会議室
庭園でゴーレムが暴れた次の日、お城で対策会議があった。
広い会議室で100人は入れそうで廻りは高級そうな壷や銅像、絵画等が置いてある、成金趣味というものか……
その内容は何故ゴーレムが入り込んだのか?誰かが手引きしたのか?王宮騎士達が遅すぎる?昼食はまだか?等の質問が上がった。
セルロアに当事者として無理矢理連れてこられた優太は端から見ても凄くご機嫌ななめだった………
まあ動くなと言われて動き回った優太もどうかと思うがセルロアは昨日の罰と共に優太を会議とかに出させて皆に聖女を印象付けさせる思惑があった。
セルロア個人的には他に理由がもうひとつあるみたいだが……
それはさておき……
「ユウ……昨日魔力を使い果たして疲れてるのは解るがいい加減機嫌を直さんか?可愛い顔が台無しだぞ?」
セルロアが優太にそう言うと周りの宰相や大臣は何と申し入れようか判らない顔をする。
ここだけ聞くとノロケてる様に聞こえる、まあセルロアはノロケたいのかも知れないが。
だが優太はホントに機嫌が悪かった。
「あ!?だってさ、全然僕悪くないのに何でここで晒し者みたいになってるわけ!?退屈だし眠いし!それに可愛くないから!!」
といって頬を膨らませなから怒っている姿が可愛いといったらまた優太は怒るだろうが……
「ゴホン……まあとにかくだ、昨日のゴーレムについて何か解ったことは?」
セルロアがそう聞くと右の3番目に座っていた女性が立つ、細身のまだ20代位の女で目付きが鋭そうで隙がなさそうな感じだった。
「オースティンか、申せ。」
オースティンと呼ばれた女は騎士団ではないが魔法隊を指揮する参謀で頭脳明晰だった、オースティン・ルブレ・ディミアル。王宮騎士団長のセレガスと戦争の際に兵を二分する程の実力があった。
「はい……昨日のゴーレムの出所を調べましたが魔法陣が描かれた痕跡かありました。恐らく……内部の者が手引きしたものと思われます。」
「内部の?魔法使いか?ならばお前らが専門ではないのか?」
「オースティン、そなたらの配下が陛下を狙ったという事になるが?」
セルロアに続き宰相のトマスもオースティンに追い討ちをかける。
「いえ、それがその魔法陣は闇の使い手が描いた物に相違ないかと……」
「「「闇の使い手!?」」」
優太以外の者達が驚きの声を上げる、闇の使い手とは禁断の闇魔法を用いてその目的は殺人の為だけに使用する連中だからだ。
「我々魔法隊は入隊前に必ずどの魔法が使えるか魔石で調べます、ロンド大臣立ち会いの元ですから不正などはございません。」
この国で発掘される魔石は色々使い途があるがその1つに握ればその時の発光により魔力の有無、大小、色によってどの属性の魔法が使えるか判る様になっている。闇魔法は黒色に魔石が光る。その時点で魔法隊には入れないと言うことらしい……
話を振られ今度は中肉中背の50代の男が口を挟む、髪は薄く口髭を生やしている。
「さよう、その中には闇魔法を使える者は一人もおりません。」
ドヤ顔で答えるロンド、その言葉に他の連中も頷いた。人徳か、金の力か。ロンドは有無を言わせぬ迫力があった。
「それは今調べさせておりますがセレガス殿率いる王宮騎士団が陛下や聖女様の危機の事態に遅れてくる事の追求もしなければならないと存じますが?」
オースティンに言われてセレガスが立ち上がる、こういう場ではあまり話さないが今は特に話しにくかった。
「あ~、それは…その……」
「どうした?セレガス、別に事実を申せと言っておるだろう?」
セルロアの問い掛けに言いにくそうにしているセレガスは漸く口を開く。
「それが…妨害にあいまして……魔法の壁が待機室の前にあって出られませんでした、申し訳ありません!」
「本当なのですか?セレガス殿最早言い訳等ではないでしょうね?」
「なっ!?言い訳だと!オースティン!成り上がりのくせに生意気な口を聞くな!!鬱陶しい!!」
「セレガス殿こそ!!私が女だからと言って嘗められているのではないですか!?」
何故かセレガスとオースティンの言い争いになってしまった、オースティンは優太が関わった戦争の前の戦争で功績を上げ侯爵になったばかりだった。
自分と並んだことが気に食わないセレガスと男女差別を露見に出してくるセレガスが嫌いなオースティン、水と油の二人は基からウマが合わないのは仕方ないのだろうか?
