第六話 俺、ラミアたん好き
《第六話_ラミアと俺と、回復薬と》
あの扉を開けるとすぐに目に入ったのは倒れて痙攣しているラミアだった。
多分、コイツは直ぐ死ぬだろうし、その前に俺が止めをさせば、経験値も相当入って俺は強くなるだろう。
だが、俺の目標は一つだ。
このラミアたんを俺の仲間にしてドキドキハーレム要員とする事だ!
ラミアたん本当は神様だけど今じゃ堕落しちゃって悪魔アンラ・マンユとかいうジャンルの違う魔王の仲間だけど、可愛いし、人妻だけど、美しいし、いんじゃね?って感じで…。
「お、おーい?」
「………た、す……。」
声をかけるとラミアたんは薄く眼を開き、重たそうな腕を持ち上げた。
俺はラミアたんの頭をさすさすと撫でてから、余韻に浸った。
へっへ、こいつぁ…かぁいいぜ!
ラミアたんは俺に倒れるようにもたれかかって来た。
俺は咄嗟に受け止めると、ラミアたんのお顔をじっくり見てからミコア草を取り出した。
品名:ミコア
品質:S+
備考:回復効果が微妙にある草。回復ポーションなどになる。
が、品質がSのミコア草を三つ以上煮詰めると、ハイポーションに負けない回復薬になる。
はい、Sランクのミコア草は腐るほど取って来たので一杯あります!
これを煮詰めて、ラミアたんを回復させたいと思います!以上!
地魔法初級の土いじり魔術。
土弄。
これは、簡単に言っても難しく言っても土いじり魔法。
子供が遊んでるうちに嫌でも覚える魔法だ。(と、大全に書いてある)
子供が使えるくらいの魔法、つまり弱い。
だが、魔力が多い俺がやったらどうなるか。
はい、こうなる。
一瞬で綺麗に輝くお鍋が出来た。
本来本当に少しの土をいじり、小さな泥団子が出来るぐらいの魔法だが、俺はそれで抱えきれそうもないお鍋を創りだし、それを圧縮で粒子を押し固め、高温圧縮でさらに地中の鉱物を使って鉄みたいに硬い鍋にしたのだ。
でも何で土に鍋が出来るほどの鉱物が混じっていたのか。
それは、ダンジョンだからだ。
ダンジョンでは嫌でも魔力が大量にたまる。
だから土の中で魔力が結晶となり、凝固する。
これが魔力鉱石の元となるものだ。
さらに数年、数十年かけて大きな物になるのだが、表層の土には成りかけの鉱物が散らばっていて、それを加工して出来たのだ。
因みに魔力鉱石が最大の大きさ、最大魔力になると大きな天然魔石になるのだが、また別のお話…。
「よし、こんなもんで良いだろ?これに水をっ、と。」
水魔法で水を溜め、火魔法で沸かす。
最大火力でやったから鍋が壊れるかも、とびくびくしていたが、大丈夫だった。
ジーザス、さんきゅっ!
沸騰した水にミコア草をどぼどぼと投入し、魔法鞄から道中で見つけたポワワ草(甘くておいしいらしい)と、毒消し草のミツ草と、クソゴブリン魔石を数個とその他もろもろをジャラジャラボトボトと大量に投入し、魔力を注ぎつつ混ぜる。
魔石は魔力で中和され、溶けてあとかたも無くなり、ミコア草もミツ草もポワワ草も溶け、良い具合にとろっとした緑色の液体(臭い)が出来上がった。
匂いは馬糞に黒酢を駆けたみたいな強烈なにおいで死ぬかと思ったので幻臭魔法で良い臭い(清潔な石鹸の匂い)に変えて、瓶(創った。)に詰めていく。
たくさん作ったから試験管サイズの瓶はあっという間に百本を超え、215本で入りきった。
ちらり、とラミアたんを見るとハァハァと息を荒げて心臓を抑えている。
そんな体調で大丈夫か?大丈夫じゃないな。
勢いで作ったが、効かなかったらどうする?
いや、効く効かないではない、まず飲ませよう。
よし!
ラミアの頭に触れ、膝にのせる。
蒼い髪がサラサラと手に絡みついた。
口を開けさせ、気道を開ける。
瓶を手に取り、口に流し込む液体は、トロトロと口の端から垂れだした。
まるで…………………ふぅ。
瓶の中身が半分まで行ったころだ。
ラミアの呼吸は落ち着き、眼がうっすらと開いた。
緑色の美しい瞳は光をともしていて、心なしか全快しているように見える。
「あ…なた………りがと。」
「ラミアたん…。」
「い…ま、何時…だ?……」
「今は…」
おいちょっとレベルアップの声の人、今何時?
《レベルアップの人ではありません。》
じゃあ何さ。
《名前はありません。で、今は人の時代712年、4:13です。》
まって、地球で言うと?
