何が楽しかったのだろう。何がしたかったのだろう。

 意図するものは分からない。ただ、見惚れるような笑顔だった。

 ……嫌がらせじゃないなら、いいか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