第一話 俺、神に贈り物貰う
時間がないっていうね。でっていう
《第一話_神の贈り物》
「…まぁ、まぁ?一流の魔法使いはうろたえる事無かれ!?まずは探索しなければ…あばばばば」
シンはベッド、簡易キッチン、床、壁、くまなくしらべ、結果何も無いと判断。
ドアらしきものをあけると建てつけが悪いのかギィギィ言っていて、家に帰りたいと心の底から思った。
彼は幽霊とか変な音が嫌いなのだ。
両親が死んだ時にポルターガイスト現象が多発し、以来幽霊が苦手なだけなのだが…。
「えらく質素な家だな。本当に何にもない…人住んでるのかコレ?」
何にもなさ過ぎて困る家を探索、結果本当に何にもないと判断。
暇すぎて手に抱えていた魔法大全をパラパラめくり、「転移:帰還」のページにとまった。
「帰還…帰れるんじゃないか?必要なものは……女神の心臓、世界の核」
………フラグ建った。これで一級フラグ建築士の称号は俺の物だ。
そう思った時だった。
ピコ、とゲームでよく聞く音がして、俺は咄嗟に辺りを見回した。
さっきと同じ部屋だ。
大丈夫、変わったところは無い・・・・
が、俺の視界の端っこに「ステータスオープン」って書かれているのを発見した。
「ステータス、オープン…。」
何となく、淡い期待を持ち唱えてみた。
すると一瞬の内に効果音がつきそうな勢いで目の前がよく見たゲーム画面に切り替わった。
何のへ変哲も無いただのステータス画面。
「なんじゃこれ・・・はは、疲れてるのよ貴方。」
じゃっかん現実逃避をしつつ目を通して行く。
ひとつ、頭にひっかかった。
異世界転移
最近よく小説なんかで見かけて、俺が好むジャンルのひとつ。
はは、まさかね…と思いつつも目は下へ下へと動き、失いかけた光をともしてゆく。
もしかしなくても、異世界転移だ…ろ?
「女神様さまだな、こりゃ」
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《シン・ロヴェルグ》 Lv.1 はぐれ勇者
称号:勇者召喚されたもの、女神に魅入られた異世界人、一級フラグ建築士
基礎ステータスは非表示です。現在見ているのは基礎を元に換算した値です。
【体力】…80
【魔力】…999
【攻撃力】…57(素手)
【防御力】…42(ただのふく)
【敏捷】…89
【幸運】…99
《祝福》
・女神に愛されしもの
・異世界の魔神に愛されしもの
・レベルアップ時大幅アップ(あと:5回)
《固有スキル》
・スキル強奪
・名付け強化
《スキル一覧》
・偽装
・嘘吐き
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俺の、ステータス…
それは何故かとっても魅力的で、美しくて、俺の目には光り輝いて見えた。
だから俺はすんなりと此処は異世界で、俺は召喚されたが手違いで女神に会って、結局此処にいるんだと。
俺の13年間でもっとも嬉しい出来事だ。
「ロヴェルグさん!ロヴェルグさん!今年の税金が未払いですよぉ~、払っていただけないのなら魔族にしますよぉ~?」
と、俺の耳に忌々しい声が入ってきた。
どうやら俺の家(仮)は扉ドン×2をされているらしい。
ロヴェルグ、か。
この部屋の主、ってことで良いんだよな。
しかも今扉ドンドンしている奴の口調と部屋の造りから良く思われていないか、税金滞納か。
う~む。
「ステータスオープン、所持金表示」
所持金:大白金貨0枚、白金貨2枚、金貨5枚、大銀貨0枚、銀貨59枚、大銅貨62枚、銅貨19枚
日本円表示:315万3900円
えっと、大白金貨が1000万?白金貨が100万、金貨が10万、大銀貨が1万円、銀貨は1000円、大銅貨は100、銅貨は10って感じでいいんだよな?あとこれ俺の通帳に入っていた金額と同等だから変換したのか。
とりあえず部屋の主もあるし、此処に飛んだわけだから払っておくか…足りるよな?
ということで扉へ向かって歩き、所持金を出そうとする。
が、出し方が分からない=税金払えない=魔族認定
魔族がどんなのかは知らないが魔族にしますよ、っていっている時点で悪いものだよね。
「あ、これか…何々?……所持金は空間魔法の四次元鞄に入っています・・・と。取り出し方はまず、四次元鞄を詠唱し、出てきたら手を突っ込んで取り出したいものを取るだけ。尚、魔法鞄に入っておりますのでご了承ください。とな・・・」
所持金表示一覧の端っこに書いてあったことを堂々と読み上げると所持金の取り出し方がわかった。
四次元鞄は空間魔法、魔法鞄は鞄の中にあるだけの物が入るんだよな?そういう認識でおk?
