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異行  作者: yoho
その1
8/47

008

 九里古里くりこり千切ちぎり

 星山ヶ城専門学校に通う、女生徒の一人である。

 眼鏡をかけた、黒髪女学生。内巻きの髪は、肩口で切り揃えられている。

 学科こそ俺とは異なるが、顔も名前も知っている。何故知っているかと問われれば、理由は簡単なことだ。入学当初、校内のベンチで、仲良くなり始めの中村と話していた時。九里古里千切が目の前を通った。中村は言った。


「今の子、可愛くねえ?」


 俺はその後ろ姿を目で追った。さらっとした長い黒髪が揺れるのを見た。


「ごめん、足しか見てなかった」


 簡単な理由である。

 カラータイツを履いていたのが印象に残っただけなのである。











「枕のいる『勧誘班』は少ないわよ。全国合わせればそりゃたくさんいるけど、こっちの方、少なくとも私たちの拠点では枕を含め5人しかいないわ」

「へえ……ふもっ……ほう…。そうなのか」


 秘密漏洩をする初古の言葉に、チョコレートパフェを食べながら俺は相槌を打った。

 覇嶺さんの写真を収めたあの日から一週間弱。五日間の学務を負え、無事に土曜日を迎えた俺は、わりと近所のファミレスに、『繁栄派』の『戦闘班』である余口初古と共にいた。

 あれから鴉の襲撃はなかったが、初古の勧誘には遭っていた。ちなみに今日は4回目の勧誘を受けて、そのまま話があると言われたので、ファミレスでおやつでも食べようと促した。


「とは言っても、異能力者もそう頻発するわけじゃないし、5人でも多いくらいなんだけどね」

「それで、『粛正派』と取り合いになってるのか」

「まあそんなとこね。でも聞いてよ外喰。『戦闘班』はね、そんなもんじゃないの。もうねごまんといるのよ?」

「5万もいんの?」

「5万はいないわよ」


 5万はいないらしい。

 初古は話し始めに、大変よ外喰、聞きなさい。と言っていたのだが、その大変な事実はいまだ語られていない。

 俺が何気なく『繁栄派』のことを聞いたら、それについて語りだしたので、大変な事実はいまだ語られていない。


「とにかく、私はその『戦闘班』で最強なの。一番強いのよ。誰も私に頭が上がらないわよ。もちろん、『勧誘班』の枕よりも強いし」


 じゃあ俺は鴉よりも強いんだろうか。


「いやいや違うわよ。そうじゃないの。私が言いに来たのはそんなことじゃないのよ」

「違うんだ」

「違うのよ。確かに私は『繁栄派』最強だけれど、そんな当たり前の事実を述べに来たわけではないのよ」

「ないんだ」


 相槌がてきとうになってしまっているが、べつに初古の話に飽きたわけではない。

 そういえば前から気になっていることがある。二人きりで落ち着いてゆっくり話せるよい機会なので、聞いてしまおう。


「なあ初古。気になってたんだけどさ、お前の着てるそのワイシャツ、だいぶサイズが大きいみたいだよな。ぶかぶかじゃねえか」

「あ、ああ…これ?これはまあ、枕にもらったのよ。お古をね。無理言って譲ってもらったの」

「それでそんなにぶかぶかなのか」

「そうね。そういうことになるわね」

「それで時折乳首が顔を覗かせてるのか」

「覗かせてないわよ!」

「間違えた。ブラ紐が見えてるんだった」

「ブラしてないけど」

「じゃあやっぱり乳首が見えてるんじゃねえか!」

「みっ、見えてないわよ!というか何で怒ってんのよ!」

「いいからお前の用事を言えよ。待ちくたびれたぜこっちはよ」

「………………」


 おい、よせ。あまり熱い眼差しで俺を見るなよ。俺はお前の気持ちには応えられないよ。


「……まあ、うん。むかついたけど、よしとするわ。ストロベリーパフェのお礼と言うことにしてあげましょう」

「ありがたきお言葉」

「普通に話しなさい」

「はい」


 初古の顔つきが神妙になった。

 テーブルに腕をつき、身を乗り出す形になったので、本当に乳首が見えそうになったことは、言うまでもある。


「外喰要。本来ならね、初接触時の枕に面倒くさがられた時点で、開花したての異能力者は死んでいるものなのよ」


 今更な話題だ。俺の異能が強固だったために、鴉を追い返すことができたというのは、散々聞かされた。初古自身からも、言われたことがある。

 記憶力が悪いのだろうか。


「加えて私ね。私はもちろん最強だけど、自分で言うのも何だけど、はっきり言ってたぶん甘いわ」

「どれ、味もみておこう」

「やめろ」

「すいません」

「味覚的にではなく性格的に甘いわ。あんたとはもう、何ていうか、こう、ちょっと親しくなり過ぎたというか、情が移っちゃったというか。そんなこんなでよっぽどじゃない限り、攻撃しようとは思わないのよ。上から強く言われればその時は分からないけどね」


