一軒目
一軒目 気骨溢れる騎士団詰所
霊峰カッツラウト山をたたえ、朝霧の中にゆったりと座す古城、
マスケアス城。
霧の白鳥城を冠するこの名城は風光明媚である事もさながら、
幾多の戦役を経てなお残る難攻不落の城としても名をはせている。
その来歴は、ハインガルド辺境領公爵の居城として建築され、
ブルヌ戦役、獅子系譜戦争、アム魔術紛争を経て、戦のあるごとに
増改を繰り返した巨大な怪物──。
その外壁はまるで二つの羽のように城下町を抱えこみ、五つの塔と、三つの城郭を構える姿はまさに湖で羽をつろう水鳥を思わせる。
豊かな自然にこの外観の美しさと、ハインガルド騎士団一万三千が駐留するこの城は、ミドランド王国の玄関口でありこの国の顔といって差し支え無い。
こうした繊細さと無骨さを内包する…
と一人の小年が手記を綴る手を止める。
「ふふふ、たまりませんねぇ。やはり城はイイ、美辞麗句が止まりません。 女性に例えるなら、白亜族騎士のおねぇさまが足を崩して、 今にも抱きしめんと手を広げるようです。清楚でありながら、粗野で奔放なアンビバレント、いやぁ、まいりました。」
「寝てろっ」
「べるゔぁっ」
警邏の一人に重いフックを貰った。カクカク悶絶しながらも手記を握り締め連行される姿に、道ゆく人は目を背ける。
僕は、これからまさに騎士団詰所に放り込まれる所だ、
中では白亜族の女性が机に向かって書類を眺めていた。
そのたたずまいを形容するなら、まるで白亜の女神…。
「姉御、城下をうろついてた容疑者だ。」
「カーク!!、団長と呼びなさい。」
残念アネゴ属性でいらっしゃいましたか、
白亜族=清廉、おしとやかなイメージが音をたててお亡くなりになりました、実に残念です。
詰所の執務室である。
簡素な作りながらも、オーク材の香が漂う造りは、
この部屋の主の知性を醸し出している。
装飾や絵画といった調度品にこだわりのないあたりは、ハインガルド騎士の気骨の現れといえるだろう。書架に甲冑、武具一式に花一輪。
秋告草の花が風に揺れていた…カキカキ
「こいつ、まだ巫山戯やがって。」
「ぁるらうねっ」
カークと呼ばれた男に腕を極められ無理矢理地面に抑えこまれた、
イテーヨ、イテーヨ、残念な顔がさらにヒデブ顏になるじゃぁないか
でもオーク材のいい匂いにトリップする僕。
いい床してますなぁ、げへへ。
「さて、ここ数日、城下をかぎまわる男を捕縛せよとのことだが、」
「スパイである、御前。」
「ヤンネンライトも止めなさい。ていうか、
団員内で流行ってんのソレ?、ま、いいわ。」
僕の左手(極められて動けない)から颯爽と我が栄光の奇跡、
『異世界学習帳』を奪い取られる。
「ふ〜ん、良く調べてあるわね。
大半は私が見たこともない言語で書かれているけど、
デボネア文法のページに、この章はミドランドの日常会話?。
それと…。」
真上から睨めつけられる。
あまりにも鋭い白亜の眼光。
「はひ?!」
思わず、返事してしまった。
「いずれにせよあなたは、スパイか密入国の異邦人。
我が銀鶏騎士団 の尋問をうける必用があります。
日枝 源
趣味は城めぐりと脳内拠点攻略、
中世封建社会とファンタジーをこよなく愛する中学生。
いまは、異世界で捕囚の憂き目に遭ってます。