「やめんか!二人とも!陛下と聖女様の御前であるぞ!!」
「うっ……」
「も、申し訳ございません……」
トマスにたしなめられ漸く争いを止める二人、回りは静まり返っていた。
「あの……」
「どうなされました、聖女様?」
沈黙を優太が破る、さっきまで寝てたが二人のやり取りで起きてしまった、しかし機嫌は良くなったらしかった。
「あのゴーレムはぼ……私を狙ってきたみたいで…どうして狙われたかわからないけど……」
ザワザワと会議室がどよめく、ずっと黙っていたセルロアも口を挟む。
「ユウ……おそらくお前を狙った魔法使いはサルス皇国の手の者だろう、お前を拐って自分達の味方に入れようとしている。」
「僕を?でも味方になるつもりはないけど?」
「それは俺……余が困るがどんな手を使ってでもそうするてあろうな。」
優太は自分でも気がついてないが僕に戻っていたため、ついセルロアも俺になり吊られそうだった。
「どんな手を?」
「う~ん……調教とか…催眠とか?」
「えええ!?僕そんなの嫌だよ!?」
「当たり前だ、誰がそんなことさせるか?俺だってまだなのに……」
「え?」
「あ?」
「 「 「 「…………」」」」
二人のやりとりに会議室にいた全員が能面の様な顔になっていた、セルロアは咳払いをして話を元に戻す。
「………兎に角!また同じように襲ってくる事だろう、それについて対策を打たねばならん、意見はあるか?」
「……聖女様は攻撃魔法をお使いにはなれないのでしょうか?」
オースティンが優太に質問する、この世界では回復系でも攻撃呪文を使える者は希ではあるが存在している。ただしそれは大昔の伝説とされている勇者だったが………
「ううん、僕は攻撃魔法は使えないよ。回復魔法と補助魔法だけかな?」
「成る程……では魔法隊の精鋭の中から護衛を何人か起てましょう、賊がくれば追い払う事が出来ます。」
「ちょっと待て!オースティン、騎士団を差し置いて抜け駆けは許さんぞ!!
ユウ様に俺は忠誠を誓った、護衛は俺がやる!!」
「セレガス殿が?聖女様は女性ですよ?殿方の貴方がずっと就く訳にはいかないでしょう?」
「セレガス、それは余も許さんぞ。」
「う……では腕の立つ女性騎士を着けます、魔法隊からも出せばよかろう、これでいいか?オースティン……」
「わかりました、ではその様に致します。」
自分の事なのに勝手に決められている優太は完全に蚊帳の外といった感じだった…
「そんなに大事なら足枷でも付けて東の塔にでも幽閉しておけば如何です?」
やっと纏まりそうな話をまた穿り返したのは大臣、ロンドだった
「……なんだと?今なんと言った……ロンド……」
眉間に皺が寄りロンドを睨みつけるセルロア、だがロンドは顔色ひとつ変えず話を続けた。
「東の塔に幽閉、と申し上げました。過去にもそういうことがあったと伺っておりますが?」
ガタッと椅子を蹴り上げる音がしてセルロアと何人かが立ち上がる。場の雰囲気に優太は訳が分からずオロオロするだけだった。
「その意味……わかって言っておるのだろうな…?」
「勿論ですとも、聖女様なら尚更では?」
「口を謹め!大臣!!それは禁忌であろう!!!」
宰相のトマスも声を粗げる、周りも無数の糸を張ったような緊張感が走った……
「………失礼致しました、陛下、聖女様。」
深々と頭を下げるロンド、平然として椅子に座る……
沈黙がまた続いた……
結局優太には騎士団と魔法隊から二人ずつ護衛が着くことになり、さらに警備を強化することになった。
大臣、ロンドは一ヶ月の謹慎を申し渡された。本来なら辞職等も有り得たが人脈を持つロンドを外してしまうと内乱が起こりかねない、それを判断した上での事だった。
果たして敵は内側か外側か……
サルス皇国も何かしらの動きが起きそうであった……