 まだ会って一週間なんですけど…。

 確かに、(地元に)友達のいない俺から見れば、既に親しい人間と言ってもいいのかもしれないけどさ。


「枕も何だかんだ甘いところもあるのよね。基本的には気分次第な奴なんだけど」


 危ない奴だな…。


「でもね外喰。今、あんたに目を付けてる奴がいる。そいつはやばい。どのくらいやばいかというとかなりやばい」

「結局ぼやけてんじゃねえか」

「異能の力こそ大したことないけれど、それより何より人格がやばい。あいつは加虐嗜好主義者よ」

「はあ?」


 加虐嗜好主義者……。つまり、サディストということか?


「というより、快楽殺人者ね。シリアルキラー。『繁栄派』が暴力的な組織である事は否定しないんだけど、それでも、必要以上に人を殺したがる。血と恐怖が好き過ぎる。本来歴史の闇に葬られるべき異端者よ」

「殺し屋とかってわけじゃないのか?」

「違うわ。どちらかというと、殺し屋は枕の方ね」


 うわあ。

 聞きたくなかった……。

 というかあいつは『勧誘班』じゃないのかという疑問があるが。


「『勧誘班』『戦闘班』と分かれてはいるけれど、まあこんな組織だから、肩書きや役職なんて曖昧なものよ。枕より弱い『戦闘班』だっていくらでもいるわ。ちなみにそいつは私と同じ『戦闘班』。戦闘以外では使い物にならないからね。相手を殺してしまうから」

「洒落になってないぞ、そいつ」


 とんでもない奴がいたもんだな。

 しかし、よりにもよってそんな奴に目を付けられるとは。運の尽きという事だろうか。


「殺人鬼が俺を狙ってる事は分かったけども、お前、わざわざそれを教えに来てくれたのか?」

「そうよ。いくら超回復持ちでも、変身してない状態で首を刎ねられたら死んじゃうでしょ?」

「死ぬ。それは死ぬ」


 変身してても死ぬと思う。


「それにあとほら、『繁栄派』内であんたのこと強い強いって言って回ったの………私だし……」

「あ」


 そういえばそうだった。

 こいつ、俺に返り討ちにされた後アジトに戻って激しかっただの速かっただのとのたまったらしいのだった。

 おのれ余口初古。


「だからその、罪滅ぼしというほどのものでもないけど、罪滅ぼし。べつにあんたは現状敵に近いし、殺されたところでどうということもない筈なんだけどね。でもそれでも、あんたに死なれたら私の気分が悪いから。助言をしたわ」

「俺が死んだらお前のせいな」

「だからごめんって言ってるじゃない!」

「ごめんとは言ってないだろ」


 言ってないな。言ってはない。


「……まあ正直、今回の件に関しては、私個人はあんたに協力してやりたいところなわけよ。だけど、あんたに味方するっていうのはもうそのまま『繁栄派』を敵に回すことになるから、それはできない」

「お前が、俺を襲う前にそいつを無力化しちまえばいいんじゃないのか?無法集団の『繁栄派』だ。仲間割れが全くないってことはないだろ」

「確かに仲間割れはよくあるわ。喧嘩だって仲間内でよくしてる。でもね、だけれど、それでもよ。私は仲間は殺せない」

「………………」


 べつに殺せとまでは言ってないが。

 初古は優しい。というか甘い。本当に甘ったるい。甘々のたるたるだ。それこそストロベリーパフェよか甘いのかもしれない。実際のところどうなのか分からないので、それについては今度確かめてみるとして。

