三軒目
下町情緒あふれるツンデレ店主の雑貨店
連休を利用しての城めぐり、ネットで知り合った同志(城マニア)と
『ぼくのかんがえたさいきょうのしろぜめ』をシミュレーションしていたら、お互いにヒートアップ、押し問答になってしまった。
最初は本当にとるに足らないような嫌味だったと思う。
落ちる、落ちない、という水掛け論から先は実感が無い。
気が付いたらミドランドにいました。ワタシこの世界の人間じゃないんです。アハハ。
ああ、天守閣なら落としてやりましたよ。僕が墜ちたのは予定外だけれども。
正直な話、僕はこの世界で舞い上がっていた、異世界に漂着した興奮もあったかもしれないが、金と格差の灰色世界から現役中学生が、夢にまで見た剣と魔法の異世界に来たのだ、誰だってはしゃぐ、僕だってはしゃぐ。
まぁ、歴史的建築物にときめいて、キャッキャウフフできるヤツがマイノリティーであることは認めます。
見知らぬ土地にポツンと現れた僕は、異世界と知るやとにかくガムシャラに行動を開始。まず僕がとりかかったのは言葉の問題だ。人間、コミュニケーションがとれれば何とかなるものです。
数日は、一般的な単語の収集と学習に明け暮れた。
市場へ出向き、店主と客のやり取りを逐一観察する。
前の客の後ろに張り付きながらじっと聴き耳をたてる。
「いらっしゃいませ」 (エクスプーダ)
「100Rになります」 (ユネホンロット、クェス)
「ありがとうございます」 (ヤ、メム)
ちなみに無愛想でツンデレな店員の店を選ぶのがポイントだ、パターン化したやり取りと、客によって変わる対応にはワビサビすら感じるね。お得意様や上客の場合、ツン成分とデレ成分から会話パターンが変化する。派生する表現に注目して語彙を増やしておこう。
この店での収穫は、貨幣単位 R とおおよその物価、挨拶や簡単な受け答えと思しき会話をゲットできた。なかでも、一番の収穫は数の表現法を学習出来た事だ。
それからの僕はとにかく暇そうな人間を見ては 、
絵を描いたりジェスチャーして連想ゲームをしまくってた。
最初は食べる。欲しい。すき。から始まる簡単な返事、
インド人を右に蛮族クラスまではマスター出来た。
当面の資金は身につけていた持ち物を売り払って手に入れることができた。拙い言葉ながら、自分の品のすばらしさを推しに推した
商品には相手の商人も半信半疑だったが、ゴアテックスの服とペンライトは特に高く売れた。これでしばらくの食費には困らない。
「ねぇアンタ、今日もまた冷やかし?」
辺りを見回した後、自分を指差ししてジェスチャー。
とうとう店主に咎められてしまった、かれこれ一週間近く
通いつめていれば、理由をつけて追い出しにかかるのは当然だ。
「ワタシ、は言葉、ヘタ」
すかさず、リュックからスケッチブックを取り出す。
「あなた、言う、分からない。あなた、話し書く、ここ欲しい。
ワタシ、調べる。ワカル思う。」
うわ露骨にめんどくさい顔された。
こちらのザリ•ラスクさんは違いの分かるツンデレ店長だ。
大学生くらいかな、若いながら一人で経営している。
彼女はとにかく客を観察し、上客にはデレ、冷やかしには
毅然とツンで臨む素晴らしい人だ。
ザリさんは面倒くさそうにつぶやきながらも、ノートに
要求を書き出してくれている。
本来なら、水をかけられて追い出しをくらってもいた仕方ない
だろうけど、どうあれ、僕はザリさんの優しさに甘えている。
次にくる時には、きちんと謝罪しておかないと•••?ん。
スケッチブックが飛んで来た。顔面キャッチは美学。
「また、来ます」
「二度とくるな、@X&☆○」
ここまでがテンプレなのだから本当に面白い人だ、
次来た時は、菓子でも持ってこよう。