閑話 セルロア
番外編、戦争のセルロア視点です。
サルス皇国が攻めてくる……
我が国で発掘している魔石が目当てなのは確実だ。
魔石がなければ我々人間は魔法が使える事ができない、だが亜人は魔法が使えるので我が国の魔法隊は殆どが亜人だ。
この国、ローデンファルムは魔石の生産量が世界の100%で他の国では1個も採れない。
その理由は定かではないが恐らくこの国の森にある聖なる木、ローデンファルムの加護だろう。
父上、セルロア7世が存命の頃は大人しくしていたサルスも父上が亡くなった隙に戴冠式のすぐ後に攻めてきた。
やはり先の大戦の勇者だった父上が脅威だったのだろう、俺では駄目なのか……
そもそも父上の亡くなった理由もハッキリしなかった。と、いうのも俺はある一件の後各国を父上の代りで廻っていて帰って来たときには既に間に合わなかった……
その場に居たものに聞いても心の病と言って片付けていた、確かに心の臓器は元から悪かったのだが……
戦争が始まり聖なる木の前で勝利を誓う、我が陣も戦々恐々としているが戦うしか選択肢がなかった……
その時だった……
「ここどこ~!?」
陣の真中に女の叫び声が聴こえた、俺は人垣を掻き分け女が現れた場所に行った。
「女、何処から入ってきた?」
その女は白い服に木靴という凡そこの場には似つかわしくない格好をしていた。容姿は端麗で幼そうだが白い髪に紅い瞳というこの国ではまるで見たことのない色だ……
「え?女?」
女は自分の服を見つめて溜め息をついた後首を傾げる、なんだか見ていて面白いな。
「あ、あの……ごめんなさい、僕……道に迷ったみたいで………」
「僕?お前は女ではないのか……?」
「あ、それは……」
何か喋るのに戸惑っている様だ、何と声を掛けようか迷っていると兵が叫んでいた。
「敵襲です!!」
遂に来たか……偵察部隊の連絡では後半日は掛かるらしかったが……
「不味いな……全軍!迎え撃て!!」
騎士逹や兵隊に指示を出すと俺は女を抱き抱えて飛馬で駆け上がった。
「陛下!御指示を!!!」
セレガスに声を掛けられ右手を掲げ大声で指示を出した。
「両側から攻めろ!セレガス軍は右から、オースティン軍は左から、挟み撃ちする!!」
その掛け声で軍が2つに割れ丘に進んでいく、俺は飛馬から状況を見守る。
女は馬から落ちないようにか掴まってきて背中ごしに見ていた。
その場所から丘の全貌が良く見え両側からセレガスとオースティンの軍が奇襲する。
最初は優勢の様だったが暫くすると押され出し兵士たちが倒れだした、サルス軍に弓兵や魔法使いがいるのか……
「くそっ、不味いな……」
嘆くように呟く、やはり無茶な戦だったか……丘の向こう側からは次々と兵が押し寄せてきた。
飛馬を高みまで持って行く、それほど敵陣は多いわけではない、隊を立て直せば何とか行けるだろうか……
「陛下、陛下!降ろして!!あの村に降ろしてっ!」
突然黙っていた女が騒ぎ出す、村だと?
「な!?なんだ!?村だと!?お前の村か?」
掴まっていた女に叩かれ村の方角を指し示す。
「違うけど!緊急なんだよ!!早くっ!!」
「わ、わかったから引っ張るな!!飛馬が暴れる!!」
フラフラになった飛馬が漸く着地する、と同時に女が暴漢逹に駆け寄った。恐ろしい程速い!その一人に掴みかかったが軽くあしらわれていた、こっちは重い鎧を着てるんだから追いつかない!ちょっと待てよな……
「はあはあ……お前足早いな……此方は鎧着てるんだから少しは遠慮して走れよな…」
やっとたどり着くと揉めているようだ、こいつらは戦争専門の盗賊らしいな……
「なんだ、新手のナイト気取りか?痛い目みたいのか?」
「お前ら戦争専門の盗賊だな?戦地に行って近隣の町や村から金品を強奪し人をさらい奴隷に売り捌く……そこの娘も奴隷にするつもりだったんだろう?」
「え!?本当に?」
「ちっ……誰だ?お前……」
「余か?セルロア・ヴィッセル・ローデンファルム、この国、ローデンファルムの王をしている。」
「「「はあっ!?」」」
3人が同時に驚いている、顔を巻いていた布を取り顔を見せる。
油断した空きに囲まれていた女の子を女がこっちに引き寄せて保護したようだ。
「大丈夫!?」
「あ、ありがとう…ございます……」
「ちょっ!あっ!そのガキを帰せよっ!!」
「ならんな……戦の最中にそのような狼藉、全て終わった後に処罰を決め色々追求してやるからそれまで待ってろ……」
俺達を追って来ていた騎士達が出てきて盗賊たちを連れていった。
「はあ……全く、無茶をするな、お前は……」
「ごめんなさい……陛下。」
「俺の事はセルロアでいい、そう言えばまだ名前を聞いてなかったな。お前の名前は?」
「え?あ~、ユウ……ユウ・ヤシロです……」
ユウ……何故だろう、全く容姿も似ていないのにシリアルを思い出す……
もうシリアルはいないのに……
「ユウか……わかった、ここに暫く居てくれ、俺は戦争を停めなければならない」
俺は頷いて飛馬まで戻り飛び上がった、まだセレガス軍が圧していてオースティン軍も応戦しているがサルス本隊は微動だにしていない……
向こうの竜騎士や飛馬の数が多い……明らかにこっちの数が少なく不利だが……
俺はランスを構え敵の竜に突っ込んだ、作戦がない訳じゃなく撹乱させる為に竜の周りを飛び羽根や尻尾にランスを突き刺す!
何匹か墜ちていったがまだ何十匹も此方を嘲笑うかの様に空上を漂っている、まだ増援も来る……
味方の飛馬も怯んでいて乗っている兵士逹も疲れている、一旦退いた方がいいのか……?
その時地上から真白な光の塊が空に上がってくる、目を凝らして見ると光の中にユウの姿が見えた……
「ユウ……?」
光はローデンファルムとサルスの間に入った、暫く留まっていたが軈て大きな光を放つ。
周りの敵味方関係なく包み込む光は優しく、まるで身体を癒されるようだった……
だがサルス皇国軍は次々と墜ちていった、見ると地上の軍勢も立っているのは我がローデンファルムだけだ。どういうことだ……?
光続けていたユウは世界の総てを包む込むように放ち続けた後、光は止み ユウは地上にゆっくりと落ちていく。
先回りしてユウを受け止めようと地上に急降下する、途中でサルス軍を見ると大半が気絶している、片や我が軍はほぼ全員が体力が回復していた。ユウが助けてくれたのか?
少女の元に降り立ちユウを二人で受け止めた、肌も真っ白なユウの身体暖かかった。まだ息はあるようだ……
それから暫くしてサルス軍は撤退していった、ユウの働きで我が国は敗戦を免れたのかも知れない……
ユウは目を覚まさなかった、ずっと眠っている……
参戦した騎士逹からユウが聖女と言われ出した、確かに聖女かも知れない……
村にいた少女、ミリアは盗賊逹に親や村人を殺害され行くところがなかったので城で、ユウの侍女として働く事になった。
ベッドに寝ているユウの頭を撫でながらいつ目を覚ますのか待ち遠しかった……
シリアルがユウを我が元に連れてきてくれたのかと考えていた……