 会って一週間も経っていない、俺のことを。

 一向に『繁栄派』に入ろうとはしない、俺のことを。

 殴る蹴るの暴行に加えて散々セクハラをした、俺のことを。

 助けたいと思っている。


「なあ初古」

「…何よ」

「お前、『繁栄派』向いてないんじゃないか」

「聞き飽きたわ、そういうの。向く向かないの問題じゃないのよ、もうね。私は絶対的な破壊者でしかない」

「俺にどつき回されて泣いてるくせにか」

「うるさいったら!…とにかく、平凡ではいられないのよ。悪ぶってる自分に酔ってるのかもしれないけど、今はここしかないの」

「なあ、絶対的な破壊者って、お前のキャッチコピー?」

「ねえ外喰、あんた私のこと嫌いなの…?」


 嫌いじゃない。嫌いじゃないが。

 何だか泣かせたくなるタイプだ。自分で泣かせて、その泣き顔を拝みたいタイプだ。

 だから俺が死んで、こいつが泣くようなことがあれば。その顔を俺は拝めない。

 死ぬわけにはいかなかった。

 快楽殺人者に、殺されてやるわけにはいかなかった。


「まあ、助かったよ初古。俺はそのサディストに気を付ける。変な性癖に目覚めるわけにはいかないからな」

「う、うん。そうね。あんたが目覚めたら取り返しが付かなさそうだものね」


 俺は席を立った。


「そういえば初古。そのパフェの上に乗っかってたその葉っぱ。お前は避けてるけど、食べられるんだぜ」

「そうなの?飾りだと思ってた」

「飾りは飾りなんだけどな、一応、味付けがされてるんだよ。一緒に食べても甘さを損なわないように甘い味がするんだ」

「へえ、そんなんだ。知らなかった!」


 初古は、にっこりしながらそう言うと、紙ナプキンの上に避けられていたミントをつまんで、口へと運んだ。


「ぅうっへぇ!ぶへえ!にっが!苦い!苦いいいい!」


 緑の生ごみと化したミントが、初古の口から元気に飛び出した。

 たぶん、もう口が甘い口になっていたのだろう。

 幼い頃、両親にプリンと詐称されて茶碗蒸しを食べされられた恨みを、俺は初古に八つ当てた。


「ちょっと外喰!何よこれ!何よこれえ!」

「ミントだよ。俺ちょっとトイレ行って来るわ」

「あ、こら!待ちなさい!苦いんだけど!口の中から奉仕活動の時の味がするんだけど!というか雑草臭いんだけど!」


 そんな初古の言葉には目もくれず耳も傾けず、俺はファミレスの出口へと向かった。

 任せようかとも思ったけど、一応、金だけは払っておいたので、俺が悪く言われることは何もなかった。











 土曜日。

 基本的に土曜日と日曜日は学校が休みなので、(地元に)友達がいない俺は、フリーだった。いわゆる一つの自由を手に入れていた。持て余していた。

 最近仲良くなった14歳年上の人がいるが、あの人も仕事をしているらしいし。先週連続であったので向こうも土日は休みなんだろうけど。『粛正派』の活動とかもあるかもしれないし。そもそもそんなに仲がいいわけでもないし。予定を聞いて今日は埋まってますなんて言われたら、俺はもう二度と連絡をしないかもしれない。

 ようは、つまり。

 周りからの連絡を待ってそわそわしている気持ち悪い俺だった。

 ……というのも今日以外の話で、今日に至っては、そんなことはなかった。

 先ほど初古に聞いた俺を狙っている(性的な意味でない)奴のことが気になるのだ(恋の始まりとかではない)。

 もしかしたら、遠くから狙撃されるんじゃないかとかも考えたが、シリアルキラーなのであれば、直々にその手で殺しにくるだろう。

 もちろん殺されるつもりはないが、家で血生臭いことをされるのは勘弁してほしいので、家に帰るつもりもない。

 当てのない散歩を満喫していた。

 当てのない散歩を満喫していた。筈だったのだが、俺はツタヤへ入っていた。どうしてと聞かれても、たぶん答えられないだろう。答えも分からぬままに、もう入ってしまったのだから。

 人生は戸惑いの連続である。


「ん…?んん……?」


 違和感を覚えて、小さく唸る。そんな土曜日。

 ここのツタヤは、DVDやビデオ、CDと、ゲームを扱っている。

 ゲームコーナーの一角には、試遊台が設けられており、土曜日の日中ともなれば、子連れの親の連れの子供、というか、親連れの子供たちが集まっている。

 同じような身長の子供たちが並ぶ中、一際大きな人影を見た。

 星山ヶ城専門学校、イラスト科2年生、九里古里千切である。

 子供たちに混じって、試遊台でゲームをしている。後ろに子供が並んでいる。恐らくは、前にやっていた子供がどくのを待っていたのだろう。大体の場合、こういう場では一回ゲームオーバーになるまでか、あるいはステージを一つクリアしたところで交代というのが暗黙の了解だ。暗黙の了解だが、もちろん子供はそんなことは知らない。飽きるまでやる。九里古里は、だいぶ待たされたんだろうか。口元が緩んでいる。ほころんでいる。にやけている。