《えっと…17712年の4月13日。》
四月も十三日も分る。
ただ人の時代とは分らんな。だが帰ってから聞くとしよう。
《…(名前…考えてはくれないのですね)》
「今は人の時代712年、4;13だ。」
「ひ、人の、…そうか、私が眠っていたのは……そんなに…。」
「俺はシン・ロヴェルグだ。13だが冒険者をやっている。」
「わ、私は…神々の時代に生まれた、ラミア・ゴーントだ。こう見えても魔王アンラ・マンユの手下で、多分、お前らで言われている危険ランクSを超えるだろう。」
ラミアは足枷を見て寝たまま手をあげた。
腕輪についた宝石が音を立てて割れると、一瞬で部屋内の魔力が淀み、増大した。
光り輝く白い宝石はどす黒く変化し、チリとなった。
「もう、時代が過ぎ、古代の神も衰えた。封印が解けたのはそのせいか。」
「ラミアは、どうして此処に封印されていたんだ?」
俺が首をかしげるとラミアは笑って髪飾りを破壊した。
え、怖い。
それ封印の道具ですよね?
そんな黒い笑顔で破壊しているけど、ちょっと、え、大丈夫?
俺が。
「私は古き時代に神の愛人だった。だからそれに怒ったあの女が私を一生眠れない、この怪物にした。だから、私の自慢の事も出来なくなって、時間の感覚さえ無くなった。」
そして、ラミアの口から物語が紡がれていった。
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私は神々が治める良き時代に生まれた。
ただ、身分の格差などはあったが、政治は良かったし、何より神々の頂点、最古の神が優しかった。
だから、私も憧れたものだ。
いつか、あのように民の事を考え、最良の事を尽くせるような人になりたいと。
ただ、大人になった私を待っていたのはつらい現実だった。
私の身分は母と同じ最上級。
だから、引く手数多だったが、自分で良いと思える人は居なかった。
ほとんどがこの容姿、権力目当てで、真実の愛を注ぐものは居なかった。
だから、汚されたことも奴隷にされたこともある。
蒼い髪が地に着くほどになった頃だ。
その男が現れたのは。
その男は最古の神に近い者、ゼウスだった。
金の髪を振り、剣を振るい魔の者を薙倒しゆく。
私は美しいと思った。
だが、彼にはもう妻がいた。
それがヘラだった。
ヘラは驚くほどの美貌の持ち主で、母さまといい勝負だった。
でも、恋などした事が無い私はあきらめを知らなかったのだ。
ゼウスに色仕掛けをし、関係をもってから、本当に愛し合った。
子供も授かり、愛情を注いで育てた。
だが、ヘラは一夫多妻制を嫌う、一夫一妻制主義者だった。
それで私は解けぬ呪いを受け、醜い姿となった。
ゼウスは私がこの姿になった瞬間に哀れんで、愛を途絶えさせた。
あり得なかった。
あんなに愛して、愛し合ったのに。
ヘラはとまらなかった。
私達の子供を拷問にかけ嬲殺し、私の自慢の眼を開けている間は憎しみに包まれるようにさらに呪った。
だから、私はゼウスのもとを去った。
ゼウスは哀れみからか私の眼を取り外せるようにしたが、意味も無い。
私はアンラ・マンユに拾われ、子供を殺しまわった。
そして、自らゼウスの心臓を抉った。
アンラ・マンユは優しかった。
私に愛情を注ぎ、子を授かっても愛し、憎きゼウスを手に掛ける機会さえ作った。
アンラ・マンユは古代の神に創造されたが、感情を持ち、自由な人々、様々な種族、色々な物に憧れた。
だが古代の神は、アンラ・マンユは危険だと勝手に嬲って…
だからアンラ・マンユは古代の神に立ち向かったのだ。
自分は此処にいる、自由になりたい!と。
だが、アンラ・マンユは、封印された。
最盛期の最古の神は強すぎたのだ。
そして私も指先で封印されたのだ。
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「ラミア………うっ、ぐすっ、おみゃえいいやぢゅじゃにゃあ!!!!!!かにゃしきゃっちゃりょうにゅいいいいい!(お前良い奴だな、悲しかったろうに!!!)」
「ははっ(何だコイツ。)」
「よし!ラミア、俺と一緒に来い!」
「はは、それは良い……………………………は?」
「よしよし、俺が呪いを解くし、古代の神殺す。アンラ・マンユも復活させよう!」
「は?シンはさっきから何を言っている。私は昔子供殺しをして回り、全てを破壊せんと暴れた身だ。しかもアンラ・マンユは…世界に楯ついて封印された。封印を解けば感情に飲まれて再び立ち上がるだろう。私はこの長い時の中で自らを戒めた。………が、お前を殺す事も容易い。」
カタン…
そう気迫迫る顔で迫って来るラミアに床ドンされたところで、焚火(調合した時の奴)の奥で音がした。
何事か?と目をやると刺さっていた剣がチリとなっていた。
剣、忘れてた………。
「む。剣が…あれは幻想級の武器…塵となった?古代の神が、滅びたのか?いや、あれは滅びぬはずだ……」
「難しい事はわかんないけどさ、俺と来いよ!ラミア、一緒に呪い解こうぜ!」
「…お前、呆れた。今の話を聞いても変わらぬ意思。」
「それしか良いところ無いんだ。まぁ、残りの足枷とか壊すからほら貸せ。」
ラミアは笑って「良いよ」と言った。
俺は、その時心がズキズキとした。
痛かったのだ。
・・・その感情は知らない。
そして封印されていたラミアの力は全て解放され、仲間になった。
俺は、知らなかった。
これが後に俺を苦しめる元凶だと…。
「神に近づきし者、その翼を切り落とされるだろう。だが、代わりに大きな物を貰うだろう。」
__________________神代理人 カギル・アークス