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救いの無い話。  作者: 桜もち
3/6

ある男子学生の話。

 税は樹里に裏切られた。

 飼い猫が死んだ。寿命だった。わんわん泣きながら庭に埋めてあげた。後日たまらなくなって掘り返して食べた。美味しかった。


 税は猫が好きだった。小さな時からいつも側には猫がいた。柔らかいからだにふわふわの毛、くりくりの目玉にとそこから繋がった管がとても好きだった。

 何匹も飼って何匹も死んだ。税は全ての猫のこと覚えている。全ての猫の味を覚えている。骨はいつも少しづつ削り取って持ち歩いていた。

 学校の帰りに段ボールを見つけた。案の定捨て猫がいた。弱りきって汚いちび猫だった。持ち帰って看病してあげた。カリカリも食べられるようになった。お風呂にいれたら嫌がったけどドライヤーは好きみたいだった。巻き毛のキジ猫だった。唐揚げにしたミサを思い出した。こいしと名付けて飼うことにした。

 親は税が猫を飼うことに反対しなかった。税が猫を好きなのは知ってたし、猫の面倒は全て見ることもわかってた。エサ代やオモチャ代もバイトをして貯めたお金から出しているのだ。決して迷惑を掛けないのでいつどの猫を飼おうが、その猫が死のうが、全く気にしなかった。飼い始めて二日も経たないうちにいつの間にか居なくなった時も気にしなかった。

 こいしはすぐに懐いた。

 

「ねえ、また猫の毛付いてるよ」

 梨華が税の制服に付いた毛を摘まんで見せた。

「もー、家出る前にコロコロしてくれば良いのに」

 うるさい女だ。いつもしつこい位に引っ付いてくるし、こうして要らぬお節介を焼こうとする。うっとおしい。

「やだよ勿体ない。学校にも着いてきてくれるなんて嬉しいじゃないか」

 梨華の摘まんだ毛を奪い取りうっとりと眺めた。ふわふわの毛が日を浴びて輝いている。スマホにつけてるサシャのストラップと同じ位きれいだ。

「ほんとに変な子。私もう行くからね」

 梨華が行った隙に毛を口の中に放り込んだ。埃っぽくてほのかに獣臭くて、美味しかった。


「ニャオン」

 家に帰ったら真っ先にこいしが出迎えてくれた。しぃもこういう風に出迎えてくれたっけ、目頭が熱くなって、少し涙が出た。

 こいしはよく動く。買ってきた猫じゃらしを必死に追いかけて走って飛んで。とてもかわいい。水の入ったボウルを持ってくとがふがふと飲み始めた。

 かわいい。とてもかわいい。この子の内臓はとても温かくて美味しいだろうな。かわいい。食べたい。かわいい。

 お風呂から上がってくるとぺろぺろ体を舐めてきた。ざりざりする舌がとても気持ちよくてぞくぞくした。一緒の布団にはいって寝たらとても良い夢を見れた。


 下着を洗い終わり洗濯機に放り込んで洗面所を出るとこいしが体を擦り付けてきた。

「おはよう。こいし」

「ニャーニャイ」

 こいしを十分に撫でくり回してから支度を整えてご飯を食べた。

「こいしちゃん、ヨーグルト食べるかなー?」

「ニャー!」

「あんまりあげないでよ、病気になる」

 親は普段面倒は見ないが、ごくたまに猫と遊んだり、おやつをあげたりする。そのせいでタッチが死んだが食べさせちゃいけないものを教えたので大丈夫だと思う。

 税は玄関でまたこいしをなでなでなでしてから学校へ向かった。


「えー、転校生が来ました。自己紹介どうぞ」

 朝クラスについたら机が一つ多かったのでもしやと思ったが、この時期に転校生とは珍しい。引き戸を開けて入ってきた転校生は女の子だった。

「吉岡樹里です。よろしくお願いします」

 なかなか美人だ。つり目で毛の色が薄くて肌が白い。スタイルもいいな、柔らかそうな体だ。

「吉岡はあそこの空いてる席な。みんな仲良くしろよ」

 樹里は税の隣に座った。

「これからよろしくね」

 税は胸がどきどきするのを感じた。


 帰り道白猫を見つけた。このあたりでたまに見かける人懐こい猫だ。税は持っていたカリカリを使って人目のつかない暗がりへ誘い込んで撫でまくった。持ち歩いてるレーザーを上へ下へ動かすとその赤い点を白猫は大喜びで追いかけた。

