自己採点
あれから一週間経ったが、あたしは相変わらず、どこにでもいるありきたりな高校受験を控えた受験生だった。
学校へ行き、家に帰り、勉強しながらラジオを聴いて……ともすれば、あれは夢だったのでは? そう思えてしまうほど、あたしはあの時の出来事について思い返すことも、考えることもなかった。
弟がテレビを見ている。
あたしはその横を通り過ぎ、冷蔵庫を開けて、コップに牛乳を注ぐ。
弟はテレビを見て、呟いた。
「これ、ねえちゃんが持ってるのと同じじゃない?」
あたしはその言葉に誘われるようにテレビを見た。
あの男だ。あたしの、あのレインコートを着ている。
「活動休止だって。結構良い感じに歌うのに、勿体ないなあ」
聞いてもいないのに教えてくれるのは、芸能人に興味のないあたしが、男を見ていることが珍しいからだろう。
「ねえちゃん、こいつのファン? 俺のクラスの女子、CD持ってるって言ってた。借りてきてやろうか?」
「いらない」
あたしはコップを持って自室に入ると、机に参考書を広げる。少し視線を宙に浮かせた後、あたしは勉強に取り掛かった。
あたしも、男も、非日常的日常は終わったのだ。
了