では改めて所持金を取り出そう。
そのために詠唱を…詠唱?
やばい、ピンチ。詠唱の仕方がわからない!どうしよう…
いや、薄々わかってはいた。
無詠唱
この世界での立ち位置は分らない、だが今までの読書経験、ゲーム経験からかなり高等な技術に入るに違いない。
いまはコレをして税金を払い、ロヴェルグさんの魔族認定回避、俺の一応地球帰還のための素材探しをしなければ…
たぶん、イメージでいいんだと思う。
ただの壁が、四次元につながるイメージ・・・イメージイメージイメージ…………
いつのまにか目を瞑っていて、目をあけると壁は穴があいたように、ドラ○もんのタイムマシンに乗る時見たいに、ぐっにょんぐっにょんしていた。
結構簡単だったな、無詠唱・・・
だが、所持金を取り出すまでがミッションだ。
さすがに此処に手を入れるのは結構気が引けるが、いつか好きだった女の子のスカートの中だ、と思いこみ、手を突っ込んだ。
もちろんそこはスカートの中の聖地、シルクパンツのさわり心地とは程遠いニュルニュルしている何か。
ちょっと吐きそうになったがこらえてマジックバックを探す。
こうやっていると触手に犯される女の子を想像してしまった。
いけない、邪心はいらない。
「あった、コレかぁ、マジックバック・・・」
手にしていたのは腰につけるタイプ。
中を覗いてみるとさきほどのような空間がぐにゅぐにゅ渦巻いていて、俺はやっぱり変な妄想しながら所持金をとりだした。
けっこう重いな。
金貨銀貨だからじゃらじゃらしているし、1kg以上あるんじゃないか?
「はいはい、なんすか?」
「おやぁ?嫌われ者のキラ・ロヴェルグと魔族のシア・ロヴェルグじゃないんですねぇ?まぁ、いいですよぉ…税金、今年の分未納で、銀貨3枚ですよぉ…」
「銀貨三枚?安いんだな。ほれ、もう来るなよ。ブ男。」
意外と安かった税金を投げつけ、一気に扉を閉めた。
なんだ、あの鼻に着く汚い声。オークの方がまだ良い顔面。身長はネズミ55匹分ぐらいの・・・
朝から嫌な気分だ。
こういうときは魔法をぶっ放すに限る。
と、軽い気持ちで魔法大全の攻撃魔法一覧をパラパラとめくり、上級魔法に目を付けた。
氷河の怒り。
広範囲に氷漬けにする恐ろしい技らしい。
ちょっとすぐそこに見える森に向かってぶっ放すか。決まり。
庭らしきところに降りると、森が目に入る。同時に心地よい風が擽った。心が洗われるぞ…
森の方は何となく、いや、凄く禍々しい森だ。魔の森って感じ?
「聖なる者の涙と悲しみ!怒れし者の気持ちを代弁せよ!氷河の怒り!髄から凍れ!氷河の怒り!」
ぶっちゃけ詠唱はしなくても良いんだけど、何となく詠唱した。詠唱したらなんか格好いいもん。
頭の中で氷を生成し、大きくしてゆく、そして森全体を凍らせる勢いで魔力みたいな力を放射する。
ばきり、と音がして、森からしていた鳥の声や何やらが一気にしなくなった。
閑静な森にガヤガヤとしている近所。近所の家までは位置が悪くて見えなかったけど、すごくガヤガヤしているのが聞いてわかる。
さっそく威力はどんなものか見てみると絶句して、持っていた魔法大全を取り落とした。
「森が、氷河期ってる…」
なんか造語する位に、凄かった。
森一面を覆う巨大な氷。透き通っていて、森の様子が見て取れる。
鳥が、飛んだ姿のまま凍り、獣が、遠吠えしたまま凍り、木々が風と共に凍る。
次の瞬間、クラクラと立ち眩みを起こし、ステータスを表示する。
何となくだが分っている。もちろん定番魔力切れだ。
魔力:9
てことはあの魔法は魔力990で使える魔法だったらしい。
今は徐々に回復し、120までにもなったがこの症状が毎回つづくとなると効率が悪い。やっぱりレベルアップで上昇を目指すか?…いや、カンストしてるわけだし…
この威力で上級…でもって消費魔力、う~む。
《レレレレレレヴぇりゅアップしましゅた。》
お?レヴェリュが上がったみたいなのだが…レベルだよね、うん。アナウンスさん頑張ろうね?
