2章 真田可奈(4)
「そんでそんでいのりー。今何やってんのー?」
「教室で話したじゃない、ポスターを描いてるのよ。今日は可奈と遊んでる暇はないわ」
「えー。折角お菓子買ってきたんだから駄弁ろうよー。遊ぼうよー。ガールズトークしようよー」
「はいはい。私は忙しいから、遊びたいならそこで暇を持て余している遠藤君に絡みなさい。私は作業を続けるわ」
「そうー? じゃあエンドーくん遊ぼー」
「仕事しろ仕事」
さっきから遊びに来ただの駄弁りに来ただの言ってるが、図書委員なら働くべきだ。休んでる俺が言っても説得力はないかもしれんが、許可をもらって休んでいるのだから問題ない。
と言うかいつやめていいんだ? 休憩。
「大丈夫だよーちゃんと鈴本先生に訊いてきたもん、仕事無いですかーって」
「なかったのか?」
「うん。俺一人でやるからいい。だから静かにしろって言われた」
それは仕事が無いわけではないのではなかろうか。
「だからあそぼーよ、ねーねー」
……面倒な面倒見を押し付けられた。おい、こんな仕事なんて聞いてないぞ。というか俺に人と関わる仕事をさせようとするな。非難の視線を込めて奈々城を見ると、完璧な笑顔で手を振られた。そして作業に戻られる。めんどくせえ。
真田はバリバリとポテトチップの袋を開ける。くつろぐ気満々のようだ。そのまま一人で飲食して過ごしてくれればいいのだが。
「エンドーくんどうぞー」
「俺はいらない。一人で食ってろ」
「遠慮しないで、さあ!」
たかがポテチを全力で薦めてくるとはこれ如何に。いらねえって言ってんだろ。
「俺はこれだけで十分だ」
「コーヒー? エンドーくんもコーヒー派なの? 変だなー、誰も味噌汁飲んでくれない」
置いたのお前かよ。何故そこで飲み物に味噌汁をチョイスした。
「じゃあ代わりにじゃがりコーン要る? 購買に出てた新商品!」
「だからいらねえって」
「可奈、いらないって言ってるんだからそこは素直に退いときなさい」
「はーい。遠慮しなくていのにー」
ここで奈々城からの助け舟。助かった。拒否するのも面倒なんだよな……
しばらく真田は大人しくポテチを食べていたが、ふと思い出したように俺に顔を向ける。まさか俺の話題提供待ちじゃないだろうな。俺にはそれをする気も出せる話題もないぞ。
「エンドーくんはさ、好きなものなんかある?」
話しかけられる。そうされた以上、応対しない訳にはいかない。それはめんどくさい。だから早く話を打ち切ろう。
「ない」
「じゃあ趣味とか、特技とかは? ってこれじゃあ履歴書の記入欄か」
「趣味も特技も、資格も何もない」
人脈とか名声とか友人とかも存在しない。あったらあったで人生が豊かになるのかもしれんが、獲得するのも面倒くさい。率直に言ってどうでもいい。
俺の返答に驚いたのか真田は手を口元に当てる。
「えー、ホントになんにもないの? エンドーくん変わってるねー」
変わってるからなんだと言うのだ。この通りなんら問題なく生きていられる。だからいいじゃないか。それが俺の持論である。
「趣味が無いんでしょ? 土日とか放課後どーしてるのさ」
「ゲームしてマンガ読んで宿題して勉強して寝てる」
「結構フツー。でも宿題の他に勉強してるんだー。偉いね! 模範的高校生!」
俺が偉いのではなく、勉強してない奴が多すぎるだけなんじゃないだろうか。予習復習は常識だろう。その上で問題を解けなかったのならば仕方ないが、ほとんどの奴が明らかに宿題しかやってない。宿題すらやってない奴もいる。まあ、俺にはどうでもいいことだ。
「偉くないだろ。やんなきゃいけないことをやってるだけだ」
「それをできるのはすごいと思うけどなあ……」
「でも時間がある時に勉強するのは普通じゃない」
「祈までそんなこと言うー。この学年二位の優等生めー」
位置的に届いてないが、真田は奈々城を肘でぐりぐり押すような仕草をする。へえ、二位か。
「あ、じゃあエンドーくんは、この前のテストどんくらいだったの? 何位?」
この前のテストというのは、先々週の中間考査のことだ。高校にもなって中学の時より難しいのかと覚悟したが、そこまでではなく拍子抜けしたのを覚えている。
数日前に結果が帰ってきたばかりであるが、奈々城の順位もそれのことだろう。まさか下から数えて二位なんてことはあるまい。
まあどちらにせよ、俺より下である。
「奈々城のひとつ上だ」
「ひとつ上ねー。……てことは一位!? えー嘘! エンドーくん超頭いいー!」
真田は目を丸くして、呆ける。きっと想像もつかないのだろう。真田の順位は分からないし興味も湧かないが、よいものではないに違いない。
「嘘でしょ? ほんとだったら凄いじゃん! ねー祈?」
「え、ええ。……ちょっとびっくりしたわ」
そこまで驚くようなことだろうか。学年最下位が居ればトップもいる。トップがたまたま俺だったという話だ。そこまで難しい問題でもなかったし、予習復習を欠かさなければこの程度余裕である。
「あたしなんて全教科赤点付近スレスレなのにー。ギリギリ補習はなかったけどさ」
「頭良かったのね、遠藤君って」
「やることやってただけだし、順位なんてただの飾りだ。赤点さえ取らなきゃいいんだよ」
「一位の人のセリフとは思えないわね」
本心なのだから仕方がない。自慢するようなことではない。だからこれでいいのだ。
と、真田が真剣な目で俺を見ていることに気づく。言いたいことでもあるのだろうか。それならはっきり言えばいい。例え悪口や罵詈雑言だったとしても今さら気にはしない。
「よく見るとさ、祈と話すときは生き生きとしてるね~、遠藤君は」
どこをどう見たらそう見えるのだろう。寝言は寝てから言ってほしい。
「そうかしら。私は見ていて違いが分からないのだけど」
「いやいや、遠藤君は祈を見るときとあたしを見るときの目が違うよ。なんかきらきら~ってなってるよ。これはアレだね、遠藤君は祈に惚れてるね」
「寝言は寝て言え」
しまったつい口に。




