宿屋で学ぶ異世界のツール
僕が選んだ宿は≪丘の夕暮れ≫という一端の冒険者達にも人気の宿だ。人気の理由として挙げられるのはおいしい料理はもちろん、看板娘のアリーシャという女性と街で聞いた。上手い料理に酒、美人な女、この2つがそろったら冒険者が集まらないわけがない。部屋は高級とは言えないが手入れ、清掃がしっかりとされていて申し分ないらしい。
受付へ行くと早速看板娘が応対してくれる。確かに、これは美人、かわいい。年齢は、17.18ぐらいだろう。金髪ショートカット細身の体に男の視線を集める胸、スラっと伸びる細い足、僕もしばらく見とれてしまった。
「あ、すみません。1泊お願いします。」
「はい、1名様ご一泊ですね。お食事はどうしたしましょう?」
「お願いします。」
「はい、かしこまりました。宿泊費と朝夕のお食事代合わせて銀貨1枚となります。お体をふくためのお湯とタオルの料金はサービスしておきますね。お食事は食堂にお好きなタイミングでいらしてください。お湯とタオルは受け付けまでお願いします。夕食、お湯共に日が落ちて、しばらくは対応してますが、あまりに遅いとスタッフがいないかもしれませんのでお願いします。朝食は日が昇った後でしたら大丈夫です、こちらも場所は食堂になります。」
はきはきと、元気よく対応してくれる。最初僕が見とれたのばれたかな? うん、僕もここの常連になりそうだ。と、そんな彼女に再び見とれつつ銀貨1枚を手渡す。その後案内された部屋は評判通り清潔感があり、小奇麗にされている。看板娘に部屋と評判通り、これならご飯も期待できるな。
あまりにいろいろありすぎた1日、ベッドに横になると、気づかぬうちに眠りについていたようだ。窓から外をみると日は落ちて街は闇が占める。近代化が進んだ現代都市とは違い、街に明かりは少ない。見えるのは道に見える街頭らしきもの、家の窓から漏れる淡い光ぐらいだ。まぶしいほどの光を出すLED、ネオン、ビル群そんなものはない。例えるなら田舎の山奥か。そしてあの光はマジックアイテムで灯しているのかな。と、そこまで考えた時自分が暗い部屋にいることに気づく。スイッチでもあるのか? 出入り口あたりを探すもそれらしきものは見当たらない。
あぁ、僕マジックアイテムについて何も知らないよ。それころ部屋に明かりを灯す方法でさえ。元の世界とは物理法則が異なる世界、自分で考えるのあきらめ受付に聞きに行くことにする。わからないことは聞く、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、。
階段をおり、受付に向かうとそこにアリーシャがいた。
「すみません、明かりの付け方がわからなくて。よかったら教えてくれませんか?」
「あ、は、はい。かしこまりました。お部屋に向かいますのでお客様のお部屋でお待ちください」
ん? なんか一瞬警戒、ためらい、そんなよくない感情がアリーシャから読み取れた。なにかまずいことしたかな。考えてもわからない、あとでそれとなく聞いてみよう。
自分の部屋にもどり、しばらくするとアリーシャが来たが、部屋に入ろうとしない。廊下から彼女の指示を聞きながら頑張ってみるも、わからない。そもそも魔石に手を当てて、とか言われても見たこともないものを探せない。なかなか明かりを灯せずにいる僕に業を煮やしたのか、彼女は部屋の少し中まで入りあるものを指さしながら
「そこに手をかざしてください。そして、明かりよ、と念じてください。」
と指示をだす。彼女は常に半身でいつでも廊下に行けるような体勢だ。ここまでくるとなんか警戒されていると僕でもわかる。がとりあえず言われるがまま念じると部屋に明かりがつく。
「ありがとうございました、田舎からでてきたばっかりでこういうマジックアイテムの使い方わからないんですよ」
「そ、そうなんですね。これで、私は失礼します」
「あっ、ちょっとまってください。聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
彼女は困ったように頷く
「えっと、僕って警戒されてました? もしそうなら理由を伺ってもいいですか?」
客商売をしている彼女には答えにくい質問だ。そんな質問にしばらくして彼女は意を決し答える。
「あ、はい。申訳ありませんが少し警戒していました。男性のお客様の部屋に入って、そのあまりいい経験をしなかったので。まだ、子供ぽさが残ると言え男性は男性です。それに、そんな高価なマジックアイテムをつけていて明かりがともせないとかどう考えても誘い文句にしか聞こえません。ですから、申訳ありませんでしたが警戒をさせていただきました」
「なるほど。誤解させてしまってすみませんでした。いろいろあって、僕はあまり常識に詳しくないんです。アイテムに関しても知識が少ないですし。このマジックリングは今日いいなと思って買ったもので、僕の持っている唯一のマジックアイテムなんです。質問ついでに聞きますけど、他のマジックアイテムも基本的には魔石に向かってなんか念じれば使えるんですか?」
「いえいえ、こちらこそ不快な思いをさせてしまいまして申し訳ありませんでした。それで他のマジックアイテム、いわゆる生活アイテムですね。火をつけたり明かりを灯したり、水を出したりとそういったものは基本的には魔石が付いており、そこに魔力を通すことで作動します。」
「魔力?僕は何もしてないけど。」
「はい、意識して魔力を使い魔法を使えるのは魔導士だけです。ですが、わずかとかいえ魔力は誰もが持っています。それを簡単にコントロールする方法としてキーワードを念じるのです。こうすることで私達の様な一般人にも簡単なものであればマジックアイテムが使えるようになるようです」
警戒していたこと、アリーシャにとっては話しにくいものなのに丁寧に話してくれ、僕の質問にも答えてくれた。きっとお店の評判とか考えて迷ったと思うのに。それでも誠実であろうとしてくれたこの娘には好感が持てる。
「ありがとう、アリーシャさん。誤解を解いたところで申し訳ないけど、これから仲良くしてくれるとうれしいな」
「こちらこそ、それでは私はこれで。お食事準備もできてますから食堂までどうぞ。」
笑いながら答えてくれたが真意は僕にはわからないな。だがこれから時間をかけて仲良くなればいいか。こうしてやはり僕はこの丘の夕暮れの常連になるのであった。
いかがでしたか?
主人公つえーはまだ先です。
感想・ブクマ待ってます!!!