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JACK OF STONE  作者: 予想外の蹴り
第一部 出江怒不露宇猛他亜祭苦流鞍撫(デッドブロウモーターサイクルクラブ)
2/2

第一話 太陽と風

1985年 8月2日 日本H県の能登市亜魅町。


亜魅町は人口は約千五百人ほどの人が住む町。


その亜魅町にある一軒家に住む吉川壮司。

彼はバイクブームの波に乗って買ったバイクを倉庫で眺めていた。


近くにあった布巾でバイクにいつの間にか付着していた泥を拭っていると、音を鳴らしながらシャッターが開いた。


壮司が差し込む光の方向を見ると眼鏡を掛けた短髪の人物が半開きのシャッターから中の様子を伺うように顔を覗かせていた。


「宮本か、何か用か?」


その人物の正体は壮司と同じ高校の同級生で友人の宮本輝彦みやもとてるひこだった。


「いや…大した事じゃあねぇんだが」


宮本は半開きになったシャッターを全開にし、何故か恐る恐るとした足取りで中まで入ってきた。


屈みながらバイクを拭っていた壮司は、バイクを拭うのを止めて宮本の顔を見上げた。


宮本の眼は泳いでおり、壮司と中々目を合わそうとしなかった。


しばし宮本が壮司の周りをウロウロしていると、意を決したかのように壮司に話し掛けた。


「なぁ、吉川…暴走族っつーの居るよな」


「あぁ、作業着みたいなの着て変な髪型にして大人数でバイク乗り回して人様に迷惑掛けるアホ集団の事?」


壮司は嫌悪の表情を浮かべながら、嫌そうな声で口調でそう毒づいた。


そう言うと宮本の後ろから、複数人の特効服を着た集団が壮司の居るガレージの中に押しかけて来た。


壮司は驚いて入ってきたその特効服を着た集団の一人一人を怪訝な表情で見る。


どいつもこいつも特効服に漢字が入った刺繍をつけてあり、奇抜な髪型をしていたり、サラシを巻いている物も居た。


この集団を見て壮司は思わず溜め息が出そうになるが、グッと堪えて目を細めて宮本の方を見る。


「そうか、分かったぞ宮本…お前、余計なトラブル持ち込んだな?」


壮司はその集団に聞こえないようにポツリと宮本に対してそう呟くと、宮本は否定せずにコクリと軽く頷いた。


「アンタが吉川壮司か?」


その暴走族の中の一人が壮司に声をかけられ、壮司は嫌そうな顔をしながら、少し間を置いて面倒くさそうに「そうだが?」と答えた。


「アンタが俺達のグループの総長なんだよな?」


「グループ?総長?」よく分からない言葉が飛び出してきて思わず壮司は頭に?マークが浮かぶ。


「話しの意図が分からない、何だ総長って。僕が君達の親分だって言いたいのか?」


「あぁ、そうだ。違うハズがねぇよな?アンタが俺達デッドブロウズを作ったんだからな」


デッドブロウズ?またもや意味分からない単語が飛んできたが、壮司はすぐに彼等のグループ名だと理解した。


しかしデッドブロウズなんてグループ作った覚えがない。


「……人違いじゃないのか?」


「そんな訳ねぇッ!アンタが二年前に作ったハズなんだ!」


二年前、と言われて壮司は心当たりがある物があった。


そう言えば二年前に宮本と一緒にツーリングクラブを作った事があった、二年生になると下級生がツーリングクラブの存在を知ってどんどん入ってきた、勿論暴走行為とかはしていない、ただ純粋にバイクを楽しむだけのクラブであった。


三年になると宮本が受ける大学に向けての受験勉強もあって、一時ツーリングクラブは壮司だけでやっていたが、その内自然に壮司もツーリングクラブに顔を出さなくなって、その内自然消滅したか二年生の後輩が続けてくれているだろうと思っていた。


