発見
僕はジカルまで転移して向かう。アリーシャン達は通常の移動、馬での移動なのでどれだけ早めに見積もっても到着するのは数日後だ。
そこで僕はジカルからアカックへ続く街道を歩いて戻るように進む。こうすることでいずれアリーシャさんと謎の男に会えるはずだ。もちろん、100%街道をすんなり通ってくるはずと断言はできないので、2,3日で会えないときはまた一度ジカルへと戻るつもりだ。
以前も通ったアカックとジカルをつなぐ街道。人の通りも多く、国がその安全を守るために兵隊を使い魔物を間引いているおかげで強い魔物が現れることは稀である。
この街道は物資の通り道となっており、その流れが止まることは即国の物資不足につながる。だから、お互いの国が協力して魔物討伐を行っているらしい。そして、大型の、強力な魔物が出にくいのも魔物が現れてもすぐに討伐されてしまうため、魔物が好む魔力みたいなものが溜まりにくいらしい。そのあたりはまだ仮説しかなくはっきりとはしていないと教えられた。
僕のLVだとこのあたりに出てくる魔物を倒してもなんの旨味もない。LVも上がらない、落とす素材も普通のものとなると選択するのは逃げの一手だ。
僕一人、高LVの能力、戦闘回避、これらが重なり僕のペースは相当早いものになっていた。日が落ちるころになるとアカック・ジカルの間にあるトーウィンの村まで来てしまっていたのだ。
前回の3~6倍のペースじゃないか、これ。割と急いだつもりだけど、まさかここまで早いとは思わなったよ。この世界のLVはかなりの恩恵を僕にもたらしてくれるらしい。
そう考えるといつかはLV100を超えてみたい、そんな気持ちもでてくる。またこの事件が解決したら神様(管理者)にでも聞こう。
こうして僕はとりあえず村唯一の宿に向かった。
「すみません、1泊お願いします」
少し古びた、けれどもしっかりと清掃の行き届いた宿で第一印象は悪くない。人の数はまばらではあるが恰好から商人が多い。中継地としての役割があるこの街に訪れるのは、ほとんどが商人か冒険者で、宿に泊まるのは商人のが多いみたいだ。冒険者は適当なスペースで夜営をするほうがメジャーらしい。道中そんなような人が何組かいた。
「お一人銀貨2枚で食事やお湯は別料金だよ」
そう言われ僕は銀貨3枚を渡す。もちろんご飯とお湯をおねがいした。ちなみにアカックの僕がよく使う宿は銀貨1枚でここよりもきれいでしっかりとしたサービスが受けられる。倍の値段なんてぼったくり、お客さん来るのか? とも思うかもしれないがそれだけ需要があるから問題ないのだろう。実際僕もそんな風に思いながら宿泊する人間の一人である。
「そうだ、ここに女性と男の二人組の旅人はきませんでしたか?」
「うーん、それだけの情報だと何とも言えんが、そういう組み合わせの者なら2,3組いるぞ」
「本当ですか!!」
もしかして、ここが辺りだったか? 馬で移動したとして、距離的に考えれば彼女たちがここについていてもおかしくはないが、旅慣れないアリーシャさんがいるから、ここに着くのは明日ぐらいと思っていた。
「名前とかってわかりますか?」
宿の主人は何か取りだしてそこに書かれているだろう物を見てひとりで勝手に頷く。
「わからんこともないが、それが本名でない可能性もある。さらに言えば、それをタダで教えるようなことはしないぞ」
この世界には個人情報保護法なんてものはないらしく、お金を握らせればある程度の情報を手に入れることができる。
僕は銀貨をさらに1枚主人に握らせ
「その中にアリーシャって名前はありますか?」
「えぇ、っとアリーシャ、アリーシャ、あったぞ」
「本当ですか?」
「ああ、お前さんの部屋の隣だな。と、これで情報量分は話したからな」
思いがけない情報、僕にとっては金貨数十枚分の価値がある。
僕は主人に礼を言い、部屋に向かう。道中謎の男に会わないように気をつけなければ。男は僕の店、万屋のことを調べ、観察をしていたはず。だから僕のことを知っていると考えて間違いない。そんな状況で出会うのはあまり賢い選択ではない。