 その姿がかわいくてかわいくて。その柔らかい首を捕まえて絞めて、ぎゅっと絞めて、地面へ何度も叩きつけた。ぐにゃぐにゃに曲がった体が温かくてかわいかった。小さな体が気持ちよかった。かわいくて気持ちよかった。力づくで開いた腹から内蔵を引き出して舐めると何かを思い出した。猫の目を見てると浮かんでくる吉岡樹里の顔。

 そうかあの女、猫に似てる。


 こいしは脱ぎ捨てた制服を嗅ぎ回っていた。白猫の臭いが付いているんだろう。シャワーを浴びてきた税は髪を拭きながらこいしを膝に乗せた。

「ニャオニャオ」

 じゃれつくこいしと重なる樹里の顔。ついつい顔が綻ぶ。ぷにぷにの肉球に爪を立てたらこいしはビックリした顔して膝から落ちた。見開いた目が焼き付いて、税はニヤニヤしながら血を舐めた。

 その日の夜、こいしは布団に入ってこなかった。少し寒さを感じながら眠りに付いた。


「税君は猫飼ってるの?」

「え? ああ。まぁ、うん」

「へー! 私猫好きなんだ! 写真とかない?」

 スマホの写真を見て樹里は目を輝かせている。樹里は近くで見れば見るほど猫に見えてくる。くりくりの目、柔らかい髪、ちらり見える八重歯。キメ細やかな肌に吸い付いて、噛みちぎって、とても気持ちよくて……

「ん? 私の顔になんか付いてる?」

「いや、何も」

 ふーんと言いながら樹里はスマホに目を戻した。垂れてきたよだれをさっと拭う。

「ねえ、今日家にいっていい? 猫ちゃん見たいな」

「……いいよ」

 樹里はとてもかわいかった。


 税の家に樹里を連れていったら親はそうとう驚いた。いつもいつも猫を連れてくることはあっても女の子を連れてくることは無かったからだ。後でジュースとお菓子持っていくからーと、親とは別れて部屋へ向かった。

 こいしはタンスの下へ隠れていたが無理矢理引き出して樹里へ投げた。引っ掛かれた。かわいい。

「猫ちゃんかわいいねー、ご主人様と喧嘩しちゃったのかなー? 税君大丈夫?」

「大丈夫だよ」

 押し入れの中からオモチャを取り出して樹里に向かって振った。樹里は喜んでじゃれつく振りをする。かわいくて、気持ちよくなってきた。樹里の腕の中でこいしは体を強張らせている。

「かわいいね」

「えっ? いきなりー? 照れるなもー」

「かわいいよ」

「もう褒めすぎっ! えへへ」

「かわいい。食べたい」

「えっ……? ……税君になら、いいよ」

 了承を得て、気持ちよくなった税は用意してたナイフで樹里を突き刺した。思ったより固くてごりごりした。樹里は重い音を立てて倒れた。ひっくり返して仰向けにした顔は白目を剥いて不細工になってた。

 税はナイフを抜かずにそのまま力づくで下へスライドさせた。服が絡んで邪魔だった。全部脱がせて腹を大きく引き裂いた。

 黄色いブツブツの脂肪は思ったよりかわいくなかった。それどころか大きな体から溢れた内臓が臭くて気持ち悪かった。ヌメヌメヌメヌメ広がる血が急に現実味を帯びて鮮烈に映った。こいしはまたタンスの下へ隠れた。

 税は気持ち悪すぎて吐いた。ドアを開ける音がして親が入ってきて、悲鳴をあげて、税の人生は終わった。


 少年院に入って、税は猫になった。かわいくって気持ちよかった。

 かわいがりたい。

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