壮司は「まさか」と思った。


壮司が脱退した後に後輩達が壮司の作ったツーリングクラブを暴走族グループに変えたのではと推測した。


「俺達はずっと総長無しでやってきたんだ!ライバルグループ達が次々と力持ってきて大変なんだッ!お願いだ総長!戻って来てくれ!」


嫌な汗を流しているところ、暴走族のメンバーの一人が壮司に叫ぶように言ってさらに嫌な汗が出てきた。


「総長が居ないから総長代理を立てても上手くチームを纏めれないんだ…!」


だったら解散してしまえ、と心の中で壮司は呟いた。


「だけど吉川総長の手腕は凄かったと聞いてる!チームを纏めれるのはアンタしかいないんだ!」


言う程の事はしていないハズなのに、何故か自分が凄いリーダーだと彼等の中では話題になっているらしい。


しばらくすると複数のバイクが壮司の家に向ってくる音が聞こえてくる。


まだ仲間が居るのか、と壮司は絶望しかけた。

しかし彼等はザワザワと同様し始める。


「レディース暴走族グループ、サウザントデビルズだ!」


誰かの一人がそう叫んだ。


壮司は恐る恐るガレージの外を覗くと、女ばかりがバイクに乗った。

同じく漢字が入った特効服に身を包んでいた。


「ここは俺達のシマだぞ!出て行けッ!」


男達の一人が叫ぶ。


ここでこのレディースのリーダーと思われる茶髪の髪が長い女が「女だからって舐めてんじゃねぇぞ」的な事を言って言い争いになると思いきや、そのリーダーと思われる女は口をモゴモゴして困惑の表情を浮かべるだけだった。


「道に迷っただけなんだよ!察しろ馬鹿!」


レディースの肌に直で特効服を着てサラシを胸に巻いた黒髪短髪の女が叫ぶ。

言い終わると同時に両隣に居たレディースのメンバーにゲンコツをかまされた。


「何だとお前ら!?やろうってのか!?」


結局レディースのメンバーの一人が男達に向って叫び、男達もレディース達も言い争いに発展し始めた。


まさか男と女で殴り合いの喧嘩になるような事はないと思う、が壮司的には男同士だろうが女同士だろうが喧嘩になるのは勘弁して欲しかった、特に男女で殴りあいの喧嘩なんてそんな物見たくもなかった。


このままエスカレートすればそうなるかもしれない。

そんな事させまいと、壮司はガレージの棚の中から地図を持ってきて、リーダーの女に見せた。


「で?あんたらどこから来た?」


「あ、えっと…隣町の樽金たるがね町から…」


「じゃあ南の方向だ、今はここだから…ここを曲がってその次を曲がって後は真っ直ぐ進むだけだ」


「あ、あぁ…分かった」


「地図もやるよ」


「い、いいのか?」


「いいよ、別に」


「あ、ありがとう」


茶髪の女はペコリと会釈すると、バイクのアクセルを回して「行くぞ!」と叫んで壮司が教えたとおりにバイクを走らせると、レディース達はそれに続いてバイクを走らせた。


「彼女の名は?」


「芹沢朱音って言うらしい、ヤツらのリーダーを務めている…どうして?」


「別に」と言い残すと、壮司はそのままガレージの中へと帰ろうとしたが、暴走族の一人が肩を掴んで壮司を引き止める。


「オイオイオイ!待てよ待てよ!返事聞かせてもらってねーぞ!」


流れで帰れると思ったらしい壮司は、チッと軽く舌打ちする。


「考えさせてもらう、突然の事なのでよく冷静に考えさせてもらいたい」


壮司は暴走族達にそう言いあしらって、暴走族はそれを承認して、馬鹿うるさいバイクのエンジン音を鳴らしながら家の前から暴走族達を家の前から遠ざけた。


バイクの音が全て鳴り止むと、その場には宮本と壮司だけが残った。


「宮本。まさかお前入ったのか?」


おもむろに壮司が宮本に尋ねると、ピクリと体を跳ねる。


「あ、あぁ…」と小さい声でそう言うと、壮司は大きな溜め息を漏らした。


「宮本、おそらくキミは僕の予想だとヤツらの…年下の中学生共の気圧に押されて入ったと思う、自分の意思で入った訳じゃないな?」


黙って宮本はコクリと頷く。


「それで?キミは下っ端になったという訳か」


「下っ端じゃないんだけどな…」


「?」


「副総長なんだよ…」


宮本がそう言うと、壮司は目を丸くして口をポッカリと開いた。


「ハッ!素晴らしい!大した目を持つグループだッ!こんなどこからどうみても大人しそうで気弱な人間が、バイクを乗り回して人々を不眠症にするグループの総長と副総長に見えるんだからなッ!」


怒りが頂点に達した壮司は思わず大きな声で愚痴った。


「それにキミは」


「し、仕方ないだろ…恐かったもん…」


「何が『もん』だ!今すぐ断るべきだ!」


「それが出来ないから暴走族に入ってしまったんだよ!」




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