次元の間
見渡す限りの真っ白な空間、じっと見ても何もない。
風も吹いてなく音も聞こえない、そんな所に学校の制服の詰襟でボサボサ頭で何かするわけでもなく立っている少年が1人。
彼の名は矢代優太、ごくごく普通の何の取り柄もない中学2年生、唯一女の子のような綺麗な顔立ちをしているが本人にはコンプレックスになっている。
何故ここに立っているかは本人にも解っておらず、もう何時間経ったのかも判らない。
真っ暗な中でいるのも怖くて嫌だったが真っ白なのもどことなく嫌だった。
いい加減飽きてきた優太は座り込みまた辺りを見回す、ここにいるとお腹も空かないし眠くもならなかった。
ただ退屈にはなっていた。
「ふああ……」
眠たくはないが欠伸をすると向こうの方から誰かが近づいてくる。
驚きそっちの方に目をやると果たして小さな人がやって来た。
凡そ1メートルくらいの男か女か判らない中性的な顔立ち。肩までかかっていて白髪、だけどツヤツヤしている。
白い絹のような衣を纏っていて全身が真っ白な上に周りが白いので目がおかしくなってきてまるで首だけが浮いているようにも見える。
「やしろゆうただな?」
「うわっ!?生首が喋った!!」
「だ、誰が生首ぢゃ?失礼な奴だな……」
子供なのか高くてまだ若そうな声、ようやく目が慣れてきて身体も見えるようになった。
「えーと、ごめんなさい。じゃあ……君は……?」
「うち?うちはノジル、お前と融合するのじゃ。」
融合……?
よく判らないことを言われて首を傾げる優太、なおも質問を続ける。
「じゃ、ノジルくん。ここは何処か判る?」
「違う!!」
「は!?どういうこと?」
「くんじゃない!うちは女だ、間違えるな!」
「お、女……?」
「ああ、じゃからノジルさんと呼べ。」
女なのにその言葉使いはどうかと思ったが優太が子供の頃姉達の影響で女言葉を使っていて同級生に馬鹿にされたことがあった。
なので深くは突っ込まないようにした。
「じゃあ、ノジルさん?此処って何処なの?」
「ここは次元の間と呼ばれる場所だ、何も生まれない世界。でも全ては此処から始まる………」
「何故僕はここに…?」
「お前はここに来る前の記憶があるか?何処まで覚えている?」
「記憶?う~ん……
優太は腕を組み考えて見るが頭の中が靄がかかっている感じで何故か思い出せない。
「何でだろ……何も出てこない、名前・・矢代優太って名前だけ……」
「そうじゃな、多分そうだろう、まあ今となっては必要もないだろ?生まれ変わるんだからな。」
「生まれ変わる?僕は死んだって事?」
ちょっと間を置いてノジルは優太にとって衝撃の一言を発した。
「やしろゆうたは自ら命を絶った。」
驚きノジルを見る優太、平然とこっちを見て笑むノジル。
「自殺……ってこと?」
「まあそうとも言うな、とにかくお前はその罪を償わなきゃならんわけよ?ここまではわかるか?」
まるで子供を諭すように話すノジル、見た目が逆な分納得いかない優太だったがとりあえず頷いた。
「よしよし、それでお前はこれから3つの世界に行ってもらう。1つづつそれぞれに目標があってな、それをクリアしなきゃ次の世界には行けない。目標はバラバラで目標を探すのもお前の役目だ。」
「なに?その無茶苦茶な設定……?」
「無茶苦茶でもお前に与えられた設定……じゃない、使命、そう!使命なのじゃ!!」
呆れてものも言えない優太だったがやるしかここから出られる手立てがなさそうだった。
「ではここから第1の世界に行こうか。」
ノジルが言うか言わないかのうちに扉が目の前にあった。
ためらっているとノジルが後ろに来て背中をぐいぐいと押してきたので嫌々ドアノブを回す。
こうして矢代優太が矢代優太を取り戻す旅が始まった…