 若干引いた。

 九里古里千切と俺は、決して親しい仲ではない。もちろん同じ学校で、同級生だということは知っているが、だからどうということはない。知っているだけだ。話したことは、まあ、あるが。たまに俺の学科とイラスト科は授業を共同で受けることがある。その時、もう内容も忘れるほどの、何のことはない、一言二言の会話をしたというだけだ。知っているだけなのだ。

 知っているだけの彼女に何故一目で気が付いたかといえば、それはまたもカラータイツを履いていたからである。べつに、彼女以外のカラータイツも当然見たことはあるのだが。それでも、初めて意識したカラータイツが彼女の物だったので、カラータイツイコール九里古里千切という認識になってしまった。タイツ九里古里。

 ちなみに上はボーダーの長袖シャツで、下が、ええと、何だったっけ。あの衣類の名前が何だったっけ。忘れてしまった。聞いたことはあるんだけど、名前を忘れてしまった。あの、あれだ。パッと見スカートに見えるけど、実はズボンでしたっていう。残念でしたっていう。いや、俺としては全然残念じゃないんだけど。ホットパンツよりもそれの方が好きなくらいなんだけど。それというのも、やはりホットパンツは程度としてはかなり際どいものなのだが、窮屈なのだ。それ以上の見込みが薄い。ないわけではないが、薄い。そのあれは、何というかこう、ゆとりがあって。スカートではないが、ふんわり感があって。ひょっとしたら見えるんじゃあないかっていう希望を与えてくれる。

 名前なんだっけ。


「………なあ、九里古里」


 話しかけてしまった。

 九里古里が肩をびくっと揺らしてこちらを見る。


「あ、あれ?外喰くん?こんにちは」

「こんにちは。お前、何してんの?」

「今日は外喰くんも知っての通り、お休みだからゲームを…」

「何でわざわざ試遊台でゲームしてんだよ…。家でやればいいだろ…」

「ニンテンドーWiiUは高いよ……バイトもしてない専門学生の私にはとても手が出ない。しかしどうしたの外喰くん。私はアルフとブリトニーを探さなくちゃいけないんだけど…」

「何でお前はこの期に及んでピクミン3を続けようとしてるんだ。俺もべつに用があったわけじゃないけど、奇遇だしせっかくだから歓談をしようという気になってもいいんじゃないのか」

