名推理
リリの話が進むにつれて、僕は自分の顔が血の気を引いていくのがわかる。リリは倉庫のカギをアリーシャさんに渡した。それは3日前にアリーシャさんが残業をすると言うことで、金庫が倉庫の中にある以上仕方ないことだ。だから僕がリリを責めるようなことはない。正しい判断だ。
それで次の朝、昨日の朝、いつまでたっても現れないアリーシャさんを心配して一度家まで迎えにいたらしい。が、どうしてもアリーシャさんに会うことが無理だったらしく、リリは彼女が体調が悪く、知り合いにお世話になっていると考え、自分たちだけでお店を回すことを決意したとのこと。
それでなんとか1日は乗り切ったけど、店内はカオスだったらしい。今日は泣く泣く午前中の間だけオープンして午後は休みにしたと言われた。人手もない、商品も補充できないからどうしようもないと。
それで、1日半たってもアリーシャさんから連絡すらこない、これはなにかあったかと思い始めたところに僕が登場した、ということらしい。
消えたお金、連絡の取れないアリーシャさん、鍵の在処。それに、
「リリ、そういえば展示用に作った高性能な剣って売りに出した?」
「それはないはずだわ」
なるほど、となるとこれらから導かれるのは『アリーシャさんは襲われたに違いない』ということだ。
僕はリリに説明すると同時に自分の推測を整理する。
「まず、二日目の夜、アリーシャさんは残業、遅くまでお仕事をしたわけだ。リリに迷惑をかけずに仕事を終えるにはカギを借り、なおかつそれを持ちかえらないといけない。遅い時間に子どもを起こすのを躊躇ったのだろう。その帰り道、アリーシャさん襲われた」
「なんで、アリーシャさんが襲われるの?」
「まず、リリとララは除外。凄腕の冒険者として認知されているから襲うのはバカしかいないだろう。僕の強さは認知されていないけど、つい先日まで宿で働いていた女の人よりは男ってだけで襲いにくくなる、なにより二日目に僕はいなかったから襲撃するにしても不可能だ。さらにアリーシャさんがお金を扱っている。レジ業務をしているのを知っていればなおさらだ」
僕の説明になるほど頷くリリ、そして続きをと目で合図をしてくる。
「夜遅く人目もないタイミングで犯人はアリーシャさんを襲い、金目のものを持ってくるように脅す。ここからは曖昧になるけど、いずれかの方法で犯人は金品を奪うことに成功した」
「方法はわからないの?」
リリがすかさず疑問を口にする。
「脅す方法によってはアリーシャさんだけ倉庫に行かせて犯人のところまで持ってこさせることも可能だから犯人が倉庫に侵入して強奪したかどうかはわからないんだ。とにかく、犯人はアリーシャさんを脅すことで盗むことに成功したわけだ」
「うんうん」
「その後、犯人は自分の痕跡を消すためにアリーシャさんをどうにかした」
「ど、どうにか。まさか、殺――「そう考えるのは早計だ」」
一気に顔色を悪くしたリリの言葉を食い気味に僕が言う。
「いざという時に人質にするため連れている可能性が高い。血の跡も見当たらないし、宿屋のアリーシャさんはちょっとした有名人だからもし殺されたいたらあっというまに噂になるはず。それがないということは、ね」
「そうね」
リリが少し落ち着く。自分がカギを渡したから?とか思ってるのかな。リリの行動と事件とはまったく関係ないけど、人の気持ちは理屈じゃないんだよね。
もし、あのときこうしてれば。なんて思うことはよくあることだ。
「とりあえず、手分けしてアリーシャさんのことを探そう。リリはララと一緒にもう一度アリーシャさんの家に。僕は街のそとに連れていかれていないか情報を集めてくるよ」
そう言い僕達は店を駆け出る。
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