5章 遊園地(4)
フリーパスを腕に巻き、俺らは無事入園を済ませた。周りを見渡すと、右にはゆっくり回るメリーゴーランド、左には激しく回るコーヒーカップ。正面を見れば、奥にそびえ立つ大観覧車。最後に来てから6年は経っただろうか。もう来ることはないと思ってたが、いざ来てみると懐かしさで胸が溢れそうになる。
まあ、もう高校生だ。積極的に遊ぼうという気は起きないが。
奈々城らは荷物をコインロッカーに預けていた。と言ってもカバンはそのまま手に持っており、中身を全部置いていくわけではないらしい。まあどうでもいいことだ。
「ねーねーどこまわるー? あたし的にはゴーカートかなぁ。乗り回してブイブイ言いたい」
「わたくしとしては人の少ないところから並んでいきたいですわね」
「と言ってもまだ朝早いし、大体は空いてるわ。……遠藤君の希望は?」
「あると思うか?」
「ないね」「ないわよね」「ないですわね」
ここまで否定されると清々しいものである。しかし言わずとも俺の意図がしっかり伝わっているようで、面倒がなく結構なことだ。
「逆にこの乗り物は嫌、という希望はあるかしら」
「そういうのもねえな」
「あたしもないよー」
「……ない、ですわね」
俺含め、全員がどれでもいいようだった。奈々城は満足気に頷く。
「それなら、まずはアレに乗りましょう」
「どれだ?」
奈々城が指さした先には、高いところから一気にコースの上を駆け抜け、勢いで一周する乗り物。一般的にはジェットコースター、この遊園地ではレッドハリケーンと呼ばれるアトラクションだ。普通に高いところから一気に落ちるだけじゃなく、360度の宙返りがあったり、壁走りと言っていいほどの角度になったりするのが特徴である。確かそうだった気がする。
「ああいうのが好きなのか」
「そんなところね。あと、人気アトラクションのようだし早めに乗った方がいいと思って」
そういや、いつ見てもたくさん人が並んでた気がするな。当時はそんなのは全く苦にならなかったが、今だと待ち時間がダルいだけだろう。奈々城の言うとおり早めに乗るべきか。
「いいんじゃないか。決めあぐねてても仕方ねえしな」
「決まりだね! じゃー行きましょーそうしましょー! いざ出陣、敵はレッドハリケーン!」
「敵ってなによ、敵って」
レッドハリケーンが特撮の怪人名みたいに聞こえなくもない。というか、周りの小学生よりも真田のほうがうるさいぞ、少しは声を抑えろ。無理そうだが。
俺も足を動かして前の3人を追……っと2人しかいねえ。俺は振り向き、後ろの金髪を呼ぶ。
「おい、ジェットコースター行くぞ……ってなにしてんだ?」
セレナは俺を見ておらず、その後ろ――どうやらレッドハリケーンのコースを見ているようだった。その顔はどことなく青い。どうしたんだ? 間違いなくさっきまで赤みがかった健康そうな色だったはずだが……。
「セレナ? 聞いてるか?」
「……はっ! い、いえ、何でもないですわ。早く行きましょう。あはは……」
笑って俺の隣に並んでくる。しかし、その笑みは引き攣っていた。
若干の不安を覚えながら、まあどうでもいいかと思い直し、俺は目的地まで歩き始めた。