「いやいや、歓談をしようという気はあるよ。でもピクミン3をやめるつもりもない。どちらか一つだけしか選べないなんて、外喰くん、こんな世界でいいの?」

「お、おう…。そうだ九里古里、ちょっと聞きたいことがあったんだけど」

「何かな?私はイラスト科だから、外喰くんとは宿題の内容は違うと思うよ?」

「ううん、そんなどうでもいい話じゃないんだ」

「重大な話があるのかな?聞こうじゃないか。君の疑問は一体なんだ」

「お前がはいてるそれ、何ていうんだっけ?」


 唖然とされた。俺だってお前を見つけたときは唖然としたものだよ。というか子供たち待ってんだから俺の質問に答えながら早くピクミン3を進めろよ。

 俺の顔をしばらく見つめた後、自分の下半身に視線を落とし、また俺の顔を見る。


「……タイツだよ?」

「ああ違う。そっちじゃない。タイツは知ってる。そのスカートみたいなやつ」

「あ、ああ、何だ…。外喰くんはタイツの存在を知らないのかと思ったよ。ひやひやしたよ。でもなるほどね、君は、こいつの名前が知りたいんだね」


 何だか芝居がかった喋りをする奴だなあ。

 きっちり話したことはなかったけど、変な奴なんだなあ、こいつ。


「教えてあげるよ。私がはいているこれは、キュロットっていうんだよ」

「カカロット?」

「キャロットとは言ってないよ外喰くん。キュロット」

「ああ、キュロットねキュロット。聞いたことあるわ。すっきりした」

「でも、どうしてそれを?」

「あ、いや、ちょっと気になっただけ」


 九里古里千切は、ボーダーの長袖シャツに、キュロットをはき、その下にカラータイツを身につけている。

 完璧な描写だった。


「外喰くんと話してたら、子供が私の足に蹴りを入れ始めたんだけど。外喰くん、キュロットの名前を教えたお礼と思って、子供たちを説得してくれないかな?」

「お前の時間をとったのは悪いと思うけど、そこはお前が素直にどけばいいんじゃないかな」

「私が諦めたらアルフとブリトニーはどうなるの……?」

「後ろの子供たちが探してくれるよ」

「そんなことをして子供たちまで迷子になったらどうするの?外喰くん責任とれるの?とれないよね?」

「うるせえ。お前が思っている以上に次の世代は優秀だから安心しろ」

「優秀だからってまだ子供なんだよ?あまりプレッシャーをかけてはいけない。さっきカカロットの話題が出たからってセル編の悟空みたいなことを言い出すんだね?」

「聞き間違いボケを伏線みたいにすんな」

「ともあれアルフとブリトニーは私が助けはあんっ!」


 またも九里古里の体がびくっと震えた。

 後ろの子供がとうとう痺れを切らしたようで、その両手を組み合わせ、人差し指と中指をそれぞれ立てて、九里古里の肛門目掛けて射出したのだ。

 通常であれば人差し指2本を使うものを、人差し指と中指の計4本。四輪挿しである。荒削りではあるが、力強いよいわざだった。

 しかしこの技は、下手をすると危険が及ぶ。刺す側は突き指あるいは骨折。刺される側は痔、最悪尾てい骨を骨折する恐れがある。大変危険なので、大人になったら本気でするのはやめようと俺は思いました。


「……大丈夫か九里古里」

「だ、大丈夫大丈夫…。ちょっと出たかもしれないけど大丈夫…」

「何が?」


 九里古里は、よろよろと試遊台の前を離れた。

 ゲームコーナーから離れて、ちょっと話でもしようと思い、俺は立ち話をしても邪魔にならなそうな場所を探した。

 ゲームコーナーはやはり子供がよく通るし、CDコーナーもやはりよく人が通る。洋画は当然人気だし、古い邦画も見に来る人はいる。ホラーはそれこそ人が多いし、アニメコーナーもやっぱり人が多い。

 気付くと俺は、同級生の女子をアダルトDVDコーナーへ連れ込んでいた。


「外喰くん、誘ってるの?それとも、カスなの?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!言い訳をさせてくれ!」


 休日の昼間のアダルトDVDコーナーは、空いていた。たまたまかも知れないが、この時は確かに、空いていたのだ。


「俺は人気ひとけのない場所にお前を連れ込もうとしただけなんだ!」

「私は今日一日で前と後、両方の純潔を散らすことになるのか…」

「お前の初めてさっきの子供かよ…。いやいや違う違う。違うんだって。俺は立ち話をしていても邪魔にならなさそうな人気のない場所を求めていただけなんだって。それがたまたまここだっただけで」

「会話の流れのせいか、『立ち話』と『求めて』と『たまたま』がいやらしい単語に聞こえるよ」

「お前人のこと言えないよなっ!」

「人のことなら何とでも言えるよ。人のことだもの」


 しかし。

 九里古里をアダルトDVDコーナーに連れ込んだところで、特別話す内容があったわけでもない。

 というわけなので。


「なあ九里古里、奇遇にも休日出会ったことだし、井戸端会議といこうぜ」

「破廉恥な井戸があったもんだね」

「エロは老若男女万国共通だろ。あまり仲良くない俺とお前でも、そこそこ盛り上がるよ」

「外喰くんがそんな人だとは思ってなかった。遠目に見て、感じのよさそうな人だなって思ってた」

「すいませんでした九里古里さん。許してください」

「許すも何も怒ってないけど。ちょっとイメージと違っただけで。まあ想定内だよ。気にしないで続けて」

「この女優、お前に似てない?」

「絶対に許さない!」


 首を絞められた。

 危ない危ない。殺人事件が起こるところだ。

 正直者は馬鹿を見るとはこのことか。理不尽な世の中だ。

 ゲームコーナーで九里古里は、こんな世界でいいの?と聞いてきたな。さっきは曖昧な返事をしてしまったが、今ならはっきりと言える。


「九里古里」

「ん?」

「やっぱり俺は、こんな世界じゃ満足できない」

「そ、それは…DVDじゃ満足できないから今この場で犯してやるという意味でしょうか……」


 たいへんへんたいな誤解を受けた。

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