何か怯えたようだったがシンは気にしないのである。(なぜレベルが上がったのか、も気にしていない)
もちろんレベルが上がったら高揚とした気分でステータスを見るのが王道。
ということでシンはその場でステータスオープンを唱えた。
「ステータスオープン。」
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《シン・ロヴェルグ》 Lv.2 はぐれ勇者
称号:勇者召喚されたもの、女神に魅入られた異世界人、一級フラグ建築士、森の破壊者
【体力】…160
【魔力】…1998
【攻撃力】…114(素手)
【防御力】…84(ただのふく)
【敏捷】…178
【幸運】…198
《祝福》
・女神に愛されしもの
・異世界の魔神に愛されしもの
・レベルアップ時大幅アップ(あと:4回)
《固有スキル》
・スキル強奪
・名付け強化
《スキル一覧》
・偽装
・嘘吐き
《魔法一覧》以後省略
・氷魔法:上級
_氷河の怒り
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むむむ・・・レベルアップ時大幅アップの祝福が一個減ってる。
確かにステータスの上がり方は異常だ。きっと関係あるに違いない。
「お?氷魔法追加…ん?俺、シン・ロヴェルグ?」
自分の記憶が確かならさっきのネズミ扉ドン男はこの家の住人が「ロヴェルグ」って言っていた。
出会いがしらに、嫌われ者のキラと、魔族のシアとも言っていた。
フラグ、フラグ・メントだ。
シンは秘かに悟った。
俺は嫌われ者と魔族の子供だと。
だが彼の脳内で疑問が浮上した。それは住人は何処、ということ。
もし、森に行っているのなら先ほどのストレス発散魔法でかちんこちんになっているに違いない。
いや、フラグは立てるものではない、折るものだ。
シンはカチコチの森をちら見し、ステータス画面に視線を戻す。
馬鹿馬鹿しい、俺はシン・キサラギ。帰還魔法を成功させるために素材を集めるんだ!
ええい!やけくそで家出旅だぁ!待ってろよ召喚した奴!ぶっ殺して帰るからな!
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ギア帝国王宮にて
「王よ!あの忌々しい女の息子と思われる者が納税しましたぞ!?」
「うるさい、マウス。どうしたのだ。あの屑に子供は居ない筈では?」
「いえ、居たのですよ!見慣れぬ服を着たみすぼらしい男、いえ、少年が銀貨三枚を‘安い’、と。」
「馬鹿な、家は焼き払え。魔族は居て貰っては困るのだよ。」
マウス、と呼ばれた男は先ほどロヴェルグ家にドアドンしていた男である。
ネズミみたいな奴だから安直ではあるが安直すぎる。王も王だ。
「王よ!勇者召喚に不具合発生!報告します!」
「なに?許可する、言え。」
「っは!この度の勇者召喚、13名を召喚、うち12名は召喚成功、王妃の説得により隷属の腕輪をはめさせました。が、このうち1名…召喚失敗かと思われましたが、成功していると女神の宝珠が光るのです。成功したが、場所がズレたのかと思われます。また、古による黒の勇者はうち6人です!」
兵士の一人は女神の宝珠と呼ばれる物を持ってくると、一人の顔を映し出した。
黒い髪に黒い眼、整った顔は見る者すべての息をのませた。
「こ、こいつです、お、王よ!コイツがロヴェルグ家に居た…!!」
マウスには思い当たりがあった。
先ほど会っていたからだ。
「お、王よ!緊急報告です!西の森が凍りつきました!超高等魔術、神級魔術が使用されました!王宮の精級魔術師の見立てでは黒の猛者が魔術‘氷神の絶望と怒り’が使用されたとのこと!」
別の従者がいそいそと王の間に入って来ると微かに震えた大声で氷河期真っ最中の森の報告をした。
王の顔は凍りつき、窓から見える森に目をやった。
森は見る影もなく、時はとまったように何もかも動かなかった。
「黒の猛者…召喚失敗……はぐれ勇者、聞いたことあるな。マウス、何だったか・・・」
「え、えぇ…かの古の伝記には・・・・確か、「真の勇者、黒き猛者。本当の力を持ちし者は人の手には負えぬ」」
「マウス、黒の勇者を手厚く扱え、そして…この城へ呼びよせよ!」
王は真の勇者の伝説を聞き、今召喚した勇者に飽きてしまった。
そして従者に勇者はみっちり強化し、対魔王軍の盾として育て上げるように言いつけた。
宝珠にうつる顔は消え、もう二度と投影しなかった。
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「宿宿やど~。」
宿をさがして歩いている不審者。
ではなく、黒の勇者「シン」。
彼は知らなかった。
同郷の、同学校の、同クラスの、親友達が王の奴隷になっている事を。
彼は気づいていなかった。
女神は言っていた。召喚されし勇者だと。自分が‘はぐれ’勇者な訳を。
彼は、今歩いていた。
地球に帰るという空ろな目的の裏にある自分の本当の目的を考えつつ。
彼は、今空を見上げていた。
自分の友達が隣にいたらどれだけ心強かったのか、と考えた。
彼は、今前を見た。
自分の目的をはっきりと見据えて。