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ヒロインがやって来たんですけど…

乙女ゲームのモブに転生しました。

月が上らなくなり星一つも見えない本当の闇が世界を包んでいる…その影響なのか傀儡とか言うバケモノが好き勝手に暴れ回っていると言う設定の女性向けノベルゲーム…いわゆる乙女ゲームというヤツに。

私はゲームではヒロインのサポート役をつとめている男性の侍女として勤めさせて頂いています。その、サポート役の男性というのが史実でも有名な安倍晴明をベースにしており陰陽師として名の知れたイケメンなのです。深い海の底を思わせる藍色の髪に美しい若葉を写し取ったような深い緑色の瞳。誰もが認める美形だが彼は攻略出来ない。正確には一周目には攻略できないだが。


安倍様の申し付けで稲荷神社の境内の掃除をしていた時です。ヒロインが現れたのは。

「…アンタ誰よ。そこにいるのは晴明様と月兎ちゃんのはずでしょ?」

そうです、ヒロインがこちらにやって来ると同時にヒロインは傀儡に狙われます。そこを助けるのが安倍様と月からの使者となのる黒兎の“月兎”なのです。実は、ゲームの後半で傀儡は負の感情を糧にしている事が分かります。ヒロインの怒りの感情に傀儡が釣られて来ないといいのですが…ガサゴソと茂みが音を立てて揺れていました。傀儡かと思い固まる私とは逆にヒロインは嬉々とした表情で茂みを見つめていました。私の心配とは裏腹にひょこりと可愛らしい擬音が付くような愛らしさで現れたのは月兎ちゃんです。

「みことぉ…せーめー様がお菓子の時間にしよぉーって!!今日のお菓子はこんぺーとーだよぉー!!早く早く!!」

鈴を転がした様な甘く気の抜けたような可愛らし声にホッとしますが、スグに横のヒロインの反応が気になりチラリとそちらを見やります。ヒロインはその愛らしい顔を醜く歪めていました。どうやら、ゲームとは違いこのヒロインは性格が少々よろしく無いようです。ふと、ヒンヤリとした空気と共に鼻につく異臭が漂って来ました。傀儡が現れるサインです。私達が逃げ出すよりも早く傀儡が襲いかかって来ました。この先命は無いと思いきゅっと目を瞑ります。いつまで経っても痛みはありません…何事かと思い恐る恐る目を開けると…安倍様が呪符を携えて傀儡と向かい合っていました。あっという間に塵になった傀儡…と鬼の様な形相で私を睨みつけるヒロイン。あぁ…私の穏和な日常が傀儡と共に塵になって消え果てました。


「御琴さん大丈夫ですか?そちらの女性は?」

和やかな笑を浮かべてはいますが、微々たる怒りを滲ませた安倍様に抱きしめられています。私が悪かったので耳元で『悪い子にはお仕置きが必要かなっ?』ってイケボで囁かないで下さい!!ヒロインの顔がヤバイですって!!月兎ちゃんも私の足元にまとわりつくんじゃなくてヒロインの方に行って!?ここは私の心配をする所じゃなくてヒロインに興味を持つところだよ!?

「あの…私は何とも御座いません…彼女はもしかすると伝承にある月の神子様では無いかと思われます…」

じっとヒロインちゃんを見つめる安倍様と興味深そうにヒロインの周りを跳ね回る月兎ちゃんと戸惑っているフリをするヒロインちゃん…傍から見るとカオスと言うか色々な思惑が混ざりあって若干怖いです。月兎ちゃんの可愛らしい仕草に癒されます。

「それよりもお菓子の時にしましょう。このままでは食べ損ねてしまいます。そちらの方も是非。」

私の手をひいて歩く安倍様と私の頭に飛び乗った月兎ちゃんそして、困惑したフリをしつつ黒い笑を浮かべたヒロイン…なんだかとても不思議な一団に巻き込まれている気がします。


私の部屋に陣取った安倍様…どうして私の部屋なのでしょうか?いや、お菓子の時は私が寛げるようにと私の部屋にお菓子を運んでくれているのは知っていますよ!?でも、なぜ毎度毎度安倍様も私の部屋でお菓子を食べるんですか!?いや、幼い頃から私を育ててくれている安倍様は所謂父上で、父上と母上とお菓子の時を共にするのは分かっていますが、今の私は侍女ですよ?使用人ですよ?いくら家族みたいな物と言えど、侍女とお菓子の時を共にしてはならないとなん度も言ったでしょ!?暫しの間沈黙が私たちの間に流れた。沈黙を破ったのは安倍様だった。

「それで、君…名前は?」

月都(つきと)(みやこ)です。あの…此処は?」

「此処はみことの部屋だぞー落ち着くんだよぉー?」

「此処?此処は御琴の部屋ですよ。本来ならば私と月兎以外は立ち入る事の許されない空間です。」

いや待って、月兎ちゃん…それと安倍様…多分だけどヒロインはそんな事を聞いたわけじゃ無いよ!?凄い微妙な顔してるよ?後ね、安倍様…普通は育ての親だからといってもうすぐ成人の儀を迎えようとしている娘の部屋に男性が入る事は許されないんですよ?だから、月兎ちゃんはまだしも安倍様も立ち入ってはならないんですよ?

「此処は神乃都(かみのと)です。」

まともに答えられなさそうな月兎ちゃんと安倍様を差し置いて本来ならばヒロインと喋る事さえ許されない様な私が烏滸がましくも勝手に応えさせて頂きました。途端に醜く歪むヒロインの顔。そんなに私が嫌いか!!

「どうして私がココに?私の世界へ帰して!!」

取り乱した様に安倍様に詰め寄っていくヒロイン…と見せかせてその表情は嬉々としたものです。本当はこの世界にヒロインとして連れてこられて喜んでいる。そんな感情が見え見えですよ。そんなヒロインの腕をつかみ取りそっと壁へ押し付ける安倍様…貴方ヒロインに壁ドンする様なキャラじゃないでしょうに…

「残念ながら君はどうやら本当に月の神子様の様ですからね。まぁ、御琴を世話係に付けますが御琴に何かある様ならば貴方の命を頂いでももとの世界に送り届けて差し上げますが…後それから御琴、彼女を連れて月詠様の神殿参りを行うから旅に出る準備をしておいて。」

あのね、安倍様…言外にヒロインを殺ってしまおうと言う感情が見えてますよ?そして、甘く蕩けるような笑顔は私では無くヒロインに向けてぇ!!


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